第1話 イケメン健太郎
「あ、あの、ありがとうございます……」
ツノザルと戦っていた少女は健太郎のすぐそばまでくるとお礼を言った。
遠目で見ていたいときは気づかなかったが、かなりの美少女だ。小柄で大きな瞳が愛らしい。
異世界人が見た目どおりの年齢とは限らないが外見から受ける印象は十代前半といった所だろうか。
おかっぱのような髪型がより幼いイメージを与えているのかもしれない。
上半身には革っぽい鎧のようなものを着用し、ひざ丈のスカートを着用。剣を背中に背負っている。
「……いえ」
少女の感謝に短く答える健太郎。
「おかげで、その、助かりました……」
「……そうですか。良かったです」
少女の声はだんだん小さくなっていく。表情も固い。
ツノザルと戦いで負傷した様子はないが、バトルの恐怖というか、精神的ダメージのようなものが残っているのだろうか。
「……あのぉ」
「……はい」
「あ、いえ……その……」
「………?」
少女は健太郎の方を見ようとして、すぐ顔をそらしてしまう。
お礼は聞いた。
しかしまだ何か言いたいことがあるように思える。
健太郎が黙って少女の言葉を待っていると……
「……おい……おい! 健太郎!」
「はい?」
魔剣姿のアアアーシャが小声で話しかけてきた。
「オマエ! 感じわりぃぞ!」
「……は? 僕はこんな感じですよいつも」
「この嬢ちゃん、何か言いたいことがありそうだぜ」
「そうですね」
「なのにオマエがそんな態度じゃ言いにくいだろ! 嬢ちゃんも萎縮しちまってるじゃねーか」
「ええ……」
健太郎の顔の造りは決して悪くない。むしろイケメンの部類で、本来は相手に恐怖や嫌悪感を与えるような見た目ではない。
しかし長い労働時間と足りない睡眠時間のせいで充血した眼に深いクマ、髪もボサボサで顔色も酷い。
さらには感情がこもっていない、精気も感じられないような声で話された日には印象最悪である。
愛想がないとか感じが悪いどころではない。正直怖い。
少女が萎縮しているのもツノザル戦で精神的ダメージが残っているとかそんな話ではなかった。健太郎が怖いのだ。ぶっちゃけ引き気味なのだ。
助けてもらったという恩義が少女の足をこの場に留めているだけで、本当はさっさと立ち去りたいのかもしれない。
「……そんなこと言われても……それならアアアーシャさんが聞いてあげてください」
「剣がしゃべったらこの嬢ちゃんがビビっちまうかもしれねーだろが!」
この魔人、いちいち派手なので豪快に感じるが実は細やかな気遣いもできるようである。
しかし剣と魔法の世界の住人が、剣がしゃべったくらいでビビるのかは疑問に思う所だ。
「……それなら魔人の姿になったらどうです?」
「あぁ、そりゃそうだな! よっと!」
「……あ」
アアアーシャは健太郎の手から離れると、また人の姿に変身した。
「はっはっはーー! アタシ様こそが魔剣の……」
「はわ! はわわわ! 剣が女の人になった!?」
盛大に驚く少女。
少なくとも剣が人間の姿になるのはこの世界でも普通ではないらしい。




