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堕ちる雫  作者: 八つの蜜
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episode.4 真意

依頼から帰還後、まだ眠っている彼女がタイミングよく目を覚ました。以降、俺の後ろにしがみつき離れようとしない。


「お!起きたみたい」


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


「…」


紘、麗央が近づいてくると魁斗の後ろにさっきよりも強くしがみつく。そして話してくれない。


「やっぱり懐かれてんじゃ〜ん」


「だな」


「と、とりあえず質問していい?」


「…」コク


依然彼女は後ろにへばりついており彼女の頷きで話を進める。


「名前は?」


(しずく)…」


「ご両親は?」


「分からない…」


「何であそこで倒れてたの?」


「分からない…」


彼女から入手できた情報は名前だけ…他の情報は分からない。隠したい、後ろめたい過去があるわけでは無く、これは本当に分からないのだろう…


「おじさんどうするの?」


「ん〜そうだな…俺も個人で探ってはみるが、それまでは魁斗、お前がその子の面倒を見ろ」


「………は?」


「お前以外、誰にも着いて行かんぞ〜実際起きてお前から一切離れないんだからな」


「いやいやいや、おじさん知ってるでしょ?」


「この際だ、お前もその女性が苦手なの克服したらどうだ?」


(おじさん簡単に言うけど結奈さんと普通に会話するにも半年くらいかかったのに…それをいきなり同棲って…)


「ま、頑張ってくれ(面白くなりそうだ)」


「おい、何だそのルビは」


「…」スン


そんなこんなで、俺と雫の奇妙な同棲生活が始まった。記憶喪失なのか、単に話したくないだけなのかまだ判断しかねるが徐々に打ち解けられたらと思う…いつになるか分からないが。



彼女を預かる初日、家にいるのだ。何かできないと暇だと思うし…そう思い、家事をさせてみたのだが…


料理ではダークマターを作り出し、洗い物では必ずと言って良いほど食器を割り、洗濯では洗剤の量を間違え泡だらけのまま家の中に干そうとするなど…唯一、普通に行えた家事といえば掃除くらいなものだ。(掃除機をかけるだけ)


「はぁ…」


疲れた。本当に…


「ごめんなさい…」


「怒ってるわけじゃない」


「…」


「人には向き不向きがあるからこれから慣れていけば良いんじゃない?」


「ん…」


素直な子。彼女と数時間過ごし分かった事。多分他にも知らない事って言うのは沢山ある。


「もう遅いし寝よう」


「ん…」


「とりあえず必要なものは明日買ってくるとして、今日は俺がソファーで寝るから雫は俺のベット使って」


「…」ヒシッ


「………何…??」


「一緒に…」


「?????」


確認の為、自分の顔と雫の顔を交互に指差す。


「…」コク


「いやいやいや、何故?」


「お願い…」


震える彼女の肩は“助けて”そう叫んでいるように見えた。

憶測だがもしかしたら彼女は安心できる場所が無かったのではないか?だから安心できる場所を求め彷徨い、疲れ、あの細い路地に倒れていたのではと…


「分かった…」


二人でベットに入る彼女は俺の方へ向き俺は彼女とは反対方向へと体を向ける。数分後、彼女はスウスウと可愛らしい寝息をたて始める。俺もゆっくりと瞼を閉じた。



案の定、昨日は眠れなかった。あれから寝よう寝ようと思っていたがそれも出来ず、気づいたらほぼ夜明けの状態。その後朝食の準備、お昼のお弁当、雫用のお昼ご飯などを作る。起きてきた雫に色々説明した後、学校へ向かう為家を出る。


「はぁ…」


(あいつ…一人で大丈夫かな…)


「眠そうだね」


「委員長…」


話しかけてくるボブ丸眼鏡のこの人物、名前を誰だっけな…まぁ委員長でいいか。実際学級委員長だし。

人と関わらない俺を心配しているのかいつも話しかけてくる。


「昨日遅くまで起きてたの?」


「関係ない」


ガラガラガラ…


「おはよう!みんな席について〜出席とるから」


開いた扉から先生が入ってくる。いつも元気な先生だ。


「じゃ、授業で居眠りしないようにね」


そう言い残し彼女は皆と同様自分の席へと戻っていった。


1時間目、2時間目、3時間目…順々に時間は過ぎていき、気がつけば放課後となっていた。


俺は早々に片付け鞄を持ち家へと向かう。


「あ、まぁ明日でもいっか…」


魁斗が去る教室で彼に話しかけようとした委員長の櫛笥小夜(くしげさよ)。彼に頼みたい事があったようなのだが、忙しなく動く彼を止めようとは思わなかった。



「ただいま」


「おかえり…」ヒシッ


「いや、何故?」


両手を上に上げる。帰ってくるなり引っ付いてくる彼女の真意はまだ理解できない。




彼女と共に時間を過ごし、3日が経過した。少しづつ、少しづつだが会話も増え、心を開いてくれてるように感じた。


あれからと言うもの彼女が何故、こうもくっ付きたがるのか?それの理由を話してくれた。


「寒くて、もうダメって時に助けてくれた。私は貴方だけしか頼りがない…貴方が居ないと、不安で…ごめんなさい…」


「謝ることじゃないでしょ…」


彼女を助けたのは俺だ。なら最後まで責任を持って助けよう。そう心の芯に誓った。


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