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堕ちる雫  作者: 八つの蜜
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episode.22 行先

真季波家へと帰還し、帯人を緊急手術するため凪、結奈が一室へと入った。

数時間の手術時間を経て、2人が部屋から出てくる。


「とりあえず一命は取り留めたけど、危険な状態に変わりはない…」


「良かった…」


一室の前で待っていた魁斗、紘、麗央、静恵、守人は安堵の声を上げる。


「蜜璃が居ないのおかしくないか?帯人が危険な状態ってこと分かってるだろ?」


蜜璃が居ない事、それに疑問を感じていた。守人はそれを声に出した。


「まさか、帯人がこうなるって分かってて姿を消したって訳じゃないよな?」


「っ…」


「おい、守人!」


「守人言い過ぎよ…」


唇を噛む結奈。それを庇うように麗央、静恵が守人に抗議する。


「そう思われても仕方ないだろ?実際、お前たちが洞窟へと乗り込んだ時、転移してくると分かってたように妖魔の大群が待ち構えてたんだろ?」


「守人、何が言いたいんだお前?」


紘が守人を睨みつける。それを鼻で笑い守人は話を続ける。


「何が言いたい?分かってるだろ?蜜璃は裏で妖魔達と繋がってるんじゃ無いかってはー」


ドガガガンッ…


守人がそれ以上言葉を発さないように麗央は殴りつける。その攻撃を受け、守人は吹き飛び部屋の扉を壊しながら中庭へと突っ込んだ。


「イッテェな」


麗央の拳は守人の顔に確かに命中した。だが守人は傷一つ付いては居ない。本気でないとはいえ異常な耐久である。


「麗央!」


紘が麗央を止めに入ろうとする。


「うるせぇ!!!黙って聞いてたらなんだ?蜜璃が俺たちを裏切ってる?この特課を帯人と共に立ち上げたのは蜜璃だぞ!妖魔による被害を受けた人たちが少しでも笑って暮らせるようにって願ってた奴が裏切る訳ないだろ!!!」


「なら何でこの緊急事態の時に居ないんだよ!」


「もうやめてください!!」


2人の会話を静止したのは車椅子に座る結奈の声だった。静恵は驚いていた。普段物静かでおおらかな結奈が声を荒げた為だ。


「口止めされてました。でももう我慢できません!兄さんが裏切る?何処まで人で遊べば気が済むんですか!!」


麗央も、言われている守人すらもポカンと口を開ける。


「兄さんは今の自分の力じゃ帯人さんの助けになれないからそれを分かっているからここを離れたんです!」


「じゃあ今何処にいるんだよ」


少し息を整えた後、結奈は語り出す。


「No.7の妖魔、生誕・前の所です。彼は兄さんと私の育ての親でもあり、兄さんの力、異能を削いだ悪き妖魔です」


この場にいる全員が固まり驚く。蜜璃が異能を削がれていた事、それがNo.7の妖魔によるものだと言う事、そして何より…


「結奈ちゃんと…」


「蜜璃さんが…」


「「「妖魔に育てられた…?」」」


驚くのも無理はない。妖魔に育てられた人間なんてこの世で2人だけだろう。まず、妖魔は人を食らう。なら見境なく襲うのが普通である。

それなのに、育てた。


結奈は語り出す。


森にある寂れた研究所で活動する研究者だった生誕。異形な姿をしている為、表立って活動できなかった。いつものように研究に没頭していると、木々の間を縫って鳴き声が聞こえてきた。その声をたどると森に捨てられた生後間もないであろう双子の赤子を見つける。


「それが私と兄さんです」


何を思ったのか生誕は私たちを育て、知識を授けた。そして私たちが10歳になる時、兄さんは異能の力が覚醒しました。その日の内に奴は兄さんの異能の力を削いだ。

兄さんの今の異能は「侵食」ですが、力を削がれる前は“幽閉者”と遜色ない力を持っていました。

奴はそれを恐れたんだと思います。そして私たちはまた捨てられました。


「私と兄さんの昔話は終わりです。口止めされてたんですけど、守人さんの話に少しカチンと来ちゃいました…感情は思い通りになりませんね…」


「ごめんなさいね結奈。過去を話してくれてありがとう」


静恵は結奈をそっと抱き寄せる。結奈は堪えていた涙が溢れたようにだだ泣いていた。



山の草木を掻き分け森を進んだ先にある寂れた研究施設。そこは以前俺と妹が奴と暮らしていた忌まわしき記憶の残る場所。


「オヤ?ヒサシイカオダナ」


「俺はできれば二度と見たく無かったがな。まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に言う。お前が俺から削いだ力を返せ」


「コトワル。アレハオマエニハスギタシロモノダ」


「なら力ずくだな」


「イマノオマエニデキルカナ?」


生誕は自身の腕から体液を蜜璃へと飛ばす。飛ばす直後周りのあちこちにも被弾しその体液の当たった物全てが煙を上げながら溶ける。


(ここまでは想定通りだな)


蜜璃は生誕が大人しく話に乗るとは思っていない。ここからは想定通りプランBである。


神夜(かぐや)!」


「はいはいっと」


「!?」


研究所の屋根から中へと入り体液を体で受け止める。


「オマエニハ…?」


「協力者ですよ〜。帯人さんの為に尸楼(かばねやぐら)命明神夜(めいめいかぐや)。助太刀します」


闇に紛れるかのような黒い服に身を包んだ女性。コンクリートや研究所内の鉄の壁をも容易に溶かすその体液を体で受け止めたにも関わらず、傷ひとつ、埃一つ被っていないその姿は奇妙であった。


「カバネヤグラネ…」


その女性、ウェイトレス?いや、闇夜に紛れる暗殺者…

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