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堕ちる雫  作者: 八つの蜜
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episode.1 雨降る日

高校が終わり、早々に帰宅準備をし俺が向かった先は特務警察課ビル。そこは1階が図書館となっており受付へと足を進める。


「お疲れ様です」


「あら、お疲れ様です。今日はお早いですね」


珍しい金色(こんじき)碧眼のこの人は江東結奈(えとうゆな)さん。特課の受付をしてくれている人で普段は図書館の司書の仕事をしている。足が生まれつき悪いらしく、車椅子を使い生活している。


「始業式だけだったんで、上あがりますね」


そう言い受付の横にある階段を上がる。階段を登り突き当たりの扉を開くと中には一つの会社のような風景が広がる。


「おつかれ〜今日は早かったね〜」


この椅子の背にだらんともたれかかっているこの人は空道紘(くうどうひろ)さん。だらしないがそこそこ頼りになる人だ。


「始業式なんですよ、今日は紘さん一人ですか?」


麗央(れお)は街の巡回、蜜璃(みつり)は付き添い〜帯人(たいと)さんはお偉いさんに呼ばれてたかな〜」


今名前の出た3人も特務警察課、特課のメンバーだ。そして特課には後2人のメンバーが居るが今は別の任務で出張中だ。


椅子に座り一息つく。おじさんが居ない今、依頼なども無いだろう。


そう思い自身の椅子に腰掛けるが、その平穏はすぐに騒々しく移り変わる。


「うぃ…お!なんだもう来てたのか魁斗」


「おじさん」


事務所のドアが開け放たれ顔を出した人物は鹿目帯人(かなめたいと)。特課の実質的最高責任者で実力もあり、魁斗の保護者兼師匠である。


「帯人さん乙〜」


「紘はいつも通りだらけ切ってるな…と言う訳で魁斗、お前にはこの依頼をこなしてもらおうかな。あ、終わったら連絡して直帰でいいから」


帯人は鞄からファイルを取り出し、そのファイルの中に入っている紙を手渡す。


「はい、じゃあ行ってきます」


依頼書を受け取り、自身のロッカーから刀を収納した細長い袋を持ち肩に下げ、事務所を後にする。



依頼書に書いてある場所へと足を進める。その場所は古い神社のようだった。


依頼内容はこうだ。


《神社の中に保管されている刀、“忌避刀(きひとう)”を回収してきて欲しい。(神社の主からの承諾済み)》


特務警察課なんて名前だが警察のように事件を調査するのはほんの一部、殆どはこのような探偵が請け負う仕事ばかりだ。


神社の門を抜け、お堂へと歩みを進めるがその道中、空間が歪んだ。


(なるほど、承諾済みなのになんでこっちに依頼が回ってきたのか分かった)


恐らく、回収できなかったのだろう。こいつらのせいで。

空間の歪みから出現するその魔の名は妖魔。異形、人ならざるもの。知識を蓄え、強くなる。普通の人間なら太刀打ちすることすら叶わない化け物。


この灰色の個体に目は無く、顔と思はしき部位には血の匂いのする牙の生えた口だけがある。首がヒョロッと長く伸び、胴体は西洋の伝説に存在する幻想種、“飛竜”のような硬い鱗に前足と融合した大きな翼が生えていた。


肩に下げていた細長い袋から刀を取り出す。


村正(ムラマサ)


それは至上の業物。そして魁斗の愛用武器である。師は帯人であり、その意味とは恐ろしく強いである。


硬い鱗をも瞬時に切り裂き、片羽を地に落とす。

妖魔の奇声が辺りに響き渡る。


帯人は現代の剣聖と呼ばれるほど剣の腕が立ち、自身の持てる技術全てを魁斗に教えこましている。故にそこらの妖魔では魁斗に傷ひとつ、いや、かすり傷ひとつ、つけられないのである。


「“一心流”」


“居合・(なげ)き”


一心流は魁斗の我流であり、魁斗に最も合った流派であるに違いない。そして居合は魁斗が最も得意としている型である。


抜いた刀を再び戻し姿勢を低くし抜刀する。その一閃は妖魔の硬い鱗が覆う胴体を両断する。


(こいつ今、明らかに別の何かに気を取られていた…?)


雨が降る。雨の日は何かがある。そう感じずにはいられない。


辺りを見回し、気配を探るがその気を取られる原因(・・)は発見できなかった。本殿に入り依頼にある忌避刀を回収する。少しの間雨が上がるのを本殿内で待つが止む気配は無く、止むを得ず傘を差し外を歩く。


妖魔が気にするそぶりを見せた方角へと足を進める。その方角には住宅街があり、そこに気を取られていたのかもしれない…だか不可解なものは不可解なのだ。確かめずにはいられない。それが杞憂であったのならそれで良い。


住宅街を歩き、一周する頃には日が暮れ、夜の帳が下り始めた。雨脚も強くなる。

やはり杞憂のようだ。そう思い、帰路に着こうとした。


住宅街の歩道を歩く。街灯の灯りが足元を照らしふと家と家の間の細い路地に目を向ける。

紺のパーカーに身を包みぐったりとしている人を発見する。パーカーの濡れ具合を見、長い時間雨に打たれていたことが分かる。靴はなく裸足で傷だらけのところを見るに急いで走っていた?

いや、考えるのは後だ。


「大丈夫か?」


「…」


(返事がない…息はある。とりあえず事務所に…あ、連絡忘れてた…)


その人を背負い走る。体に触れると体温は冷たく、小刻みに震えていることが分かる。

そして重大な事が分かる。この人が女性であるという事を…

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