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堕ちる雫  作者: 八つの蜜
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episode.16 帰還者

「ちょっと!事務所があんな事になってるなんて知らなかったんだけど!何で教えてくれなかったの?教えてくれたらすっ飛んで帰ったのに」


紘が空間転移を使い、事務所前で鬼電をかけていた2人をこの屋敷へと移動させる。


「うぁわぁわぁ」


車椅子に座る帯人の襟首を両手で握りしめ持ち上げ前後に揺さぶるこの人物。名前を


静恵(しずえ)さん、怪我人ですからその辺りに…」


住永静恵(すみながしずえ)

北海道に出張していた特課メンバーの1人。髪を後ろで結り鋭い目つきが印象的な女性。


「結奈〜!!!何ともないの!?痛くない!?大丈夫だった??」


結奈を撫で回した後、抱きつく。

普段冷静な彼女だが女性(結奈)が近くにいるとこのようにデレデレになる。


「さっきよりも賑やかになりましたね」


「そうだね〜五月蝿いのが帰ってきたからね〜後2年くらい出張でも良かったんじゃない〜?」


「なんか言った紘?」


「こら紘、喧嘩を売ってはダメだ」


千手守人(せんじゅもりと)

北海道に出張していた特課メンバーの最後の1人。糸目とまではいかないが細い目で温厚な性格の男性。千手の家系で物作りが趣味。


見て分かる通り、紘と静恵は犬猿の仲である。静恵と紘がいがみ合う間に守人が入り2人を諌める。


「帰ってきて早々悪いが情報が欲しい。出張の詳細を聞かせてくれ」


帯人の号令に2人は反応し、ホワイトボードを使い説明する。


「私たちが北海道に出張していたのはご存知の通り爆発した研究施設の調査です」


研究施設

妖魔に対抗する為、武具などを生み出す研究をする施設。その為、武具や兵器、国宝など様々な物を取り扱っている。


「これは表の顔です。裏では非人道的な人体実験をしていたようです」


「俺たちが調査したのは爆発したあとだから痕跡からしか分かんなかったんだけどね」


「爆発の要因は人ではなく、襲撃による物だと思います。中からではなく外からの出火、破壊痕が確認された為、そのような見解です」


「痕跡から襲撃は数字持ちの妖魔だ。あれは兵器を持っても突破は困難な施設だからね」


「これで分かったな。北海道の研究施設爆発騒ぎは妖魔の仕業、その目的は“天の盃”の強奪。そして今回の特課事務所襲撃は北海道には無かった“天の盃”の場所特定の為、あわよくばこれからの行動の障害になるであろう帯人を始末したかったってとこだろうな」


蜜璃が全てを綺麗に纏めて話してくれた為、紘も納得の非常に分かりやすい話であった。


「相手がまだ“天の盃”を発見していないのは良い、だがそれも時間の問題か…情報確認の続きだ」


特課メンバー

行動可能組

魁斗、紘、蜜璃、静恵、守人

行動が困難

帯人(車椅子)、麗央(投獄中)


ホワイトボードに書き出す。特課のメンバーと数字持ちの妖魔の二つをそれぞれ見ながら改めて思う。


(手痛い…)


「これから数字持ちの妖魔との戦闘は避けられないと言うのに戦力が居なさ過ぎるな…」


「帯人さん、麗央の離脱が痛すぎるね〜…」


(ああ、あの筋肉ゴリラ(麗央)また投獄されたんだ)


「麗央が居ないのはそういう事ね」


「麗央は俺が何とかする。みんなは他に戦力になってくれそうな人達を当たってくれないか?」


「て言ったって当てはあるんすか〜?」


スーッ…


タイミングを見計らっていたかのように扉が開き、唯の父親である凪が部屋に入ってくる。


「凪さんが教えてくれる」


「妖怪の中で当ては幾つかあるんだけど手分けしてその妖怪達に頼みに行く感じになるね」


妖怪と人間が手を組んで妖魔を倒す。そんなおとぎ話のようなものが本当に起こりうるのか、甚だ疑問だが、今はそう悠長な事を言っていられる状況では無いのは確かである。


続けて凪は口にする。


「力になってくれそうな妖怪はぬらりひょん、三大怪異の口裂け女、八尺様、メリーさん、そして付喪神・神器(しんき)の5体だね」


ホワイトボードに書かれだす、力になってくれそうな妖怪達。連ねられた名前に魁斗は目を見開く。


大妖怪ぬらりひょん

数十年前に一度力のある者に祓われた後、地獄で穢れを落とした善性。今は山奥の古い寺院にて親が居ない子供や妖怪の子の面倒を見ている。


三大怪異

口裂け女

耳元まで裂けた口、逸話もあり力のある言わずと知れた怪異。


八尺様

白いワンピース姿の女性で驚くべき点は2メートルを優に超える長身。


メリーさん

怪異や妖怪達のコミュニティの仲介役であり、子供の姿であれどその頭脳は妖怪達の事なら知らない事は無いと言われるほど。


付喪神・神器

三種の神器と呼ばれる伝説の宝物に宿った妖怪。「幽閉者」である一体。


(幽閉者の一角。実際に会った事はまだ無い…)


「神器はどんな奴ですか?」


みんなが誰がどの妖怪に頼みに行くか相談している最中、魁斗は気になり凪の元へ歩み寄る。


「そうだね…天上天下唯我独尊って感じかな。全ての事において自分中心に考えてて、相手の事なんて二の次って感じかな」


「魁斗、編成こんな感じに決まったがどうだ?」


おじさんの呼びかけに返事をしてホワイトボードに書かれた編成を見に行く。


ぬらりひょん

静恵、守人


三大怪異


神器

魁斗、凪


屋敷で待機組

結奈、蜜璃、帯人



妥当であろう。静恵と守人は連携の取れたチームの為このまま、紘は1人で複数人を回れる為、神器には凪を連れていかなければ話が拗れる可能性がある為。


「麗央がいたら魁斗と行かせたんだが…魁斗頼んだ」


「はい」


だが、不満を持つ人物が1人…


「何で俺が1人ッ!?おかしんいじゃん!!」


「ぷっ、まぁせいぜい1人で頑張りなさい」フフフ


「あぁん?」


笑いを堪えきれず声を漏らす静恵に紘は突っかかる。


いつか見たような光景に安堵しながらもこのいつ妖魔が仕掛けてきてもおかしくは無い緊迫した状態を脱却する為、魁斗達は向かう。



魁斗達が早々に出た直後、待機組に属する蜜璃は帯人へと寄り問う。


「言わなくて良かったのか?」


「ああ、あいつには余計な事を考えさせる時間を与えてはいけないからな」


(だから、早々に事に当たらせたんだろうな。だが…)


蜜璃は縁側に腰をかける。帯人は車椅子でその横に着く。


「すまないな、お前には迷惑をかける。辛い役回りを押し付ける形になる…」


「全くだ。帰ってきた魁斗になんて言われるか分からんな」


「殴られるかもな」


「お前他人事だと思ってな…まぁ、それも良いかもな…俺の力が…」


「お前のせいじゃないさ、俺がここまで読めていなかっただけだ。不甲斐ない俺の責任だ。だからせめて後押しになるよう最後まで力を振るおう」


蜜璃は横目で帯人の顔を見る。彼のその横顔は覚悟を決めた男の出立であった。故にそれ以上の問答は無かった。


沈黙を貫く彼の背中には偉大なる男の手…

ちょい足し



「あ〜ん!!この子が帯人さんが言ってた保護した子ね!!!」


雫を見た瞬間、守人の横にいた彼女は瞬間移動でもしたかのように瞬きの間に雫に抱きついていた。


「は、初めまして雫です」


彼女も驚いてはいたが、結奈との特訓(人慣れ)の成果もあり、挨拶ができるようになっていた。(女性限定)


「あん、声も可愛い!!」ギュ


「声初めて聞いた(な)…」(紘、帯


「え?紘達この子保護してるんじゃなかったの?」


「一言も話さないんだよ、だから今までは懐いてた魁斗の家に…」


情報が帯人から抜き取られた為、魁斗の家も安全とは言えなくなった。


「へぇ〜なるほどね〜…」


守人はその話を聞き目を細めながら魁斗を見る。それを察知し魁斗は「な、何ですか…?」と声を出す。


「別に〜何も無いよ?」


絶対“何も無い”って事が無いと言い切れる自信が魁斗にはあった。この人がこのような受け答えをする時は大体何かを企んでいるからだ。

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