背後霊の交差点
渋谷のスクランブル交差点。
その交差点を一人、静かに眺めている少年がいた。
学生服を着て、手には濡れたハンカチを握っている。そんな少年の背後には白いワンピースを着た少女が立っている。
「ん?」
少年の視線の先にいたのはただの女性。
しかしその女性の背後には、普通じゃない甲冑を来た武者の男が立っていた。
「あれは……背後霊?」
赤く染みていた少年の瞳は見開かれ、驚きを纏った様子で交差点を通る人々を見ていた。
道行く人々の背中には、それぞれ様々な背後霊がついている。
犬の背後霊もいれば、天を貫くほどの巨大な龍の背後霊もいる。お爺さんの姿をした背後霊もいれば、赤ちゃんの姿をした背後霊もいる。
悲しみにくれていた少年は、少しではあるが悲しみが緩和されつつあった。
「背後霊か。僕にもついているのかな……なんてね」
淡い期待を抱いていた。
振り返っても、そこには誰もいない。
「まあ、そうだよね」
少年は頭の後ろで腕を組み、交差点に背を向ける。
「面白いものも見れたし、帰ろうかな」
そう言って帰っていく彼の背中を、少女がついていく。
「お兄ちゃん、待って」
少年は振り返ったが、そこにはやはり誰もいない。
「気のせいかな?でも不思議と、一人じゃない気がする。そこにいるのか。妹よ」
「お兄ちゃん、私はここにいるよ」
少年の声が少女に聞こえても、少女の声は少年には届かない。
ーーそれでも
ーーそれでも
「そこにいるんでしょ。妹よ」
「私はここにいるよ。お兄さん」
ーーそれでも二人は繋がっている。いつまでも、いつまでも……