鍛冶屋の作る業物
春も近づきつつある季節の変わり目。
とはいえもう少し寒さは続くそうで、まだ暖かくはならない。
そんな中産業に出来そうなものとして考えていたものの試作品が出来たらしい。
それを見せてもらいにドワーフ達の作業場に来ていた。
「試作品が出来たのかしら」
「おう、試しに打ってみたぜ、どうよ」
「確かにこれは立派な業物だわ、流石はドワーフと言ったところね」
ドワーフに打たせていたのは包丁のようである。
確かにプロの料理人はいい包丁を求めていたりはするものだが。
「それにしても本当に見事だわ、これがドワーフの職人技なのね」
「つっても同じものをもう一つ作れって言われても無理ではあるけどな」
「そうなの?つまり素晴らしいものではあるけど、同じものにはならないのね」
「手作りのもんっていうのは基本的には微調整とかが大切だからな」
「つまりそっくりなものは作れても全く同じものは作れないって事なのね」
ドワーフのオルグ曰く鍛冶屋が作るものは基本的に同じものを再現は出来ないという。
それは注文に合わせた微調整などが必要だからであり、その辺の細かさが求められるからだ。
注文に合わせて作る事は出来ても、再現は基本的に無理なのだと。
「でもこういう業物を受注で作るのは立派な産業になりそうだわ」
「ただそういうのを求めてくるのは相手もプロの職人達だ、量産は出来ねぇぞ」
「平民や庶民からしたら安物でいいっていうのはあるものね」
「結局はいい道具っていうのは使い手も相応に優れてるってこったな」
「だからこそそういう人を相手にした産業も考えついたんだけど」
オルライト曰くこの手の産業はあくまでもプロを相手にしたものである。
お金があるからこそ買えるものを作るというのもそれはそれで面白い。
金持ちをターゲットにした産業というのもあってもいいだろうという事だ。
「でも試作品でこの完成度なら本腰を入れればもっといいものになりそうね」
「そういやたまにこっちに来るフユって子がいただろ」
「ええ、彼女が何か?」
「そいつ曰くニホンって国にはすげぇ業物の包丁があるらしいんだよな」
「へぇ、そんな事まで言っていたのね」
冬夕がドワーフに話したようでもある日本という国の包丁の話。
あまりによく切れるので、切れた事にすら気が付かないぐらいの切れ味なのだという。
世界の一流料理人が買い求めに来る包丁があるという話である。
「実際そんな凄い包丁が打てるの?」
「まあやろうと思えば出来るとは思う、いい鋼が手に入るならだけどな」
「それぐらいのものが打てるのならドワーフは本物だと分かるわね」
「ただ品質ってのはどうしても素材の品質も影響してくるからな」
「試作品の包丁ですらこの出来栄えなら素材は揃うんじゃないの?」
鉱石がよく採れる土地のハイランダーとの契約で良質な鉄や鋼は手に入る。
ドワーフ達はそれにより素晴らしい武具や装飾品を作っている。
また他にも機械の部品などにも回るので、たくさん使えるという事でもない。
「とりあえず注文さえ来れば作れるという事でいいのかしら」
「ああ、そこは問題ないぜ」
「ならこれも産業としては上手くいきそうね」
「つっても一つ一つ手作りだ、注文が多いとあとの方はどうしても時間がかかるぞ」
「そればかりは仕方ないわよ、上手く対応していくわ」
とりあえず完全受注生産でやっていくのは確定の様子。
ドワーフが打つ業物の包丁はどの程度注文が来るのか。
また他にも鍋やフライパンなどもすでに受注生産を受け付けていた。
「鍋やフライパンはすでに好評をいただいているから、包丁も売れるわよね、きっと」
「ドワーフの技術で鍋やフライパンを作らされるとは思わなかったけどな」
「でも評判はいいのよ」
「悪い気はしねぇが、まあ武具よりは求められるのかもな」
「評判はいいんだから、腕は認められてるって事よ」
ドワーフの作る鍋やフライパン、それらも好評だとオルライトは言う。
ドワーフにそうしたものを作らせるのは技術を理解しているからこそ。
実際好評をいただいているのだから、鍛冶屋は侮れない。
「とりあえず報告ありがとうね」
「おう、また何かやって欲しい事があれば出来る範囲で聞いてやるぜ」
「ええ、その時は頼むわね」
ドワーフの鍛冶の技術は調理道具にも活かされているという話。
完全受注生産でこそあるが、あくまでもそれでいい。
普段は街で使われるものや量産品を作るのが仕事だ。
工場を建てるという事がこれからの課題にもなりそうではある。




