表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/210

冬到来

季節は本格的に冬となり寒さが凍みる季節となってきた。

そんな寒い日でも機械が導入された事もあり室内は割と暖かい。

また暖炉も焚いているので室内は寧ろ暑いぐらいだ。

そんな寒い日に美味しいものがあるようで。


「あら、いい匂いね」


「お、領主様、以前フユちゃんに教えてもらったおでんが美味しい季節だよ」


「そういえばそんなものがあったわね、この季節はいいものだわ」


村の食事処で冬に提供しているおでん。


それは以前冬夕に教わり、いろいろ研究を重ねてきたものだ。


「あら?どこかで見た顔ね」


「おう、嬢ちゃんか、こんな美味いもんがあるならもっと早く教えろよ」


「あなたねぇ、そもそもおでんは冬にしか出さないのよ」


「そうなのか?もったいねぇな」


「それよりこんなところに入り浸って昼間からお酒かしら」


そこで遭遇したのは以前いろいろ教えてくれた元海賊の老人。

冬だからなのか、食事処に入り浸って酒を片手におでんを食べている。


すっかり気に入ったようで、すでに三皿ほど空けていた。


「それにしても働かなくていいの?」


「働いてるさ、さっきまで若い海賊達にいろいろ教えてたとこだ」


「そうなの?あなたも仮にも元海賊だから、同業者には慕われるのかしら」


「俺は慕われるような人間じゃねぇさ、経験を教えてたに過ぎない」


「経験ねぇ、あなたは海賊を辞めたのに真っ当に働くつもりはないの?」


海賊がそんな器用な生き物でないというのは分かっている。

その老人は自分はただの半端者だという。


かつて連れて行った海賊達の墓標、死のうとしても死ねなかった惨めな男なのだと。


「一応働いてはいるのは分かってるけど、サボりぐせはあるわよね?」


「流石にこの歳で無茶して体をやっちまいたくはねぇしな」


「またそういう、都合よく逃げるのだけは上手いんだから」


「そうだぜ、俺は結局はただの半端者だ、死のうとして怖気づいた意気地なしだ」


「…それはただ怖かったから?それとも気が変わっただけ?」


老人曰く海賊になる前は真っ当に生きていたという。

家族もいて、妻と娘がいたのだと。


だがある日娘が病にかかり、それを救ってやる事が出来なかったのだという。


「あなたは逃げる事や避ける事に慣れてしまった感じがするのよ、違う?」


「そうだな、海賊になった理由も家族を守れなかったから、力が欲しかったから、とかな」


「家族ね、海賊に堕ちる程度には貧しかったという事なの?」


「いや、そこそこの余裕はあった、でも俺には救えなかった、それだけだ」


「そして海賊になった、海賊になってからはそれなりに名を馳せた人になったと」


老人も海賊時代にはそれなりに有名な海賊だったという。

だが家族を失い、今度は仲間を失った、あの墓場に死に場所を求めて行ったのだという。


そこで見たものは老人に全てを悟らせた、それからは引き返しあとはこの通りだと。


「辛い経験をしたというのは分かったわ、それを否定もしない、でもそれでいいの?」


「一時は貴族連中に対していい感情も持たなかった、でもそれは違うんだよな」


「…私の父は貴族として多くの困窮した民を見てきた、その人達はなぜ貧しいのかもね」


「嬢ちゃんはそこらの傲慢貴族とは違うっていうのは分かる、所謂名家ってやつか」


「そうよ、あなたが思っている悪徳貴族は多くは成金と呼ばれる人達の事なのよ」


オルライトの家はそこそこ歴史のある名家である。

それ故に父親の苦労を近くで見てきた事は少なくない。


だからこそ貴族としての務めについても多少は分かっているつもりだ。


「まあ結婚したくないから領主代行やってて、婚約破棄まで行くのが私の目的だけどね」


「おいおい、結婚したくねぇって理由だけでこんな大層な仕事引き受けたのかよ」


「ええ、それに私には家の中で大人しくしてるなんて出来ない性格みたいだし」


「あんた、名家の貴族様の娘だろ?どうやったらこんな奴が生えてくるんだ」


「昔からやんちゃな性格だと言われてお父様も悩んでたわ、破いたドレスの数も相当よ」


老人もオルライトの動機については呆れ顔である。

だがその本気が今のこの村の発展にあると考えると、人間本気になれば割と出来るのか。


若さの力は素晴らしいし、動機が不純すぎるという事にも呆れている様子だった。


「さて、それじゃ私は仕事に戻るわ、あなたも少しは働くのよ」


「はいはい、嬢ちゃんみたいな破天荒な奴には勝てそうにねぇからな」


「お代は置いていくわね、ありがとう」


食事代を置いて仕事に戻っていくオルライト。

老人もそんなオルライトの動機については呆れるしかなかった。


だがその動機がオルライトを本気にさせているのは面白い話。


若い奴のバイタリティには驚かされるばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ