海賊への視線
海賊達が村にやってきてから少し立った冬前の村。
海賊達への視線はお世辞にもいいものでないのは事実でもある。
とはいえ海賊達も村に馴染む為に出来る事は積極的にやっている。
海賊をやっていただけあり、女性でありながら腕っぷしは強いようだ。
「あら、意外と上手くやっているのね」
「これは領主様、こんな私達を拾ってくれた事には感謝してるよ」
「とはいえ視線はやっぱりいいものではないのかしら」
シルヴィラも部下の海賊達も努力はしている。
信用を勝ち取るために努力は続けていくという事だ。
「船を下りてみて気分はどうかしら」
「そうだね、陸の上なんてロクでもないって思ってはいたけどさ」
「意外と悪くなさそうな顔ね」
「私達は学もないチンピラだからね、それが突然働けと言われて上手く出来るかだよ」
「とはいえその腕っぷしの強さは何かと頼りになってるみたいよ」
海賊達も腕っぷしは強く、力仕事でも頼りになっている。
また自分達から積極的に聞きに行く姿勢も見せている。
それもあり覚えていくのは早いようだ。
「海賊とはいえ悪い人にも見えないけど」
「本人達はいい人のつもりでも世間から見たらただのチンピラだよ、海賊なんて」
「いい人でいたつもりなの?」
「そんな事もないね、悪い事は結構やってきたからね」
「その辺は自覚しているのね」
海賊はいい人などというのは幻想でしかないという話。
確かに山賊に比べれば海賊には冒険心はある。
それでも世間一般から見れば海賊も山賊も盗賊も同じゴロツキのチンピラなのだ。
「海賊でも山賊でも結局は縄張りが違うだけの話なのかしら」
「そんなものだね、海賊にロマンなんて抱くもんじゃないよ」
「そもそも宝探しをしているような人達は海賊じゃなくて冒険家なのよね」
「そうだよ、海賊なんて海を縄張りにしてるゴロツキ集団でしかないからね」
「でも村に来てからは少しは信用してもらえるように努力してるのは偉いわよ」
シルヴィラも村の人達から向けられる視線については分かっている。
だからこそ元盗賊の人達に話も聞いている。
盗賊達は今では村に馴染んでいる事もあるからだ。
「それで、村の人達と話すぐらいは出来てるのよね」
「それぐらいは出来てるさ、尤も警戒心はバリバリだけどね」
「海賊というのも大変よね」
「あんたが勧誘してきたんだろうに、まあ村の人達は基本的にいい人で安心ではあるけどね」
「そう言ってくれると何よりだわ」
海賊達はまずは信用されるところから始めている。
オルライトは航海技術や海の知識を求めてスカウトした。
その一方で海に出られない時は村で働く事になるのは仕方ない。
「海賊の人達って貴族なんかも混じっているの?」
「私は元貴族の娘だからね、貴族の娘も平民の娘もいるよ」
「それは誘拐されて売られそうになったという事でいいのかしら」
「そんな感じだね、親に売られた子もいるぐらいだよ」
「酷い話ね、でもそうするしかない事情もあったりするのかしら」
彼女達は売られてきた娘達が跡を継いで結成した海賊団でもある。
そんな彼女達の事情は複雑であり、帰る場所がないのも納得である。
とはいえやはり海の上で死ぬのが望みのようではあるようだ。
「とりあえずこれからは冬だけど、海の事とか教えてよね」
「ああ、任せておきな、近海ぐらいなら出られるようには鍛えてやるよ」
「海賊も盗賊もゴロツキなのに変わりはないけど、そうなった理由もあるのよね」
「寧ろ理由もなしに海賊になりたいなんて奴の方がおかしいと思うけどね」
「それはまあそうよね、尤もだわ」
結局はなりたくてなったわけではないという事。
生きるための選択が海賊であったというだけの話だ。
だからこそオルライトを変な奴という風に感じているのかもしれない。
「とりあえず私もサポートしていくから、その辺は遠慮なく言ってね」
「ああ、領主様も変な奴だけど、いい人なのは伝わるしね」
「変な人は失礼よね、まあいいけど」
そんな海賊達へ向けられる視線は厳しいものがある。
それでも信用を勝ち取るために出来る事はしていく。
行動なくして信用は勝ち取れないのだから。
まずは信用してもらう事から始めていく。




