学生服という文化
夏も終わり秋に入り始めた季節の変わり目。
三年目までまだ多少の余裕があるとはいえ、出来る事は全てしていく。
父親との約束はこのペースで行けばかなりギリギリといったところになるか。
それでも目的のために領主代行を勤め上げる覚悟は決めている。
「ねえ、フユって学校に通う時は決まった服を着ていくものなの?」
「この制服の事か?そうだけど」
「学生服なんてものがあるなんて、興味深い話ね」
こっちの世界の学校には学生服という文化はないようである。
その一方で学生服の代わりになるような服はあるようだが。
「フユの学生服ってスカートの丈が短くない?見えちゃいそうなんだけど」
「昔はロングスカートだったらしいんだけどな、今は基本的にミニになってるけど」
「なんで短くしたのかしら、短いと冬なんかは辛いでしょ」
「まあ実際寒い土地でも女子高生はミニスカ生足だからなぁ」
「寒さに強いのかしら」
そういう事もあり冬夕も寒さにはそれなりに強かったりする。
ただ学生服は基本的にスカートは短いものであるのが現代だ。
冬夕はどちらかというとロングスカートが好みのようではある。
「でも学生服にしては可愛いのね、デザインが素敵だわ」
「あたしの学校は夏はセーラーだからな、冬はまた違うんだけど」
「ふーん、セーラー服っていうのね」
「セーラー服は元々海兵隊の服だったらしいんだけどな」
「そうなの?海兵隊の服が学校の制服になったってなんか不思議な話ね」
セーラー服は元々は海兵隊の制服である。
それが学生服になっているのも現代の面白さか。
冬夕曰く夏はセーラー服、冬はブレザーらしい。
「こっちだと学生服という呼び名ではないけど、貴族学校なんかは制服はあるのよね」
「ふーん、貴族が行くもんなのか?学校って」
「平民が行く学校もあるわよ、でも貴族と平民が同じ学校に行くとかはまずないわね」
「なるほど、私立と公立みたいな感じなのかね」
「そっちだと私立とか公立っていうの?」
学校の呼び方は異世界なのでまあ違うであろう。
オルライト曰く貴族も平民も学校には通うが、同じ学校に通うような事はまずないとも。
なので平民と貴族はそもそも住んでいる世界が違うのだ。
「フユの学生服が可愛いのはなんというか羨ましいわね」
「そんなもんかね、こっちの学生服ってどんななんだ」
「私が昔着てたものなら実家に行けば残ってると思うけどね」
「ふーん、意外と取っておくものなんだな」
「学生服って子供にとっては喪服代わりにもなったりするらしいのよ」
オルライトが言うには学生にとって学生服は喪服代わりにもなるのだという。
そういえば冬夕の世界でも学生は葬式に学生服で出るみたいな話がある。
それと似たような文化がこっちの世界にもあるという事なのだろうか。
「可愛い学生服って憧れちゃうわね」
「でもこっちにも可愛い服はあるだろ」
「あるにはあるんだけどね、でもフユの世界の服って可愛い服が多いというか」
「そういや私服なんかも可愛いって言ってくれてたよな」
「ええ、フユの世界のデザイナーってこの世界とはずいぶん違うのね」
異世界という事もあり、デザイナーの考えるデザインにも当然差異はあるのだろう。
冬夕の世界では可愛いという概念への考え方が多様なのかもしれない。
異世界の考え方や文化の違いを感じる話でもある。
「でも異世界ともなると服のデザインだけでも違いが分かるわよね」
「そうだよなぁ、オルライトの服も貴族らしいというかそんな感じがするし」
「そっちの世界は貴族っていう考え方はないの?」
「それは国によるとしか言えないな」
「なるほど、でもフユって偏見とかそういうのがあまりないから、そこが意外というか」
日本人という人は基本的に差別に対しては鈍感な感じはある。
区別はするけど差別はあまりしない国民性なのだろう。
そうした感性はオルライトからしたら意外に見えてしまうようで。
「私も可愛い学生服を着てみたかったわ」
「こっちの世界は可愛いへの考え方も違うんだな」
「そうね、だからフユの学生服が可愛く見えるというか」
「異世界ともなれば感性が違うのは当然って事だよな」
「それは寧ろ当然の話なのよね」
オルライトから見る冬夕の制服は可愛いのだという。
冬夕から見たこっちの世界の服は創作の中のようにも見えるのだろう。
異世界というのは双方から見た違いも鮮明に見えるのだろうが。
「そういうデザインの服を作ってもらおうかしら」
「お前、本当に影響されやすいな」
「参考にしてると言ってもらえるかしら」
そんな服のデザインも異世界ともなると違ってくる。
オルライトが冬夕の学生服に対して向けるのは可愛いという気持ち。
やはり好きなものは可愛いものなのだろう。
これで結構素直なのかもしれないと冬夕は思うのだった。




