魔王の価値観
魔族達が村にやってきて様々な仕事の手伝いを始めた。
ミラールに一撃を入れたという女領主は魔界でもちょっとした噂になっている。
そんな魔王自身も暇な時は村に来るようになった。
魔界は力こそ全て、偉い奴が強いのではなく強い奴が偉い世界である。
「魔界の王様がこんなところに来てていいの」
「別に問題はなかろう、仕事はしているのだからな」
「意外と自由なのね、あなた」
そんなミラールも例に漏れず魔族の価値観を強く持っている。
幼く見えてその強さは魔族の中でも群を抜くものがある。
「魔界って力こそが正義っていう価値観の世界なのよね?」
「そうだぞ、私は強いから王になったのだ」
「でもそれだと組織の運営とかはどうなのかしら」
「組織か、だがどんな組織もカリスマを持つ者がそれを引っ張ればいい」
「カリスマねぇ」
ミラール曰く人はカリスマ性に惹かれるだという。
それはどんな悪人であろうとも善人であろうとも変わらない話だとも。
カリスマを持つからこそ人はその人についていくのだと。
「でも確かに世の中にはなんでこの人極悪人なのに慕われてるのかと思う事はあるわ」
「カリスマに善悪など関係ないからな、暴君であろうともカリスマを持つ奴はいる」
「魔界においてそのカリスマの指標が強さっていう事なのね」
「そうだ、力こそが正義、強き者を崇拝するのが魔界だ」
「魔界と人間界だと価値観って本当に違うのね」
世の中には悪のカリスマは確かに存在する。
カリスマ性を持つ者に善人も悪人も関係ないとミラールは言う。
だからこそミラールはその拳で王となったのだと。
「それぐらい単純ならいろいろ楽な気はするけど、現実はそうでもないのかしらね」
「そこまで単純な話ではないな、だが人間にもカリスマ性を持つ人間はいるだろう」
「それは確かにね、会社の社長でも政治家でもそういう人はいるわ」
「魔族も人間も関係なく人は自分達を引っ張ってくれる者を求めるものだからな」
「引っ張ってくれる人…なるほどだわ」
人は自分達を引っ張ってくれる人を求めるのだとミラールは言う。
だが同時に人は優れた者に対する嫉妬心を持つ事もある。
強さを求めると同時に自分達を引っ張ってくれる人、トップに向く人はそういう人なのか。
「でも人っていうのは権力を手にしたら手放したくなくなるものなのよね」
「だが人も魔族も永遠を生きる事は出来ん、どんなに優れた王もいつかは死ぬからな」
「そしてその王が亡くなった時に国や組織はどうするか、そういう事ね」
「優れた王が亡くなった時、次に王になる者にはとてつもない重圧がかかるだろうな」
「カリスマ性っていうのは次にトップになる人には大きな重圧になる、その通りだわ」
どんなに優れた王もいつかは死ぬ。
その時に人々はどのような判断を下すのだろうか。
オルライトもミラールも人々を引っ張る身としてそれは考えるものがある。
「権力を手にしても巨万の富を築いても、死んだらそれまでだものね」
「そして人はいつ死ぬかは分からん、明日襲われて死ぬかもしれない、そういう事だ」
「それは確かに…天寿を全うする事が出来ない人の方が圧倒的に多いのかしら」
「だからこそ命に明日があるという保証は全ての生き物においてないものなのだぞ」
「どんなに強い人でも優れた人でも、ね」
ミラールは強き者だからこそ命のなんたるかも知っているのだろう。
強き者が正義の魔界において強さの基準は必ずしも力とは限らない。
人を動かす力や知力もまた立派な力なのである。
「ミラールが魔界の王様になった理由はなんとなく分かったわね」
「私はただ己の拳を信じているだけだ、だからこそオルライトは尊敬しているぞ」
「一応護身術として武道を嗜んでいるだけなんだけどね」
「ただの護身術で私の顔に拳を入れたのか、くはははっ!ますます気に入ったな」
「魔界の力を信仰するというのもなんとなく分かった気がするわね」
魔界において信仰するものは力である。
それは魔界の歴史にも関係しているのだとミラールは言う。
オルライトも歴史の勉強でそれは多少は習っている。
「とりあえずミラールが自由人だけどカリスマ性を持っているのも分かったわ」
「ふははははっ!当然だろう」
「笑い方が悪人のそれなのにねぇ」
ミラールも定期的に村にやって来る。
それは楽しいからというのもあるが、仕事をきちんとしているからでもある。
仮にも王であるのだから統治はきちんとしているのだろう。
強き者を崇拝し認める価値観だからこそオルライトに協力してくれるのだ。




