機械類の使い方指南
西の国から戻ってきて約一週間。
マテリアルハンドの人達も村にやってきて仕事を始めた。
その一方で機械類の使い方を一緒に仕事をする人や使用する人に説明もする。
使い方を覚えてしまえば何よりも便利なものなのだ。
「そういえばキスカも西の国で生まれたんだったわよね」
「はい、それをお父上様が購入してオルライト様の世話役にしたのですよ」
「懐かしい話ね、私もあれからすっかり大きくなってしまって」
キスカも西の国で生まれそれをオルライトの父親が購入してきた。
メイドロボを作れる辺りが西の国の技術力の高さを物語っているという感じだ。
「そういえばマテリアルハンドの人達は少しは慣れてくれたりしたかしら」
「村には馴染んでいるようですよ、あと機械類の使い方を説明していますね」
「東側の国だと使ってる人もいるけど、まだ完全な普及はしていないものね」
「それだけ国民に抵抗感があるのか、技術への無頓着なのかは存じませんけどね」
「便利なものはどんどん導入した方がいいと思うんだけど、簡単にはいかないものね」
とりあえずそのまま村の視察に行く事にした。
村ではマテリアルハンドの社員達が村の人達に説明をしていた。
そんな中でリーダーのヨハンと遭遇する。
「あら、確かヨハンでいいのよね」
「これはオルライトさん、はい、ヨハンで間違いありませんよ」
「機械類の方は問題とかはない?」
「特に問題なく稼働しています、部品も試作品の品質のよさに感激したぐらいですよ」
「それは何よりね、労働者への指南なんかも期待しているわよ」
そんな機械類は正しく使えば生活を便利にしてくれるものでもある。
だが人間というのは本来想定されていない使い方もしてしまうのだ。
世の中の道具による事件や事故の多くはそうした本来の想定を外れた使い方から起きている。
「それにしても機械類による自動化が進めば生産とかも捗りそうね」
「そうですね、特に魔法と機械を合わせる事でさらなる技術的な革新も出来そうです」
「魔法と機械を組み合わせる、そんな事って出来るものなのね」
「今はまだ試作の段階でしかないですけどね」
「でもそれでもっといいものが出来るならそれも何かと使えそうよね」
ヨハン曰くダークエルフの魔法の道具から着想を得ているという。
魔法の道具は機械ではないが、機械的な挙動をするものが多いとか。
そこから機械と魔法の融合も模索し始めているという。
「でも便利なものはどんどん取り入れた方がいいわね、確信したわ」
「道具というのは想定した通りに使えば99%安全に作られているんですよ」
「想定した通りに使えば、よね?」
「そうです、道具が勝手に人を殺す事はない、道具を使う人が人を殺すんですよ」
「道具を扱う技術者らしい考え方ね、あくまでも実際に人を殺すのは人だと」
ヨハン曰く道具を本来の想定と違う目的に使う事が事件や事故の原因というのは多いとか。
包丁が単独で人を殺すはずもなく、人が包丁を握ってはじめて殺人に繋がる。
機械類もそれと同じで人を殺す事を目的として作られたロボットでもなければ、である。
「そういえば西の国ってロボットとかも作ってるのよね?」
「はい、我々の会社では作っていませんが、作っている会社はありますよ」
「なるほど、道具が人を殺すってそういう」
「ロボットに戦いのプログラムを組み込めば殺人も可能です、ですがコスパは悪いですね」
「そうなの?勉強で読んだ戦記物の小説とかでロボットの兵隊が出てきたけど」
ヨハン曰くロボットを戦争の兵隊にしてもお金がかかるだけなのだと言う。
それなら高価で品質の高い兵器を人間に持たせた方がずっと安上がりだとか。
機械というのはある程度長い時間運用してはじめて安くなるようになっているのだ。
「つまり機械っていうのはある程度長く使う事が前提なのね」
「少なくともロボットの兵隊なんてものは軍隊からしたらただの金食い虫ですね」
「だからロボットは介護や家事といった方向で人に奉仕するようになったのね」
「それにより救われた人は少なくともたくさんいると同業者から聞きましたからね」
「ロボットを活かすには人の役に立てる方向っていう結論なのは技術者だからこそね」
ヨハンが言うにはメイドロボや介護ロボなどはある程度長く使われる事が前提だと。
それにより親族や家族が本来の仕事などに専念出来るとも。
それにより今では家族同然になったケースもあるそうだ。
「面白い話を聞かせてくれてありがとうね」
「いえいえ、必要なものがあれば仰ってくださいね」
「ええ、必要になったらね」
ヨハンが語るのは機械というものは人の生活を豊かにするために生まれたということ。
そして道具が勝手に人を殺したりはしないということ。
道具を想定していない使い方をする事で起きる悲劇がある。
技術とは全て使い方次第なのである。




