電波というもの
西の国から帰還したオルライト。
交渉により借り受けた人達は近いうちに村にやって来る。
その一方で冬夕もちょくちょくこちらに転送されてくる。
そこで興味を惹かれたのは転移の媒体となっているスマホだった。
「そういえばフユのそのスマホっていうそれ機械なのよね」
「そうだけど、興味あるのか?」
「いえ、その少し厚めの板みたいなのでいろいろ出来るのは凄いなって」
西の国で見てきたのもあるが、東の国ではまだ大きく普及していないものでもある。
貴族の経営する商店などではレジスターや電話などは置いてある事は珍しくはないが。
「実際スマホってどんな事が出来るの?」
「うーん、いろいろあるけど基本はまず電話や電子メール、ネット接続とかかな」
「それで電話が出来るの?凄いじゃない」
「ただ基地局がないと繋がらないし、あと電波がないと意味ないぞ」
「基地局に電波ね、それってつまりどういう事なの?」
こっちの人に電波や基地局と言っても通じにくいというのはある。
電波というのはどう説明すればいいのか、少し難しいものだ。
それに電波は携帯電話の他にテレビやラジオなどにも使われるものだ。
「その電波ってつまり電話とかに必要なものという事ではあるのよね?」
「ああ、携帯電話の場合は基地局だけどテレビやラジオは電波塔だな」
「どうにも難しいわね、勉強はしたんだけど」
「電波ってのは見えないしな、ただ電波がないと基本的に通信は出来ないもんだぜ」
「ふーん、つまり無線通信には欠かせないものっていうのは確かみたいね」
電波というのは冬夕には上手く説明出来ないものでもある。
ただその一方で電波があれば確実に便利にはなる。
こっちにも有線の電話はあるが無線通信は流石にないのだ。
「他にはどんな機能が付いてるの?」
「他だとゲームとか電子マネー、あとはカメラとかだな」
「カメラは分かるわ、写真撮影機の事でしょ」
「ああ、撮った写真が保存されるわけだからな」
「保存されるっていうのはどういう事なのかしら」
スマホのカメラで撮影した写真はそのまま保存されるわけである。
容量は限られているものの、結構な数を撮る事は出来る。
ギガとかバイトとか言っても上手く伝わるかは不安ではあるが。
「スマホってなんでも出来るのねぇ、そんな板みたいなのに」
「まあこっちだと電波とかがないからネット接続とか電話とかは出来ないけどな」
「フユからしたら異世界だものね」
「ただネットに繋がなくても使える機能は普通に使えるけどな」
「電波を使わなくてもいい機能に限定されるけど、一応こっちでも使えるのね」
ネットに繋がなくてもカメラなどは一応使える。
とはいえ他の機能はほぼ全滅である。
異世界ではあるのでネットに繋ぐ事が必須の機能は全部アウトだ。
「それだけなんでも出来ると紛失したら大変そうね」
「実際スマホなくして何も出来なくなった奴は何度か見てるからな」
「電子マネーっていうのはなんなんのかしら」
「こいつで買い物の支払いが出来るんだよ、まあ金額をチャージしないと駄目だけど」
「結局は現金が必要ならあまり大きく便利でもないような気はするわね」
オートチャージのシステムがあったりもするが、基本的に現金が必要な事は多い。
ただ電子マネーは素早く支払いが出来るのは強みではある。
その辺は万能という事も特になかったりする。
「スマホって本当にいろいろ出来るのね、そんな小さいのに」
「出来る事は多いけど全部の機能を使ってる奴は少ないんじゃないかな」
「機能が多くても全部使ってる人ってそんなにいないのね」
「便利って言っても使う機能なんて限られてる人の方が多いと思うしな」
「目的に合わせてって感じなのかしらね、きっと」
スマホの機能は多いが全部は使いこなせる人は少ない。
というか使っている人が少ないのだろう。
機能が多くても人によっては使わない機能もあるという事だ。
「スマホみたいなのを開発しちゃう辺りフユの世界って凄いのね」
「確かに凄いとは思うけど、便利なものって落とし穴もあるからな」
「落とし穴?」
「依存するようになっちまうって事だ」
「確かにそれは危険な感じがするわね」
スマホ依存は現代の病気とも言える。
だからこそ便利なものであっても使いようという事だ。
スマホの落とし穴はそういう事なのだろう。
「でもスマホの事が知れたのはよかったわ」
「便利なものは必ずしもいい事ばかりでもないって事だよな」
「そうね、そう思うわ」
そんなスマホも便利だからこその危険性がある。
鉄道やバスの中で常にスマホをいじっている人の数の多さ。
異世界の機械はそこまで発展していないのは救いなのだろう。
やはりスマホは危険なのかもしれない。




