春の甘味
春が始まり気候も暖かくなり始めた。
二年目が始まるまでもう少しあるので、それまで細かな調節もする。
その一方で冬夕から聞いた料理やお菓子の量産体制は整いつつある。
砂糖は決して安いものではないものの確保自体は不可能ではないらしい。
「それにしてもフユがこっちに転送される条件とかあるのかしら」
「知らねぇよ、この転送システムのせいでスマホの機種変出来ねぇんだぞ」
「…それならそれを持ち続けたまま新しいの買えばいいんじゃ」
確かにその通りではあるという顔をする冬夕。
とはいえ新機種のスマホもピンからキリまでなのでそこは迷うところだ。
「春になったのはいいけど、二年目が開始になるまでもう少しあるのよね」
「そういやこっちは春なんだな、こっちも新年の始まりって四月からなのか?」
「そんな事はないわよ?一月から新年だし、あと学校とかは九月入学ね」
「マジか、でもオルライトは二年目の始まりを四月に合わせてるよな?」
「ここの領主に赴任したのが四月だからよ、それだけね」
オルライトが言うにはこの世界では新年の基準は始めた時に合わせるらしい。
なので八月に創業した会社なら新年の始まりは八月になる。
冬夕の世界と同じような暦こそあるが、新年の基準は始めた時に合わせるのが普通だと。
「そういえば何か春の美味しいお菓子とかない?こっちでも作れそうなもの限定で」
「春のお菓子なぁ、桜餅とかって言いたいけど桜がまずないのか」
「サクラ?それって確か花よね?海の向こうの国に咲いてる花だとは本で見たわね」
「ああ、桜の葉っぱを塩漬けにして刻んだものをあんこに混ぜたりするんだ」
「へぇ、でも木は流石にないわね、苗とかを取り寄せて植える事は出来ると思うけど」
オルライト曰く桜の木も取り寄せて植える事は恐らく出来るという。
ただ育つまでに時間がかかるので、現実的な話ではないという。
この前取り寄せた温泉の資料も、時間がかかるのを覚悟で調査させているのだ。
「サクラを使ったのは現実的じゃないとして、他に何かないかしら」
「そうだなぁ、いちごの旬は冬から春にかけてって聞いたけど」
「いちご?エルフレッドベリーの事かしら?」
「こっちではそういう名前なのか、まあたぶんそれだ」
「ならそれで何か作れないかしら、砂糖は安くはないけど手に入れる事は出来るわよ」
いちごを使った甘いもの。
作れそうなものを考えれば乳製品や小麦を使ったものになりそうではあるが。
小麦や米、乳製品などは自前で用意出来るのだ。
「何かアイディアとかないかしら」
「いちごを使ったものなら、いちごプリンとかヨーグルト、いちご大福とかか?」
「その辺ならたぶん出来ると思うわね、もうちょっと何かないかしら」
「うーん、ならいちごのクリームを作ってどら焼きとかケーキとかはどうだ?」
「いいわね、そのアイディアは使わせてもらうわ」
アイディアはしっかりと拝借していくオルライト。
そのついでという感じなのか、先日収穫したいちごがあるらしい。
せっかくなので食べてみる事にした。
「うん、思ってるよりずっと美味しいわね」
「思ってるよりは甘いな、でも甘さと酸っぱさのバランスが凄くいいなこれ」
「フユの世界のいちごってどうなの?」
「アタシの世界のいちごはめっちゃ甘いぞ」
「へぇ、興味深いわね、甘いいちごって作れるものなのね」
冬夕曰く甘いいちごは農家の努力の結晶なのだという。
冬夕が母親から聞いた話らしいが、昔のいちごはもっと甘くなかったのだとか。
いちごに練乳をかけて食べるというのはいちごが甘くなかったからなのだという。
「そのレンニュウ?ってなんなの?」
「コンデンスミルクともいう砂糖で甘くしたミルククリームって感じのもんだな」
「ふーん、つまり牛乳をクリームっぽくしたものに砂糖を加えてあるのね」
「普通に見るのは加糖練乳、砂糖を加えた濃縮牛乳らしい、そこまで詳しくはないけど」
「なるほど、それはいちごが甘くなかった時代の話で、今はそうでもないのね」
いちごに練乳をかけるのは当時のいちごは今より甘くなかったから。
冬夕の世界のいちごはそれからの時を経てすっかり甘いものが定番になった。
品種改良というのはオルライトも興味深い話のようだ。
「なんにせよ面白い話をありがとうね」
「いちごで何かと作れるなら試してみるのもいいだろうしな」
「エルフは動物性のものが食べられないから、そこも踏まえないとだけどね」
試作品なども今後作らせる予定が出来た。
その一方で動物性のものが食べられないエルフにも食べられるものも考えねばならない。
料理やお菓子を作る上で動物性の食材を完全に避けるのは難しいのだ。
そこだけはオルライトも相談をした上で考えているようではある。




