温泉計画
オルライトの世界は今は冬、冬夕の世界は今は猛暑の真夏。
それもあり異世界転移した際の寒暖差がどうしても辛い。
服を着替えてから転移なんて事はさせてくれないのである。
そんな冬夕はこっちの世界にも風呂文化がある事は興味があるようで。
「フユの世界ってお風呂の文化が発達してるのね」
「あー、それは国による、アタシの住んでる国は水質が軟水だからだよ」
「つまり硬水の国だとお風呂文化は発達してないってこと?」
硬水の国なんかでは風呂文化自体はあるものの、シャワーだけとかが多い。
水質の違いは文化にも大きな影響を与えているという事である。
「つまり水質は多様な文化に影響を与えてる、という事でいいの?」
「ああ、硬水の国だと紅茶が美味いって聞くし」
「ふーん、こっちでも水質という考え方はあるけど、そんなに影響があるのね」
「軟水だとうどんが美味いけど、パスタなんかは美味くならないんだよ」
「へぇ~、そういう水質の影響の大きさまでは考えた事はなかったわね」
ちなみにオルライトが調査させた結果この村のある場所は軟水らしい。
というかローゼンブルク領が軟水の領地らしい。
そしてローゼンブルク領の領主館があるのがここヴァッシェングロースだ。
「そういえば軟水だとお風呂文化が発達するって言ってたわよね?」
「ああ、だからアタシの住んでる国は火山が結構あって温泉大国だよ」
「ふーん…火山ね、温泉の条件も調べてみようかしら」
「まさか温泉でも掘るつもりか?」
「確か火山と地下水、あとは軟水の水質…割と条件は揃ってるわね」
ちなみにローゼンブルク領の北部には大きくはないが火山がある。
都市は各地にあり、領主館も各地にあり大領主になるのがここになる。
国の中の領地がさらに細分化され、そこに大領主と小領主が存在しているのだ。
「温泉ってとりあえず地面でも掘ればいいの?」
「きちんと場所を特定して掘らないと意味がないぞ、まず温泉の位置の特定からな」
「地下水がお湯になってるところでいいの?」
「アタシでもそこまで詳しくないっての、ただ調査も種類があるしな」
「なるほど、そっちについては資料を取り寄せて調べるとするわ」
どうやら温泉を掘る事に本気な様子のオルライト。
これは相当な長期計画になりそうな予感がする。
あと約三年間で達成出来るのかは未定である。
「でもお風呂文化が発達してるっていうのはお国柄でもあるのね」
「まあな、銭湯、俗に言う公衆浴場もたくさんあるし」
「公衆浴場って?」
「分かりやすく言えば金を払っていろんな人が自由に入れる大浴場だな」
「へぇ、公衆浴場…そういうのもあるのね」
こっちの世界、ローゼンブルク領は風呂文化はそれなりに発展している。
ただ公衆浴場のような文化はないのだという。
その代わり一部の領主が温泉を経営していたりはするらしい。
「お風呂文化はあるけど、土地を持ってる領主がやってる商売が多いのよね」
「つまり領地に温泉のある領主が温泉やってんのか、公衆浴場とは少し違うのかね」
「家庭にいいお風呂がある家なんて最低でも貴族様だもの」
「風呂は高級品って事なんだな」
「ただお湯自体は使えるから、簡易的なお風呂を作らせる平民とかはいるわよ」
要するにドラム缶風呂や五右衛門風呂的なものを作る平民はいるとか。
なおそれを作るのはドワーフなどの鍛冶職人だ。
風呂文化自体は国民全体にあるが、平民は簡素な風呂が精一杯だという事なのだ。
「でも公衆浴場ね、温泉を掘るならそういう感じの施設も作りたいわね」
「温泉作るなら牛乳は必須だな、風呂上がりに飲む冷たい牛乳は美味いぞ」
「なんでミルクなの?」
「なんでって言われると困るけど、アタシの国だと風呂上がりに冷たい牛乳をよく飲むんだよ」
「ふーん、なんか面白い文化ね」
風呂上がりは冷たい牛乳を腰に手を当てて一気飲みする。
コーヒー牛乳やフルーツ牛乳はそんな風呂屋の定番だ。
冬夕もその美味しさは何よりも知っている。
「お風呂はあるけど、平民と貴族だとやっぱり差はあるのよね」
「この村でもそうなのか?」
「領主館はそれなりにいいお風呂はあるけど、平民は簡素なものが精一杯よ」
「なるほどなぁ」
「ただ公衆浴場みたいなものは面白そう、交流の場にもなりそうだしね」
温泉を掘るという事は本気の様子のオルライト。
約三年で終わる計画なのかは分からないが。
ローゼンブルク領の風呂文化はシンプルに財力の差の話でもある。
「とりあえず資料を取り寄せなきゃ」
「温泉が出来たら入らせてくれよ」
「ええ、期待してなさい」
ローゼンブルク領の大領主の領地がここヴァッシェングロース。
そこから他の小領主の領地が広がっている。
温泉を商売にする貴族は自分の持っているものを有効に使っている話でもある。
まずは国に資料の申請をする事から始める事にした。




