清貧は嘘か真か
すっかり冬の寒さにも慣れてきた村の生活。
暖かくなるにはまだ先は長いので、いろいろ寒さ対策は欠かせない。
そんな中でも盗賊達は寒い中でもきちんと働いている。
彼らにとって自分達を働かせてくれるオルライトはやはり不思議なのだろう。
「寒いわね、でも室内はきちんと暖かいみたいだからこその温度差かしら」
「お、オルライトの姉さん、寒いのにお疲れ様です」
「シュカイン、あなた達も寒いのだから今は無理しなくてもいいのよ」
盗賊達はこの寒さの中でも立派に働いてくれている。
とはいえ無理をさせるのは雇い主としては看過出来ないところでもある。
「別に蓄えはあるから無理はしなくてもいいのよ」
「この時期は畑とかよりも見回りとかが主な仕事ですからね」
「それはそうなんだけどね」
「それに俺達も以前までに比べたら本当に恵まれたと思ってますよ」
「貧民層の出身の人が基本だものね、盗賊達は」
盗賊達は彼らは彼らなりの共同体を結成していたという事でもある。
一人では基本的に無力な社会であるからこそ共同体という群れを作る。
それは貴族も貧民も変わらないもので、共同体に属するのは生きる知恵でもある。
「でも共同体を作るっていうのは貴族も貧民も変わらないものなのね」
「オルライトの姉さんは物語でありがちな清貧ってどう思います?」
「清貧?貧しい人ほど清らかみたいなあれよね」
「はい、貴族から見て清貧は本当だと思いますかね」
「うーん、清貧についてはなんともだけど、貧乏と貧困は違う、まずはそこからじゃない?」
オルライトも清貧が必ずしも正しいと思わないし、間違いだとも思わない。
ただその一方で貧乏と貧困は違うとも考えているらしい。
貧乏なら清貧もいるかもしれないが、貧困に清貧は珍しいと考えているのか。
「例えばだけど、買い物を少しでも安く済ませて工夫するのは節約でしょ」
「ええ、立派な生きる知恵だと思います」
「その一方でケチっていうのはお金そのものを出し渋るのよ、清貧もそういう事だと思うの」
「なるほど、貧乏人はお金がないなりに工夫して金はきちんと出す人は多いですね」
「貴族の立場から見ても本当の貧困っていうのは貧乏とは違うと思うのよ」
オルライトの思う貧困というのは節約にすらお金を出せないぐらいの貧しさと考える。
その一方で貧乏というのはお金がなくともある程度の生活は維持出来ていると考える。
それが清貧にもそのまま繋がっているのではないかとも。
「盗賊の人達は貧しいって言ってもどの程度の貧しさかにもよると思うし」
「あいつらは金がないなりの工夫の知恵や知識は持ってますからね」
「でも働き先はなかなか見つからなかった、共同体の問題で」
「共同体に属せないっていうのは汚い仕事に手を染めるしかないって事ですか」
「貧乏と貧困は違う、盗賊に堕ちるっていうのは限界だったとも言えるんじゃない」
オルライトが考えるに貧困層が犯罪に手を染めることは割とあるとか。
その一方で貧乏人が職が見つからないまま貯金もなくなり貧困層に堕ちる。
そうした事があるだろうと考えると清貧というのは嘘でも本当でもないと思う。
「本当はそうした人達に手を差し伸べるのも国や貴族の務めではあるのよね」
「でも実際に助けてくれるもんなんですかね」
「そういう人への制度自体はあるのよ、役所で聞けば教えてくれるもの」
「でも制度があっても知らなければその制度も受けられないですね」
「盗賊になった理由は働かせてもらえないっていう事からだったものね」
そもそも盗賊というのは貧しさから堕ちた人達がほとんどだ。
貧しいだけなら盗賊に堕ちる理由はそもそもないのだ。
お金すらもなくなり職ももらえなくなったからこそ盗賊に堕ちるケースがほとんどなのだ。
「私は清貧は嘘だとは思わないけど、限界を超えたら清貧なんて言ってられないと思うわ」
「尤もですね、貧乏と貧困は違う、清貧も本当だとしても限度がある、ですか」
「ええ、だから私は清貧は嘘だとは思わないけど全てがそうではないと思うわ」
「法律を定めたとしても元から守る気のない奴には法律なんて意味を成さないですかね」
「そういう事よ、清貧っていうのは真面目な人にしか出来ないと思うもの」
法をや罰則をどんなに強くしても元から守る気のない奴には意味を成さない。
清貧はそんな真面目に生きているからこそ成り立つものでもある。
そしてお金がなくなれば清貧などと言っていられなくなるのだとも。
「とりあえず働くのはいいけど、体はしっかり暖めるのよ」
「はい、心配ありがとうございます」
「それじゃ村の巡回に行くから、無理だけはしないでね」
盗賊達は盗賊になったのにもきちんとした理由がある。
貧乏から貧困に堕ちた先にあったのが盗賊という生き方。
賊というものはそうしたとっくに限界だった人達がなる事が多い。
賊にもかつては家族も友人もいたのかもしれない。




