豆を甘くします
すっかり冬景色の村だが雪は少なめの様子。
とはいえ寒さはそこそこ強い土地でもある。
雪は降る時は一度にドカンと降るタイプの降り方をする。
なので降雪が一度始まると相当に積もってしまう事になる。
「フユの世界って今は夏なのよね」
「そうだよ、だから着替えてる余裕とかなく飛ばされるんだよ」
「夏の世界から冬の世界に飛ばされるってなかなかしんどいわね」
冬夕の世界では今は夏なので私服は当然夏服だ。
その一方でこっちの世界は冬なので、室内は暖炉ガン焚きなので普通に暑い。
「そういえば言われて作らせたこのあんこっていうの美味しいわね」
「小麦粉があるなら作れるとは思ったけど、意外と上手くは行くもんだな」
「まさか豆を甘く煮るとは思わなかったわ、というか甘い豆が美味しいのも知らなかったし」
「アタシの暮らしてる国だと普通に食うんだけど、他の国だと珍しいしな」
「つまりフユの国の独特なお菓子って事なのね」
日本だとごく普通に食べているあんこ。
だが西洋の国に行けばそれは珍しいものへと変わる。
それはこっちの世界でも変わらないようで、豆を甘く煮るという発想自体がない様子。
「おまんじゅうも美味しいし、オシルコ?っていうのも美味しいし」
「あんこ自体が珍しいとはいえ、作ろうと思えば作れるものなんだな」
「似てる食材を使ってるからそっくりそのままではないけれどね」
「その辺は物は試しって事だな」
「でもお米からオモチっていうのも作れちゃうし、こういうのはいい知恵になるわ」
食事処を冬が明けたら建てる予定もある。
ついでに産業としてお土産のようなものも何か作れないか考えている。
食品もそうだが、工芸品などもいろいろ考えている。
「そういえばフユって料理はする人なの?」
「簡単なもんならするけど、手の込んだものは作らねぇな」
「その割に知識があるし、特に魚関係に詳しいのはなんでなの」
「あー、実家が水産加工業やってんだよ、だから子供の時から見てて自然と覚えた」
「水産加工業?魚を加工するみたいな仕事かしら」
冬夕の実家は水産加工業の会社をやっているとの事。
それにより自社持ちの工場があったりもする。
なので魚関係は自然と覚えたし、それを今でも覚えているのだと。
「そういえば海の悪魔が冬になると近海に出るって聞いたけど、何か知ってる?」
「海の悪魔?それってもしかして、足がたくさんある柔らかい生き物か?」
「そうそう、ん?待って、以前教えてもらったタコヤキとかって…」
「その海の悪魔だな、美味かっただろ」
「海の悪魔って食べられたの?それも普通に美味しかった記憶があるんだけど」
たこ焼きやイカを焼いて食べる料理などはとっくに伝えてある。
オルライトはそれに気づかずに食べていたようだ。
ただ世界が変わると考え方などもあり、タコやイカは恐れられるものになる。
「フユの世界って豆は甘く煮るし、海の悪魔は食べるし、変わった国なのねぇ」
「まあ海の生き物ならとりあえず食うっていう国だしな、島国だからこそだよ」
「本当に異世界から来たっていうのを感じさせるわね、その話を聞くと」
「でも食うっていうのは命に感謝するって事だよ、全ての生き物は命食って生きてんだし」
「そうねぇ、そういうのは当たり前だからこそ気が付かない考え方かしら」
異世界というのは当然食文化や人の考え方も変わるものだ。
自分の世界の常識は当然通じない。
ただ異世界人というのは珍しいというのもあり特にオルライトが変わり者なのも大きい。
「でも甘く煮た豆は想像よりも美味しかったわね、受け入れられるかはともかく」
「食わず嫌いはよくないと思うけど、苦手なものは苦手でもいいと思うぜ」
「まあ嫌いなものを無理して食べなくても死ぬ事はないと思うしね」
「偏食は流石によくないと思うけど、好き嫌いがあるのは別に悪くないと思うしな」
「そうよね!そうなのよね!」
その反応を見る限り好き嫌いがあるのは確定っぽい。
オルライトは肉が好きではあるが、野菜嫌いというわけではない。
ただそれでも嫌いなものはある様子。
「…実は緑の豆が駄目なのよ、特にエルフミドリマメが駄目で」
「エルフミドリマメ?」
「緑色の小さな豆で、スープとかにたまに入ってるともうね」
「ああ、グリーンピースか、まああれは好みが分かれるよな、高級なのは美味いらしいけど」
「豆が食べられないわけじゃないのよ!そこは勘違いしないで!」
あんこを美味しそうに食べていたので、豆自体は食べられる様子。
なおエルフミドリマメ、グリーンピースは駄目なのだと。
グリーンピースの話は冬夕も分かる話である。
「こほん、まあまたいろいろ知恵をもらえたのは感謝するわ」
「材料の確保とかなんとかしないとだけどな」
「その辺は村の人達と相談したり、他の領地の生産者と交渉したりするから」
砂糖は決して安いものではないが、数は揃えられると踏んだ。
食事処やお土産などで使えそうな料理やお菓子も考える。
出来るものを採用しているが、冬夕の世界のものと全く同じものは作れないのだ。
食材が似ているからこそ出来ているに過ぎないのが現状なのだから。




