盗賊達の変化
もうすぐ冬に入る手前の季節になってきて二年目もそう遠くなくなってきた。
村の発展を四年で済ませるというのはなかなかに難しい。
住民の数か納めた税金の金額か。
とにかく二年目からが全てにおいて本番となっていく。
「バルカ、盗賊の人達の様子はどうかしら」
「あの人達も今では立派な戦力ですよ、お金をきちんと払う事は大切ですし」
「そう、ならとりあえず今後は今の自警団の巡回に切り替えて」
盗賊達はもうこっそり見ていなくても問題はないだろう。
きちんとお金を払ってくれるのなら働くという事に何も文句はないのだ。
「あ、シュカイン」
「これはオルライトの姉さん、相変わらず自分で巡回してるんだな」
「ええ、やっぱり変な人だって思う?」
「そりゃお貴族様という世界の人間としてみたら変わった人だなって思うさ」
「私だって望みもしない相手と結婚したくないからお父様に啖呵を切った身だもの」
貴族の世界は複雑であり、家の名誉や信用といったものがある。
そうした人間関係については特に繊細になる世界が貴族社会だ。
また貴族は平民などから批判される事も多いが、貴族がどんな世界かも知らないのもある。
「やっぱりあなた達も貴族なんて贅沢してふんぞり返ってる奴らって思う?」
「そりゃ盗賊やってた時はそう思ってたさ、でも貴族も俺達よりずっと大変なんだな」
「少なくとも自由という点においては平民よりはずっとないもの」
「貴族も嫌味な奴が多いとは思うさ、ただ少なくともずっと国には貢献してるんだよな」
「まあ政略結婚とかあるし、街に出るにしても常に護衛がついたりとか何かとね」
盗賊達もそんな貴族を毛嫌いしていた人達だった。
オルライトが特異な存在なのかはともかくとして、貴族の事も知って欲しいと思った。
少なくとも今の盗賊達は貴族の世界の大変さを知って考えも変わっている。
「あなた達が盗賊になった理由って働きたいという意欲があっても働き先がなかったからよね」
「そうだな、別に綺麗な仕事をさせろっていうつもりもないし、それしか仕事はないしな」
「とはいえ国っていうのは労働者がいないと成り立たないもの、階級こそあってもね」
「だから俺達をここで働かせてくれてる事には感謝しかないさ」
「貴族だって生まれながらに貴族じゃないわ、貴族も王族も元を辿ればどんな人なのかよ」
オルライトが言う貴族や王族は元を辿ればどんな人なのか。
それは生まれながらの貴族も王族もこの世の中には存在しないという事。
建国者がどこから来てどのように国を興したのか、という事である。
「貴族も元々はただの商人で、その商人が財を成した結果貴族になった、現実はそんなものよ」
「挑戦してその挑戦に勝った奴、それが結果として貴族と呼ばれてるに過ぎないか」
「建国者、つまり初代国王はどんな人だったのか、多くは海賊や山賊と言われているわ」
「賊達の集団が村になって街になって国になった、そういう事なのか?」
「それを伝えている国は少ないけれどね、ただ国というのは多くは賊から生まれるものなのよ」
シュカインもオルライトのその話を信じられないような顔で聞いていた。
だが国がどのように興ったのかという事は多くの国の国民はまず知らない。
ましてや賊が初代国王だったなどというのは今の世代は否定したくもなるだろう。
「だからこそ生まれながらの貴族も王族もいない、それだけの話よ」
「俺達が嫌ってた貴族や王族も元々を辿れば商人だったりなんだりって事か」
「ええ、何かしらの挑戦をしてその挑戦を成功させたからこそ貴族になったのよ」
「結局は貴族も王族も俺達と変わらないただの人間って事なんだな」
「別に貴族や王族を嫌うのも分かるけどね、一部の人達は本当にふんぞり返っているから」
シュカインが盗賊に堕ちた理由は働く意欲はあっても働き先がなかったから。
それは世の中の不条理でもあるのかもしれない。
ただ結局は貴族や王族はどこからやってきたのか、という事なのである。
「なんにしてもあなた達がきちんと働いてくれている事には感謝しかないわ」
「きちんと金を払ってくれて、飯や寝床まで用意してくれるなら感謝しかないさ」
「そう、なら体に無理をさせない程度にはこれからも頼むわね」
「ああ、任せろ、恩はきちんと返すからよ」
「意外と義理堅いのね、これなら信用に値するわ」
そんな盗賊達もオルライトには感謝しかないのだという。
自分達が盗賊に堕ちた理由を知った上でここで働かせてくれる。
貴族としては変な人に見られるかもしれないが、それはオルライトなりの考えでもある。
「オルライト様、移住を希望する人が500名ほど来ています」
「500人ね、とりあえず調査をしてから返事を返すと返しておいて」
「かしこまりました」
新たに移住を希望する人がまた来ていたようだ。
とりあえず村の住居などの調査を済ませて返事を返す事に。
目標の到達までは4年という時間を最大限に使っていくしかない。
一年目の冬はそう遠くないところまで来ている。




