他種族が持ち込んだもの
領主代行を始めてから半年近くが過ぎ、今は夏から秋への変わり目。
それにより村の方でも新たな野菜や畜肉、道具などの生産が安定し始めた。
ちなみにこの世界にはエルフやドワーフなど他種族が持ち込んだ食べ物も多い。
この世界でそれを発展させ浸透させた功労者とも言えるのだ。
「村の方も落ち着いてきたわね」
「半年でここまで手を付けたオルライト様が凄すぎる気がしますが」
「なんにしても本番は二年目からよ、それまでは油断しないようにね」
とりあえずはこのまま冬が来るので冬への備えも必要になる。
食べ物はもちろん、家の方でも寒さを凌ぐ方法が求められてくる。
「そういえば今日もフユが来ているのよね」
「ええ、毎日ではないようですが、定期的にこちらに呼ばれているようです」
「彼女異世界人だし、何か村の発展に繋がるヒントとか持ってないかしら」
「異世界の文明や技術をこの世界で再現出来るものなのでしょうか」
「うーん…出来そうなものだけでもやってみたいとは思うんだけどねぇ…」
オルライトのそうした柔軟性は褒めるところでもある。
取り入れられるものや作れそうなものはなんでもやってみる。
ただし出来そうにないものはスパッと諦める諦めのよさも強さなのだろう。
「この芋美味いな、アタシの世界の芋とそんなに変わらないぜ」
「フユ殿の世界にもこうした芋はあるのですね」
「ああ、そうだ、この芋を油で揚げたり出来ないか」
「油で揚げるのですか?出来るとは思いますが、植物油でいいのですよね?」
「ああ、こっちの世界の油はよく分からないけどたぶん問題ないと思う」
冬夕が言っているのはフライドポテトの事だろう。
ただ食べていた芋は冬夕の世界で言うさつまいもに近い芋である。
ちなみに冬夕は凝ったものは作れないが、割と料理はする方らしい。
「いい匂いがするな」
「とりあえずやってみたんですが、これでいいですか?」
「ああ、いい感じだ、それとはちみつはあるか」
「はちみつですか?それなら先日採れたものを精製したものなら、これですよね?」
「そうそう、こいつをこの揚げた芋にかけると美味いんだよ」
フライドポテトの事を言っていたのではなくどうやら大学芋の事だった様子。
さつまいもではないがさつまいもに近い芋、それはエルフが持ち込んだ食べ物の一つ。
ちなみにエルフは菜食主義なのではちみつは食べられない。
「うん、美味いな、こいつはアタシの好きな味だ」
「油で揚げた芋にはちみつをかけただけなのに美味しいんですね」
「そういやエルフははちみつは駄目なんだったか」
「ええ、基本的に動物性の食品は食べませんね」
「そういうのは異世界だよなぁ、好き嫌いとかじゃなく特定のものは食べないとか」
そんな話をしているとファリムがやってくる。
道具屋も休憩時間で札をかけて出てきたという。
せっかくなので食べてもらおうと考える。
「いい匂いがするわね、何を食べているのかしら」
「お、ファリムか、ちょっと作ってもらったんだが食うか?」
「お芋?とりあえずいただいてみるわ」
「感想とか聞かせてくれよ」
「ええ、任せて」
ファリムがさつまいもっぽい芋で作った大学芋を食べてみる。
冬夕の世界で言うさつまいもに近い芋であるが、さつまいもではない。
品種の名前とかはないのかと聞いてみる。
「そういえばこの芋って品種名とかないのか?」
「一般的にはエルフムラサキイモで通ってるわね、エルフが持ち込んだかららしいわ」
「まんまだな、でもアタシの世界の食べ物と似てるものが割とあるんだな、この世界も」
「でも似ているだけで同じっていうわけではないのよね?」
「ああ、味や食感が似てるとは感じるけどそれでもやっぱり別物だとは感じるな」
冬夕が言うにはあくまでも似ているだけで同じものではないという。
見た目や味や食感はそっくりだがあくまでもそれだけらしい。
なのでさつまいもではないし、他の食べ物もりんごでもなければオレンジでもない別物だ。
「異世界のもんでも意外と上手くいくもんなんだな」
「それじゃあたしは失礼するわね、また何か美味しいものを作ったら試食してあげるわ」
「しかしアタシの世界に似てるとなると、意外とアタシの世界の調理法が通じるのかね」
「それならそれはオルライト殿にアイディアとして言ってみたらどうですか」
「そういや産業を作りたいって言ってたな、まあ言うだけ言ってみるか」
とりあえずオルライトに言うだけ言ってみる事にした。
自分の世界には強制的に帰されるが、今回はまだ帰されない様子。
とはいえ一応ではある。
「ってわけなんだけどよ」
「それは面白そうね、こっちの文化や文明に大きく影響しない範囲でやってみるわ」
「ならそれも考えてみようぜ」
その話をしてから少しして冬夕は元の世界に帰されていった。
具体的な考えはまた次にこっちに来た時になる。
ただしあくまでもこっちの世界の文化や文明に大きく影響しない範囲で考える事に。
召喚の条件は詳しくは不明だが、こっちの世界でも使えるものは持ち込めないようである。




