勝手に召喚されるだけのシステム
冬夕が元の世界に戻ってから少し。
オルライトもまた村の発展のために様々な思案を巡らせる。
一年目はまず安定を最優先に考えて施策を進めていく事は決まっている。
そんな中どこかで見た顔がまた見られたようで。
「つまり勝手にこっちの世界に召喚されたと?」
「そうだよ、あの人アタシのスマホに何を仕込みやがった」
「こういう事ね、それは興味のある対象をただで帰すわけがないと思ったけど」
どうやら冬夕がまたこっちの世界に来ている様子。
恐らくスマホに施した魔法は相互的な転移の魔法と見て間違いないようで。
「それにしてもまさか全裸で飛ばされてきた時は何事かと思ったわよ」
「アタシの人権マジでどこだよ、風呂入ってる時に転送されるとかやめろ」
「まあ時間の流れは違うみたいだし、数日行方不明みたいな事はないと思うけど」
「あとスマホが勝手に手元に戻ってくるんだが、ホラーかよ、投げ捨てても手元にあるし」
「どうやらそのすまほっていうやつは召喚の媒体にされたみたいね」
どうやら冬夕のスマホには転移の魔法だけがかけられたようではない様子。
勝手に手元に戻ってくるという事はそうした認証系の魔法もかかっているのだろう。
つまり持ち主から決して離れなくなっているという事のようだ。
「それでどうするの?時間が経てば帰れるとは思うけど」
「そうだな、少し外の空気でも吸ってくるわ、遠くには行かないから安心しとけ」
「分かったわ、まあ村の人達とは顔見知りだし、そんな危険という事もないでしょ」
「ああ、んじゃ少し村を見学させてもらうぜ」
「転移とあとは認証系の魔法なのは間違いなさそうね」
そのまま冬夕は村を見学に行ってしまう。
口は悪いが暴力を振るうような人ではないのは以前までの事で分かっている。
なので特に心配はしていないようだ。
「へぇ、やっぱファンタジーって感じの世界なんだなぁ」
「嬢ちゃん、武器に興味があるのか?」
「アタシの世界だとこういうのよりもっとやばい武器もあるしなぁ」
「ほう?もっといい武器があるってのか?異世界ってのは面白いじゃねぇの」
「でも鉄とか鋼とかやっぱ重いよなぁ、アタシには持ち上げるのもきついよ」
冬夕からすればただの鉄の槍や斧でもかなりの重さなのだという。
少なくとも軍隊などで鍛えられた人間が持つ重さに感じるらしい。
そういう所はやはりお互い異世界という事を感じる。
「今回はマッパで飛ばされたから、金とかは持ってないけど、アタシの世界の金で払えるか?」
「流石に異世界の金で払ってもなぁ、珍しい金属とかならまた価値とかも変わるんだが」
「なるほどな、こっちだと合金とかは珍しいのか?」
「合金は普通に高級品だぞ、まさか合金製の金があるってのか?」
「バイカラー・クラッドとかいうやつらしい、確か白銅と黄銅自体が合金だったな」
ドワーフからしても異世界のそうした技術はさっぱりなのだろう。
バイカラー・クラッドと言われても通じるわけもなく。
ただそうした知識は名前を知っている程度のようだ。
「まあいいや、ただこっちだと白銅と黄銅がそもそも珍しいのか?」
「そもそも白銅も黄銅もこっちじゃ見た事もねぇな、存在すら知らん」
「そういうとこは異世界か、まあ下手に持ち込むのもあれだしな」
「そういや嬢ちゃんは酒はイケるクチか?」
「未成年に酒を飲ませようとするな、異世界でもそれはマズいだろ」
ドワーフも別に酒を飲ませようという事ではない様子。
出してきたのはリキュールボンボンだった。
これぐらいならイケるだろという事のようだ。
「こいつはドワーフの名産品でな、酒を使った菓子なんだ」
「ボンボンか、度数の強い酒じゃないだろうな」
「果実酒だぜ、酒に弱い奴でも食いまくらなけりゃ酔わない程度の弱い酒だ」
「なら食ってみるか、んー、不味くはないけどなんていうか甘さが足りないな」
「ほう?意外と味が分かるのか」
異世界という事もありそうした味の違いを感じているのだろう。
チョコレートも自分の世界のものに比べると甘さは控えめだ。
もちろん不味いとは感じないが、そうした違いは感じるのだとも。
「ん?ああ、帰らなきゃならねぇみたいだ、またこっちに来たらいろいろ聞かせてくれよ」
「ダークエルフに仕込んでもらった魔法ってやつか、また面白いもんを仕込まれたねぇ」
「でも異世界の嬢ちゃんか、こいつはいろいろ聞かねぇとな」
どうやら転移の魔法は任意発動ではなく時限式の発動の様子。
ただ発動にかかる時間の指定なども出来ないようだ。
なので向こうからこっちに突然飛ばされるし、逆も突然戻される。
ただこっちに飛ばされる際には人の目がないところでしか魔法は起動しないようではある。




