人生の酸いも甘いも
季節は秋になり少しずつ過ごしやすくなっていく季節。
オルライトの領主代行としての任期ももう少しで終わりとなる。
本人は正式に要請が来たのなら領主になるつもりではある。
家の方もその方向で調整が進んでいるようでもあるようだ。
「あら、今日の漁は終わったのかしら」
「これはオルライト様、ええ、さっき終えました、捕りすぎてもいけませんしね」
「それにしても海賊なのに漁師の知識も豊富っていうのは意外だったというか」
オルライトがスカウトしてきた海賊達は漁師の知識も持ち合わせている。
それは彼女達を育てた海賊団が、海で生きる方法として教えたものなのだろう。
「その漁の知識ってあなた達を育てたっていう海賊から教わったの?」
「そうだよ、奴隷として売られた私達になぜか文字の読み書きとかいろいろ教えてくれてね」
「それって海賊なのかしら、意外と学があるというかなんというか」
「女としても必要とされたけど、それ以上に自分達がいなくなった時の事も想定してたのさ」
「つまり自分達がいなくても生きていけるようにかしら」
海賊達の境遇はまず奴隷として家から売り飛ばされた事から始まる。
そして勇敢に戦った事に感服した海賊がそばに置くようになったという。
その際に自分達がいなくなった時のための教育も叩き込んだという事なのか。
「でも複雑な人生を送ってきてるって感じはするわよね」
「まあそうだね、人生の酸いも甘いも経験したきたって事だよ」
「今のこの村での生活はどうかしら」
「悪くないよ、海賊だった私達を受け入れるどころか、いろいろ世話を焼いてくれてさ」
「まあある程度の歳を取ってくると、あなた達みたいな人でも娘みたいに見えてくるのよ」
それもあり海賊達は漁師としてだけでなく、子守りなどにも協力しているのだという。
子供の世話をしている時の彼女達は普段の勇ましさが嘘のようだとも聞く。
だからこそそこは女としての矜持のようなものもあるという事か。
「でも海賊として勇敢だったあなた達も、今では立派な村の戦力よ」
「ははっ、それはどうも、でも私達はオルライト様だからついていってるのさ」
「あら、言ってくれるわね、嬉しいじゃない」
「でも貴族なんていいイメージがなかったけど、オルライト様が特殊なのかねぇ」
「うーん、貴族ってそれこそ国の根幹だから、悪い人ばかりだと国の腐敗になっちゃうし」
オルライト曰く貴族にも様々だという。
とはいえ多くの貴族は真っ当に生きている。
いいイメージがないのも分からなくはないが、思ってるよりはいい人達だという。
「海賊として生きてきて、でも普通に学があるっていうのは戦力として頼もしいわよ」
「オルライト様はどっちかというと私達寄りの性格な気がするけどね」
「まあ子供の時は野生児みたいとか言われてたから、なんとなく分からなくはないわ」
「ははっ、野生児とはそりゃいいね、でも貴族ってお勉強漬けのイメージだからなおさらさ」
「まあ確かに勉強は厳しくさせられるわよ、貴族はいろいろ覚える事もあるから」
海賊達は人生の中で楽しい事も辛い事も経験してきた。
親に売り飛ばされ、海賊に教育され、村にやってきた。
その数奇な運命は彼女達を強い女戦士へと成長させたのだ。
「今はもう家とか親に対する未練も一切なさそうだしね」
「娘を売り飛ばすような親や家になんて頼まれても帰ってやる義理もないしね」
「親が生きていたとしても、未練がないなら無理に会わせる義理もないしね」
「オルライト様がその気になれば、私達の親の事ぐらいは調べられるんだろうけどね」
「まあ調べられるわね、でもその必要がないからやってないだけよ」
海賊達は他の貴族だとしたら恐らくついてこなかっただろう。
オルライトは彼女達を引っ張りその道を示せるだけの力がある。
そんな女傑のような精神もまた彼女達を惹きつけたのかもしれない。
「海賊とはいえ一応は女なんだし、女として出来る事もいろいろやってるのよね」
「丸くなったとはいえ、海賊の私達に子守りを任せるのもなかなかに信用されてるね」
「それはあなた達に母性を感じてるっていう事でもあるんじゃないかしら」
「母性ねぇ、親の事なんて何も知らず、親になった事もないのにかい」
「でもあなた達を育てた海賊は親みたいなものだったなら、その影響は受けたんじゃない?」
海賊達に影響を与えたのはそれを教育した海賊達。
世の中を生きていくために必要な最低限は叩き込まれている。
教育の大切さもまた実感する話である。
「とりあえず今後もいろいろ力を借りるからよろしくね」
「ああ、任せておいてくれていいよ」
「やっぱり頼もしいわ、人生の経験値というかなんというか」
海賊達の人生は波乱万丈。
それでもその若さにして酸いも甘いも経験してきている。
だからこそ村で様々な事に役に立っているという。
女でありながら腕力もそれなりに強いというのは立派な武器なのだろう。




