鍛冶屋が作るもの
村も少しずつ秋の気配が近づき始めてきた季節。
そんな中オルライトの領主代行としての任期はもう少しで終わる。
本人は正式に領主になるつもりではある。
そのための手続きなどは早いうちに済ませているようで。
「それにしても鍛冶屋って鍋とかフライパンまで作るのね」
「まあな、本来は武器とか鎧を作りたいんだが、平和な世の中需要はあまりないのさ」
「でも軍隊なんかには卸しているのよね?」
ドワーフ曰く平和な世の中において武具はそこまでの需要はないという。
とはいえ国の軍隊などには卸しているようで、あくまでも民間の需要がないという事らしい。
「ドワーフの作る武具は国からもお墨付きが出るぐらいには質がいいらしいわね」
「まあな、国はいいお得意様だ、とはいえ民間向けには鍋やフライパンを作ってるがな」
「実際ドワーフの作る金属製品ってどれも品質がいいものね」
「そこドワーフの誇りってやつよ、下手な仕事は出来ないしな」
「あくまでもプロとして手は抜けないって事なのね」
ドワーフとしても職人としての誇りがあるのだろう。
だからこそ仕事に手を抜く事は出来ない。
プロとはそういうものなのだろう。
「でも民間に対する武具の需要が少ないっていうのは、国に軍隊があるからこそよね」
「とはいえ村にも自警団があるから、そういう人達にも作ってるんだよな」
「まあ頻繁に駄目にしたりしないものね、実戦は少ないし」
「戦争なんかがあれば武具の需要は上がるが、戦争なんてないに限るしな」
「そうね、でもドワーフの作る武具ってそんな簡単に壊れないでしょ」
ドワーフの作る武具は簡単には壊れないもの。
だからこそ戦争などになれば壊れる速度も早くなる。
尤も村では鍋やフライパンを作っているので、やはり需要という事なのか。
「ドワーフってそれこそ武具作りが本来の仕事なのよね?」
「本来はな、まあ武具以外にも作れるっていうのは何かと稼ぎになるもんさ」
「国にお墨付きをもらえるぐらいの品質なら当然の品質なんだろうしね」
「まあ平和な世の中だと、武具の大量消費は起きない分稼ぎは減っちまうがな」
「その辺は悩みどころなのかしら」
ドワーフからすれば武具が大量消費されればそれだけ儲かる。
とはいえそういう世の中にはなって欲しくないというのもある。
ドワーフからすれば複雑な話でもあるという事だ。
「でもドワーフってお金を稼ぐ方法が何かとありそうではあるわね」
「まあ軍隊っていうお得意様がいる限りは食いっぱぐれはしないさ」
「そこは訓練用の武具なんかでもお金にはなるって事なのよね?」
「まあな、真剣での訓練なんかもやってるからこそではあるが」
「ドワーフからしたら受注が多い方が嬉しいのは確かだものね」
鍛冶屋である以上メインの売り物はやはり武具である。
とはいえ平和な世の中において頻繁に受注が来るものでもない。
なので新たな商売の開拓として工芸品としての武具を作り始めたのだとか。
「それでお金を稼ぐ方法はなにかと考えてるのよね」
「ああ、今は飾るための武具、工芸品としての武具作りはしてるぜ」
「工芸品としての武具?実際に使わないで眺めるものって事かしら」
「ああ、だから金持ちなんかがよく買ってくれるのさ」
「へぇ、面白い新規開拓なのね」
ドワーフ曰く工芸品としての武具は金持ちによく売れるという。
なので売値は少し強気の値段に設定しているとか。
剣は切れないし、鎧や盾は実用性には程遠いが、あくまでも飾るためのものなのである。
「でも観賞用の武具なんて面白い考えよね」
「以前フユの嬢ちゃんが言ってたんだ、自分の世界にはそういう剣や鎧があるってな」
「フユが言ってたっていうなら少し面白くなってきそうね」
「だから剣は切れないし、鎧や盾も実用性はほぼないのさ、あくまでも飾るもんだしな」
「そういう目的のものっていう事だものね」
あくまでも飾るもののため、少し豪華に作ったりしても許されるのは大きい。
宝石を散りばめた盾やかっこよさを優先した鎧に切れるとは思えない形状の剣など。
そうした見た目を最優先した武具を作れるのはドワーフとしても楽しいのだとか。
「飾るための武具だからこそ実用性はガン無視出来るって事でいいのよね?」
「そういう事だな、だからこそ派手な装飾なんかも出来て楽しいぜ」
「注文を受けて作るものなんじゃないの?」
「飾るのが目的のもんだからな、注文も金に物を言わせたもんも多いのさ」
「戦いで使うわけでもなく、あくまでも飾るだけのものだからこそね」
装飾としての武具は好きに注文を受けられる。
その分お金はかかるが、金持ちには安いもの。
そういう新しい武具の世界という事なのである。
「でもドワーフの新規の顧客って事なのね」
「飾るためだけの武具ってのは意外と注文もたくさん来るしな」
「自由に注文出来るのはやっぱり強いのね」
ドワーフの新たな商売が装飾用の武具である。
飾るためだけのものなので、好きに作る事が出来る。
注文も趣味全開のものが多いとの事らしい。
お金持ちがお金を使う新たな商売になりそうだ。




