冬夕のスマホ
夏にも突入し村も暑くなり始めた季節。
そんな中冬夕がこちらの世界に転送される時にはスマホが使われる。
元の世界に戻る際に転送魔法を仕込まれていた事が理由だ。
ただそれによる問題が一つあるらしいようで。
「フユの使ってるスマホっていろいろ便利な道具なんでしょ」
「まあ便利だな、こいつ一つで大体は完結しちまうし」
「技術が進んだ世界の文明って大したものね」
そんな冬夕のスマホは異世界ではオンライン関係は全滅する。
ただ問題はそこではないようで。
「でもスマホに転送の魔法を仕込むなんて大したものね」
「ただそのせいでこいつの機種変が出来なくて、新しいのと二台持ちになったんだよ」
「機種変?新しいものに買い替えるって事よね?」
「ああ、データの転送とかも出来なくなってて、全部手動でやったわ」
「つまり古いスマホに入ってた情報は全部手入力でやったのね」
冬夕曰く転送の魔法を仕込まれた古いスマホはあらゆるデータ転送が出来なくなったという。
なのでデータは全部手作業で新しく登録し直したとの事らしい。
またシムカードなどもなぜか外せなくなっているとのこと。
「つまりその古いスマホは完全な転送用の触媒になってるって事なのかしら」
「そうっぽいな、まあゲームのセーブデータとかはクラウドだからギリ移せたけど」
「本体からの直接的な転送が出来なくなってるっていう事でいいのかしら」
「だと思う、オンラインサーバーに転送してたものは新しい方に移せたし」
「言葉は難しくてよく分からないけど、別のところに保存してた情報はコピー出来るのね」
冬夕が言うにはクラウドやオンラインサービスによる保存は転送出来るらしい。
ただし最新のデータは転送出来なかったとのこと。
つまり最後に預けたデータなら新しく買ったスマホに転送出来たらしい。
「要するに転送の魔法が仕込まれた事で、この世界の情報を秘匿する状態なのかしら」
「だと思う、オフラインのシステムは普通に使えるけど、写真とかは勝手に消えるし」
「こっちで写真を撮っても元の世界に帰ると勝手に消えてるっていう事なのよね?」
「ああ、だからあたしの記憶には残るんだけど写真とかのデータとしては残せないっぽいな」
「ふーん、スマホに仕込んでる魔法は転送以外にもあるって事なのかしらね」
スマホには転送の魔法以外にも仕込まれているようではある。
つまり写真などのデータとして持ち帰る事が出来ないわけだ。
冬夕本人の記憶は消えないので、スマホに記録する事が出来ないという事か。
「転送用になったスマホは持ち続けるしかないのかしらね」
「ただ新機種の方は持ち込めても写真とかはそっちも消えるんだよな」
「つまり魔法を仕込まれたものは魔法がもう一台のスマホにも作用してるのかしら」
「そんな気はする、まあオンラインのサービスはこっちだと全滅だからそんな変わらないけど」
「スマホって魔法の触媒にも出来るのね、面白い話だわ」
古いスマホは今ではすっかり転送用のデバイスになっている。
データの転送は出来ないし、写真なども勝手に消える。
つまり完全に魔法が発動するための道具になっているのである。
「スマホって便利なのは分かるけど、ネット?っていうのはこっちでは使えないのよね?」
「ああ、オンライン関係は完全に全部使えないな」
「それはネットのシステム上の理由って事でいいのかしら」
「そうなるな、ワイファイも有線もネット関係の技術がないんだから」
「それってつまりネットを閲覧するための技術がこの世界にはないって事なのね」
異世界である以上ワイファイも有線接続もない。
なのでネット接続が前提のサービスやシステムは全滅して当然である。
スマホも異世界ではただの板になるという事だ。
「スマホに魔法を仕込んだのは分かるけど、転送だけじゃないのは確定かしらね」
「ああ、写真とかのデータの持ち出しが出来ない魔法も仕込まれてると思う」
「この手の魔法はダークエルフだろうから、いろいろ仕込んだのかしらね」
「今になっていろいろ判明してる辺り、分からないもんだな」
「スマホは便利だけど、ネットに繋げなければただの板って事なのね」
そんなスマホも古い方は処分出来ない状態である。
困る事は特にないのだが、いつまでも古い機種を持っていると見られる事はある。
まあ新しいスマホは自分の世界で使う用になっているという事で。
「でもスマホってバージョンアップみたいな事はされていくのね」
「新しくなっても、機能を全部使いこなす奴は珍しいけどな」
「そんなに多様な機能が詰め込まれてるのね」
「スマホってそういうもんだしな、だから依存するリスクもあるんだが」
「便利だからこその怖さってあるものなのねぇ」
スマホに全部入れてしまうとなくした時に何も出来なくなるのが怖い。
電子マネーの他に現金もいくらか持ち歩けみたいな話だ。
スマホに全部詰め込むのはリスクでしかない。
「でもスマホがそんな事になってたのね」
「ただの転送装置だけじゃなかったって事だよ」
「スマホにそれだけリスクもあるっていう事なのねぇ」
古い方のスマホは転送装置の板となっている。
データの転送も出来ないのでただの板である。
スマホに仕込まれた魔法は転送の魔法以外にもあったという事だ。
魔法というのは凄いものである。




