かつての盗賊
春も後半戦になり夏が少しずつ近づいてきている季節。
そんな村にも人が増え、先日街への変更の申請も終わった。
近い内にこの村は街として認定されるだろう。
またオルライトがスカウトした人達もしっかりと役に立っているようだ。
「あら、しっかりと働いてくれているのね」
「オルライト様、ええ、今ではすっかり村の一員ですよ」
「以前は盗賊をやっていたのが信じられないぐらいに変わったわよね」
盗賊達も今ではすっかり村の戦力として活躍している。
だからこそ盗賊達は盗賊になった理由も改めて思っていた様子。
「それにしても盗賊が生まれる理由も改めて考えさせられるわね」
「結局は貧しい人達が仕事も見つからないまま盗賊に堕ちるんですよね」
「貧しい人達が、盗賊を減らすには仕事をきちんと用意してあげるのが一番なのかしら」
「盗賊に限らずですが、賊というのは盗賊でも山賊でも海賊でも貧しい人がなるものですしね」
「貧しい人はそもそも仕事がないというのが最初に来るのね」
そんな盗賊達も貧しさ故に盗賊になるしかなかったというのが現実だ。
オルライトに拾われなければ、討伐され牢獄にいただろうという事。
だからこそオルライトには何よりも恩義を感じているという事でもある。
「貧しい人はまず国の支援にも辿り着けない、仕事がないのも雇ってくれないからよね」
「仮に仕事があってもきつい肉体労働ばかりですからね」
「それでも仕事があるだけマシなのかしら」
「そもそも貧しい人というのは教育もまともに受けていないという事が多いですし」
「だからこそ仕事があったとしても、そういう仕事しかないのよね」
貧しい人はまず仕事を探しても雇ってくれるところが少ないのがある。
そんな中雇ってくれるところが見つかっても基本的にはきつい肉体労働だ。
それでも仕事があるだけいいのかもしれないが。
「私も賊の人達を全員救済するみたいな事は出来ないしねぇ」
「生きていくには手を汚さないといけない、そういう人達なんですよ、賊っていうのは」
「仕事があるのなら賊になんてなってないものね」
「それに雇う側も人を選ぶ権利ぐらいありますからね」
「そうね、少なくとも何かやらかしそうな人を雇うリスクもあるもの」
過去に何かしらやらかしている人を雇うのはリスクでもある。
雇用する側としても揉め事を起こしそうな人は回避したい。
貧しい人からしたら仕事を選ぶ余裕がないのもまた事実だ。
「あなた達もそれだけ貧しかったという事なのよね」
「はい、ただみんな何か一つは技能を持っていたのだけが救いだったかと」
「盗賊の事情が複雑というのはよく分かったのよね、まず仕事がないという事からだし」
「ええ、本人達に働きたいという気持ちがあったとしても、仕事は選べませんから」
「盗賊に堕ちるのは貧しさが原因、どんなに手を尽くせても全てを救うなんて無理なのよね」
オルライトも全てを救うのは無理だというのは理解している。
何かを救えば他の選択肢を放棄する事になる事もある。
それでも出来る事は全てやりたいと考えるのがオルライトでもある。
「私は盗賊の背景までは知らなかったのよね、でも国っていうのはそういうものなのかしら」
「そもそも政治がどれだけ上手くやっても、貧しくなる人は生まれるものなんですよね」
「その貧しさの理由も働けなくなった結果だったりするものね」
「働けなくなったら収入が途絶える、その時にどうするかですからね」
「体を壊して働けなくなる事は少なからずあるものね」
どんなに健康でも突然働けなる事がある。
貧しくなる事はある日突然やってくる事があるという事。
だからこそ人は体にも気をつけないといけないという事だ。
「でもみんな変わったわよねぇ、盗賊だったのも昔の話というか」
「みんなオルライト様に恩義を感じてるんですよ、盗賊を雇うなんて物好きでしょうし」
「仕事を与えたっていうのが何よりも大きいっていう事だったのかしら」
「そうでしょうね、だからこそオルライト様に恩返しがしたいんです」
「そう言ってくれると私としても嬉しい限りね」
盗賊達はオルライトへの恩義を強く感じている。
だからこそ必要とされる限りは尽くしていきたいとも考えている。
それに村の人達にも受け入れられているのは大きいのだろう。
「盗賊になる理由については分かるとしても、そうなるしかない理由もあるのよね」
「ええ、貧しくて仕事もない、そんな人達が生きていくには悪事を働くしかないんです」
「止まない雨はないけど、今降っている雨に耐えられないという事ね」
「悪事を働かなければ貧しさで飢えて死ぬかもしれませんしね」
「そう言われると綺麗事も言えなくなるわよねぇ」
飢えて死ぬか悪事を働き牢獄に行くか。
本当に貧しい人には選択肢はほぼないのだ。
だからこそ今降っている雨に耐えられないという話になってくるのだ。
「とりあえず盗賊の人達がすっかり改心していて安心ではあるわね」
「恩義に報いる事が生きる意味になりましたから」
「恩義、そういう気持ちの大切さよね」
盗賊達は恩義のためにオルライトに尽くしている。
必要とされる限りこの命はオルライトのもの。
それは盗賊から救い出してくれた事への感謝。
あらゆる賊は貧しさからその身を堕とす事がほとんどなのだから。




