梅の実の使い方
すっかり春の陽気になり村も暖かくなってきた。
そんな中村にいる自称元海賊の老人は変わらずの様子。
相変わらず酒を飲み、自由気ままに生きているとのこと。
その老人が飲んでいる酒に少し興味が湧いたようで。
「相変わらずお酒を飲んでいるのね」
「おや、領主様、まあ楽しみはこれぐらいしかないんでね」
「そういえば飲んでるお酒はいつも飲んでるお酒じゃないわね」
オルライトが気づいたのは、その酒がいつもの酒とは違うということ。
いつもはワインを飲んでいるのに珍しいと感じたようだ。
「そのお酒はいつものワインじゃないっぽいけど」
「こいつは梅酒ってもんらしい、梅の実から造る酒なんだそうだ」
「梅の実、そういえばエルフが梅の木を育てていたわね」
「そいつをドワーフが酒にしたって事さ、こいつはこいつで美味いもんだぜ」
「梅酒、ドワーフってそんなものまで作れたのね」
エルフが育て収穫した梅の実からドワーフが造った梅酒。
エルフも梅の実は使うものの、ドワーフと分けて使っているようだ。
元海賊の老人もそんな梅酒を気に入っているようで。
「でも梅酒ね、美味しいものなのかしら」
「個人で楽しむ用に作ってるらしいからな、味は美味いぜ」
「個人で楽しむためのお酒ね、それなら確かに報告はしなくてもいいんだけど」
「梅の実はジュースにしたりもするらしいしな、エルフが仕込んで村のチビ共にやってるぜ」
「へぇ、梅のジュースなんかもあるのね」
エルフは梅の実からジュースを作り、ドワーフは梅酒を造る。
そうして梅の実は消費されていくという。
とはいえ産業に出来るほどの数は育てていないようでもある。
「梅の実って飲み物にするものなのね、なんか意外だわ」
「チビ共も梅ジュースを気に入ってるっぽいしな」
「なるほど、それだけ美味しいのね」
「オルライト様はそういうのは飲まないのかい」
「お酒はそんなに好きでもないのよね、ジュースなら美味しそうだけど」
オルライトも社交的な場では酒を飲むが、積極的に飲むタイプではない。
なので酒はそんなに好きというわけでもない様子。
ただそれでも酒の楽しみ方は理解しているようだが。
「梅の実でそんなものを作ってたなんて意外だったわね」
「個人で楽しむためのもんだしな、ドワーフには梅酒は美味なんだろう」
「でも梅って酸っぱいイメージがあるのよね」
「確かに梅は酸っぱいな、でもそこにある甘さがまた美味いのさ」
「そんなものなのね、でも梅が美味しいと感じるのは確かかしら」
老人曰く梅の美味しさはその酸っぱさなのだという。
だからこそ美味しい梅の楽しみ方はその酸っぱさなのだとも。
ちなみに梅の実などに限らず、個人で楽しむために育てている作物もあるようだ。
「でもワイン以外のお酒も飲むのね、なんか意外だったわ」
「まあこの国で流通してる酒っていうと、多くはワインか蜂蜜酒だからな」
「他のお酒はあまり見ないっていう事なのかしら」
「ああ、だからこの村ではいろんな酒が飲めて楽しいってもんだぜ」
「ただの呑兵衛というわけでもないのね、そっちもまた意外というか」
老人も酒の楽しみ方は理解している様子。
だからこそこの村では多様な酒が飲めて嬉しいという。
個人で楽しむために造っている多様な酒をドワーフからもらっているのだろうか。
「お酒の美味しさとかは理解しているのよね?」
「まあな、俺も酒は好きだが酔い潰れるために酒を飲んでるわけじゃねぇ」
「意外とお酒通なのね、好みのお酒とかあるのかしら」
「好みってのは特にないな、ただ昔飲んだ高い酒は本当に美味かったのは覚えてるぜ」
「へぇ、そういうのは分かる人なのね」
老人曰く昔飲んだ高い酒は本当に美味しかったという。
とはいえ今はそんな酒が飲めるほどの金は持ち合わせていない様子。
海賊時代に手にした富は今は持っていないという事のようではあるが。
「高級なお酒はその辺の安酒とは違うっていうのは本当なのね」
「まあな、高い酒っていうのはゆっくりとちびちび飲むもんなんだよ」
「瓶からラッパ飲みするみたいなお酒ではないのね」
「ああ、俺もそれなりに安い酒ならラッパ飲みしちまうけどな」
「いいお酒はきちんとグラスで飲むっていう事なのね、味が分かるから」
老人もいい酒をラッパ飲みするような度胸は持ち合わせていないのか。
いい酒はグラスでちびちびと飲むのが少なのだと。
尤も安酒は平気でラッパ飲みするという事のようではあるが。
「でもあなたがお酒にそんな詳しいとは意外だったわね」
「ドワーフの造る酒はどれも美味い、その辺の店の安酒とは比べ物にならんさ」
「お酒について少し勉強になった気がするわね」
老人の飲んでいる酒はこの村では多様なもの。
ここに来る前にいい酒も飲んだ経験はあるとの事らしい。
本当にいい酒は想像よりずっと美味しいという事なのだろう。
酒の美味しさがよく分からないオルライトもそれだけは分かるのだと。




