異国のお酒
実はとっくに四年目が始まっていたオルライトの最終年。
ここで父親から出された条件をクリアすれば婚約の話はなかった事になる。
その条件を達成するために最後の追い込みをかけていく事にする。
そんな中でも村の発展は進めていく事となる。
「このお酒どうしようかしら」
「お、美味そうな酒を持ってんじゃねぇの」
「あ、ドワーフの、お酒への嗅覚は凄いわね」
オルライトが持っているのは、村によく来る行商人から買った異国のお酒。
ドワーフがそれを見て、美味しそうだと言ってきた。
「このお酒について何か知っているのかしら」
「ああ、噂程度ではあるが聞いた事がある、確かウイスキーっていう酒らしい」
「ウイスキー、行商人の人もそんな事を言ってたわね」
「そいつも作ってみたいんだが、異国の酒だけに取り寄せるのも金がかかってな」
「作れるの?確かにドワーフはお酒も作ってたけど」
ドワーフは鍛冶や細工の他に酒も造って売っている。
とはいえその酒も種類はそんなに多くない。
ただ味などが分かれば作れなくはないらしいが。
「よければこのお酒いる?私はそんな好きじゃないから」
「いいのか?ならありがたくいただいとくぜ」
「でもドワーフのお酒への愛は大したものよね」
「まあな、ドワーフの信仰する神様ってのは鍛冶の神と酒の神なんだよ」
「ドワーフの信仰ってそういう神様なのね、種族によって信仰する神様も変わるのね」
ドワーフの信仰する神は鍛冶や細工の神に加えて、酒の神もある。
エルフなんかは精霊信仰をしているし、ハイランダーは山の神を信仰している。
そうした異種族の信仰はその得意とする技能に関係しているらしい。
「でもこのお酒の量さんって出来るものなの?」
「分析さえ出来ればなんとでもなるぜ」
「ドワーフって何気に凄いのかしら」
「まあ仮にも酒の神を信仰してるしな、料理なんかも酒があってこそ美味いもんだ」
「ドワーフのお酒への愛は本物っていう事だけは分かるわね」
ドワーフにとっての酒とは水のように大切なものでもある。
とはいえ酒豪が多いという事ではなかったりする。
だからこそドワーフにとっての酒は神への信仰とも大きく関係しているのだ。
「でもウイスキーね、どんなお酒なのかしら」
「蒸留酒の一種らしい、酒ってのも種類がいくつかあるからな」
「ふーん、私にはそういうのはよく分からないわ」
「オルライト様はお酒は飲める年齢なんですよね?」
「一応ね、でも美味しさについてはよく分からないかしら」
オルライトも年齢的に酒を飲む事は出来る。
とはいえその美味しさについてはよく分からないという。
お酒の美味しさが分かるにはまだ若いという事なのか。
「お酒ってそんなに美味しいものなのかしら」
「まあ酒っていうのは飲み方もありますしね、酔い潰れるために飲む人もいるんですよ」
「ふーん、ストレスの発散のためにって事なのかしら」
「ただ酒に溺れる人間っていうのは、多くは貧しい人間なんですがね」
「確かに貴族でお酒に溺れた人っていうのはほとんど聞かないわね」
ドワーフ曰く酒に溺れる人間は多くは貧しい人なのだという。
酒というのは決して安いものではないにも関わらず、そうなる人は多いとも。
ドワーフにとっての酒はコミュニケーションツールでもあるからこそなのか。
「お酒は楽しく飲んでこそ、そういう事が言いたいのね」
「ええ、ドワーフにとっての酒はお近づきの印みたいなとこもありますんで」
「まさにコミュニケーションツールなのね」
「まあなんにせよこの酒はありがたくいただいておきますよ」
「ええ、新しいお酒が作れるようになったら産業にも出来るしね」
オルライトはドワーフの造る酒も産業として村の外に出している。
ドワーフが造る酒だからこそ評判はかなりいいという事らしい。
造れる酒の種類が増えれば、また多くの客を獲得出来そうである。
「そういえば蒸留酒って言ってたわよね?このウイスキーって」
「ええ、ビールやワインなんかは醸造酒ですね」
「ふーん、お酒にも作り方は様々なのね」
「なんにせよ成分さえ分かれば、酒を造るぐらいは出来ますんで」
「ドワーフの舌って実は凄いのかしら、味や成分が分かればお酒を造れるとか」
ドワーフは酒を愛し、酒に愛された種族。
だからこそその舌は酒の味にはとても敏感だ。
酒造りも得意な理由はそこなのかもしれない。
「今造ってるお酒はワインとビールでいいのかしら」
「ええ、そうですよ、醸造酒は今造ってますね」
「そこからさらに蒸留酒にも手を広げていこうって事なのね」
「異国の酒は仕入れるのも大変なんですよ」
「まあそれは分かるわね、異国のものだと輸送費とかも馬鹿にならないし」
それでもオルライトに譲り受けたウイスキーの分析には挑戦するという。
そこからウイスキーを造れれば村の産業となる。
オルライトの任期が終わるまでに造れるかは分からないが。
「それじゃ期待させてもらうわね」
「はい、必ずや成し遂げてみせます」
「蒸留酒を造る、村の産業としてはいい試みになりそうだわ」
そうしてドワーフの蒸留酒造りが始まる。
今造っているのは醸造酒がメインでもある、ドワーフの酒造り。
酒を愛し、酒に愛されたドワーフに期待する事になる。
ドワーフにとっての酒とはそれだけ意味があるものなのだから。




