盗賊の問題
ドワーフとの交渉もまとめて村の方でも武具屋などが稼働し始めた。
装飾品は服飾店の方でそのまま商品として扱う事になった。
ヴィクトリエルもドワーフの細工技術を近くで見られて刺激になるようだ。
その一方でまた別の問題も発生しているようで。
「バルカ、何があったの?」
「ああ、オルライトさん、実は先ほど盗賊を捕らえたんですけどね」
「盗賊ね、昔から言われてきた問題、少しその人達に会わせてくれないかしら」
盗賊に会わせて欲しいというオルライト。
盗賊がなぜ生まれてしまうのかという事とも向き合わなければならないのだ。
「結構な数を捕まえたのね、あなたがこの盗賊団のリーダーでいいかしら」
「なんだ、どうせ国に突き出すつもりなんだろ?」
「あなた達はなぜ盗賊なんかしているの?」
「そんな事も知らないで言ってるのか?貴族の金持ちは本当に何も知らないんだな」
「そうね、確かに私は何も知らないわ、だからあなた達にその話を聞こうと思うの」
話を聞くというオルライト。
それは盗賊になる理由をきちんと知ろうという事でもある。
その理由は極めて単純でありながら難しい問題でもある。
「盗賊になる理由ってなんなのかしら」
「そんなの決まってるだろ、金も仕事もないんだよ、それでも生きていかなきゃならねぇ」
「だから盗賊しかなるものがないという事ね」
「そうだよ、働こうとしても話も聞かずに追い返されるんだ」
「貧しさの連鎖という事ね、お金がなくて働こうにも追い返される、貧困の難しさだわ」
盗賊になる理由はシンプルにお金も仕事もないからである。
だから生きていくためには悪事に手を染めるしかない。
本当はこんな事をしたくないというのは盗賊達全員が思っている事でもある。
「…ならこの村で働いてみない?」
「国に突き出したりしないっていうのか?優しいねぇ」
「もちろんあなた達にその気があるならよ、力仕事ぐらいなら出来るでしょう」
「そうだな、手先はお世辞にも器用じゃねぇ、頭もよくねぇからそれしかないよな」
「それでもいいなら仕事はあるわよ、私はこの村を大きくしなきゃならないの」
オルライトが出した提案はこの村で働いてみないかという事。
もちろん相応の賃金は払うし、必要であれば休みも出す。
力仕事ぐらいなら出来るのではないかという事である。
「嫌かしら?」
「…でも働くにしても知識なんてほとんどないぜ?」
「それは覚えていけばいいわ、気に食わない人に頭を下げられるならだけどね」
「…それなら働かせてくれ、力仕事でも汚れ仕事でもなんでもやる」
「いいわ、ならまずは適性を見るわね、最初の一ヶ月ぐらいは好きに働いてみて」
まずは適性を見るというのは何よりも大切な事だ。
その上で盗賊達の適性のある仕事に各自従事してもらう。
それでも駄目ならその時はまた考えるという。
「あなた達もそれでいいかしら」
「…お頭がそう言うなら俺達はそれに従います」
「分かったわ、それで頭領のあなたの名前を聞いてもいい」
「シュカインだ」
「分かったわ、とりあえず武装解除した上で各自好きに働いてもらうから」
とりあえずバルカや自警団の人達に盗賊達の武装解除をさせる。
その上で盗賊達の拘束を解いてある程度身なりを綺麗にする。
それが終わったあと各自村で働かせる事になった。
「本当によかったんですかい?」
「あら、労働力は多い方がいいわ、適性があるなら充分役に立ってくれると思うし」
「人がよろしいんですね、普通の領主なら話も聞かずに突き出してますよ」
「今は少しでも労働力が欲しいの、それにこういう待遇をすれば盗賊問題もなんとかなるかも」
「そういう事も考えているとは、恐れ入ります」
盗賊達もすぐにその適性が分かるわけでもない。
ただ何も出来ないなどとはオルライトは思っているようだ。
それは盗賊達が盗賊になる前に必ず何かしらの素質があったからだと考えているからだ。
「盗賊達はしばらく見張りをつけて様子を見て、あと意図的に見張りは定期的に外すのよ」
「分かりました、意図的に見張りを外した上で何もしない事の確認ですね」
「ええ、そういう事」
「盗賊達を労働力にしようとは、普通の貴族なら考えもしないでしょうに」
「あら、労働力が欲しい以上盗賊だって立派な労働力よ、奴隷扱いするつもりもないもの」
あくまでもきちんとした報酬、労働に対する対価を払うからこそだ。
その上で何が出来るのかを見るという事は大切だ。
オルライトはまずそこから見ていこうというつもりらしい。
「それじゃ引き続き村のパトロールなんかも忘れないようにね」
「分かりました、盗賊達の働きっぷりは報告として上げますんで」
「ええ、頼んだわね」
そんな盗賊達を労働力として働かせてみる事になった。
仮に駄目だったとしても、それまでの賃金だけはしっかり払うつもりだ。
力仕事がメインになるとは踏んでいるが、出来る事をさせる。
得意な事をさせるというのは大切な事だ。




