ドワーフと交渉
一年目はまず安定を最優先に仕事を進めていく事にしたオルライト。
なのでまずは土地の開拓や人の招聘、設備の充実を最優先とする。
その上で二年目から産業を本格的に稼働させていく事となる。
最優先にすべきはそうしたものを整えていく事にある。
「フェルゼンハント領まであとどれぐらいかしら」
「あと二時間ってところです」
「分かったわ、着いたら教えてね」
今回の目的地はドワーフが暮らすフェルゼンハント。
そうした領地は人間と異種族が共に暮らす領地でもある。
「ここがフェルゼンハントの最大都市のポーションヒューゲル、見事に職人の街って感じね」
「街を見ても武具のお店や装飾品のお店が多いわ」
「あとは…お酒のお店も多いのね、ドワーフはお酒が好きって聞いてるし納得だわ」
「他にもお菓子のお店とかもあるのね、お酒を使ったお菓子…なるほど」
「さて、交渉に行かなきゃ」
そのままドワーフの長との交渉に向かう。
職人の街でありドワーフも多くが暮らす街。
人間の職人もドワーフの下で働いている人が多い。
「失礼します」
「ようこそ、お待ちしていましたよ」
「ええ、それでなんですが」
「ドワーフの人達をあなたの村で働かせたいという事でしたね」
「伝わっているなら話は早いです」
とはいえ当然タダで働かせるというわけにはいかない。
過去の交渉でもあったように出すものを出せという話である。
誠意とは金額であるというのは世の常だ。
「とりあえず出せるものはこれぐらいを見積もってきたのだけど」
「ふむ、これだけですか、なかなか分かっていらっしゃる」
「少なかったですか?」
「いえ、充分すぎるぐらいですよ」
「そうですか、なら交渉は成立という事でよろしいですね」
オルライトの示した金額は相場よりも多いという事らしい。
過去の交渉でもそうした金額の提示をしてきた。
相場を知らないなどとは言ったものである。
「それでどの程度を貸していただけますか」
「鍛冶屋と細工師、それぞれをリーダーと合わせて30人ずつでよろしいですか?」
「つまり合計で60人、鍛冶屋と細工師をそれぞれ30人と」
「ええ、この金額で出せるのはそれぐらいです」
「分かりました、ではそれでお願いします」
交渉はとりあえずは成立である。
鍛冶屋と細工師を同時に借り受ける予定だったので過去に比べてその倍は積んできた。
それだけの人数を借り受けるのだからそれぐらいは出さねば失礼というものだ。
「それにしてもどこも意外とすんなりと交渉を飲んでくれるものね」
「…もしかしてですが、他の種族などの交渉にもこれぐらいの金額を?」
「ええ、そうです、相場にはそこまで詳しくないので、私が高いと思う金額ですね」
「そういうところは貴族のお嬢様というか、知らないからこそ積める金額というか」
「もしかして安く買い叩かれようとした経験とかがあるのかしら」
オルライトの提示した金額は過去の時もそうだが、相場の約倍の金額だ。
オルライトは相場に詳しくないと言うが、知らないからこそ敬意を金額にしたのだろう。
長曰くドワーフに限らず他の種族も安く買い叩かれようとした経験があるだろうと。
「街で見たけれど、これだけの技術を安く買おうなんて職人への侮辱よね」
「あなたは分かっているようですね」
「それこそ本来ならもっと取ってもいい代物なのに、この値段は全然良心的よ」
「そこまで言っていただけるとは光栄ですね」
「相場は知らないけど、これだけの品質にしては普通に安いと思っただけよ」
そういうところはオルライトなりの見る目があるという事か。
職人への敬意があり、これでも安いぐらいという事が分かるからこそそれだけ積むのだ。
それは敬意があるからこそ職人の相場の倍の金額を積んだのだろう。
「そういえばドワーフはお酒造りも得意なんですよね」
「ええ、得意ですよ、酒造りの他に料理にも酒を使うという事があります」
「料理にもお酒を使うんですか?」
「ええ、とはいえ熱でアルコールは飛ぶので子供でも全然問題なくいただけます」
「へぇ、それはなかなかに面白い話ね」
料理に酒を使うという話、ドワーフの得意料理でプロの料理人もたまに使う調理法だ。
つまりは酒蒸しやフランベといったもの、他にも調理酒などの調味料的なものもあるのだとか。
他の国や領地ではそれらも珍しくドワーフならではの料理でもあるという。
「とりあえずは話を受けていただき感謝します」
「帰る際に合流させますから、それまでは街でも見ていてください」
「分かりました、では明日には帰るので午前中にはお願いしますね」
こうして交渉はとりあえずは成立だ。
ドワーフは酒造りも得意で、料理にも酒を使う。
街で見た酒を使ったお菓子なんかも使えないかとオルライトは考える。
鍛冶と細工以外に酒も産業に出来ないか模索してみる事に。




