伝承について
三年目に突入し村の発展も緩やかにはなったがまだまだ続く。
そんな中村の近くには伝承として語り継がれる大木がある。
オルライトもそれを知っているが、詳しくまでは知らない。
せっかくなのでその伝承について聞いてみる事にした。
「ファリム、少しいいかしら」
「あら、オルライト、私に何かご用かしら」
「ええ、少し伝承の樹について聞きたいんだけど」
伝承について聞きに来たのはファリムだった。
昔からここに住んでいるファリムならそういう話も知っているかと考えたからだ。
「伝承の樹について何か知らないかしら」
「そうね、あの樹はこの国に祝福を与える樹だという事は聞いているわよ」
「祝福を?どういう事なのかしら」
「国が発展する時は祝福し、国が衰退する時は断罪をする、そんな話があるわ」
「なるほど、それだけじゃよく分からないわね」
伝承によれば発展する時は祝福を与え衰退する時は罰を与えるという。
それはこの国を見守ってきたという事なのかもしれない。
それもあり伝承の樹はこの国を見守っているのかもしれない。
「でもだとしたら伝承の樹は国、ひいては人の事を理解しているという事なのかしら」
「そこまでは分からないわ、でも伝承の樹はそうしてこの国を見てきたのよ」
「うーん、他になにか特殊な力があるとかそういう事はないの」
「そうね、伝承の樹は異界との扉を開く力があるという話は聞いた事があるわ」
「まさかフユは伝承の樹がこの世界に連れてきたとかそういう事なのかしら」
冬夕は以前の地震のあとにこの世界に迷い込んできた。
それはもしかしたら伝承の樹がこの世界に連れてきたのかもしれない。
そう考えると伝承の樹には想像以上の力があるのかもしれないという話になる。
「うーん、謎は多いものね」
「伝承の樹はそれこそ奇跡を起こしてきたと言われているだけはあるのかしら」
「奇跡、異世界と繋がるような大きな力って事なのかしら」
「もし伝承の樹がフユちゃんをこっちに連れてきたのならそれはそれで面白いわね」
「そうね、伝承の樹が本当に奇跡を起こしたという事になるんだもの」
冬夕がこちらの世界に迷い込んできた理由についてはよく分からない。
しかし伝承の樹がこちらに連れてきたのだとしたらそれはそれで面白い話になる。
異世界と繋がるような大きな力を秘めているという事にもなるからである。
「伝承の樹にはそれだけの奇跡のような力があるっていう事なのかしら」
「かもしれないわね、解明されてない現象があったりするものなのよ」
「国もそれを調べたりするっていう事はなさそうだものね」
「国はそれを調べる事はないんじゃないかしら」
「奇跡って本当に起こるものなのかしらねぇ」
伝承の樹についてはよく分かっていない事も多いという事だけは分かっている。
ただ本当に奇跡が起きるような事があれば、実は凄い存在なのではないかとなってくる。
伝承の樹については昔からあの場所にあるという事以外のデータは少ないのだ。
「ファリムでも詳しくは知らないなんて、意外だったわ」
「私でもなんでも知ってるとは限らないわよ」
「それはそうなんだけどね」
「でもあの樹は昔からあの丘の上にある、それはあの樹は国の歴史を見てきたという事よ」
「国の歴史を見てきた、そう考えると何年前からあるのかしらね」
ファリムでも詳しくは知らないという伝承の樹。
それは奇跡を起こすような大きな力があるのは嘘ではないのかもしれない。
冬夕がこちらの世界にやってきた理由を考えれば割と納得ではある。
「伝承の樹については調べてみてもいいものなのかしら」
「別にいいとは思うけど、国にも情報は少ないのよ」
「それを調べるとなると何かと難航しそうね」
「ええ、それはあると思うわよ」
「興味はあるんだけど、分からない事の方が圧倒的に多いのよね」
伝承の樹は調べるとしても難航しそうな話である。
とはいえオルライトもそれについては気になっている。
伝承の樹とは一体なんなのだろうか、謎は深まるばかりだ。
「ファリムなら知ってると思ってたんだけど」
「私だってなんでも知ってるわけではないのよ」
「伝承の樹の歴史、昔からあそこにあるわけだものね」
「調べたいなら好きにしていいとは思うわよ」
「そうね、考えておくわ」
伝承の樹についても調べてみたくなったオルライト。
とはいえ別に調べなくても特に問題はない。
ちょっと気になっただけの話である。
「とりあえずありがとうね」
「ええ、知ってる事なら答えられるから」
「それじゃまた何かあったら聞きに来るわね」
ファリムも昔からこの土地にいる存在だ。
多くの事は知っていても知らない事もある。
伝承の樹はファリムでも知らない事が多い。
あの樹はいつからなんのためにあるのだろうか。




