家族の話
三年目に突入し村の方の設備や施設も本格的に稼働が始まった。
工場の建設にも着手し、様々な生産を担う生産拠点を作る計画だ。
村の面影はすっかりなく、今ではもはや街になったと言ってもいい。
国が定める基準ではまだ村扱いなので、街になるにはもっと住民が必要だ。
「フユも秋服になってるのね」
「アタシの世界だと秋になってもたまに暑いから困るんだけどな」
「学生服は秋服だけど、私服は夏服が多い気がするわね、確かに」
そんなオルライトも基本的にはこの季節は春服だ。
冬夕の世界とは気候がそもそも違うのもあるが。
「そういえばフユって兄弟とかいるの」
「アタシんとこか?妹が一人いるけど、それがどうかしたのか」
「いえ、私も次女だからお姉様とかが今はどうしてるかなと思って」
「オルライトって次女なのか」
「ええ、まあお姉様は嫁いで行っちゃったし、妹も一人いるけどインドアな性格だし」
オルライトは三人姉妹の次女である。
父親曰く男児が欲しかったと言うが、なぜか女児ばかりが生まれるという。
父親もそこは悩みのタネのようで、特例的に家を継ぐのは女性になるかもと言っているようだ。
「私の家って子供はみんな女なのよ、お父様も家を継ぐ男児が欲しいって言うんだけど」
「そうなのか?つまり女が家を継ぐとかになるのか?」
「本来は男児が継ぐものなんだけどね、特例的な話もあるにはあるんだけど」
「そういう価値観の世界なんだな」
「別に女でも家督を継ぐ事が駄目っていう事はないのよ、基本的には男児ってだけでね」
この世界では基本的に貴族の跡取りは男児がするものである。
とはいえ女性が取り仕切る組織や貴族なども存在する。
なので男児が優先されるだけで女性が駄目という事ではないのだが。
「フユの妹ってどんな人なの?」
「アタシの妹か?割とオタクな感じだぞ、趣味で同人誌作ったりするし」
「意外と逞しいのね、本を作れるとか」
「だからなのか人付き合いは苦手っぽいんだよな」
「ふーん、でも私の妹も割とそんな感じだから、人はどう育つか分からないものね」
オルライトの妹もどちらかと言うとインドアなタイプである。
それもあり父親も嫁がせる時にはどうなるか少し不安らしい。
オルライト曰く姉は強気な性格で妹は大人しい性格だという。
「私も結婚なんて嫌と言ったけど、家の事はどうしてもあるのよね」
「女ばかり生まれてきてっていう話か」
「ええ、ただ女性が家を継ぐ事は別に問題という事ではないだけでね」
「まあそういうのは難しいよな、アタシも妹も結婚するイメージが湧かねぇし」
「確かにフユは結婚するイメージはあまりないわね」
とはいえ貴族の家の事情というのは複雑なのである。
基本的には男児が跡を継ぐものではあるが、女性でも継ぐ事は出来る。
それでもやはり男児が欲しくなるのは貴族社会の性なのかもしれない。
「それにしても家族の話はお互い苦労するのかしらね」
「アタシも妹も悪い事はしてないけど、結婚出来るかと言われればなぁ」
「私は結婚したくないからここで領主代行やってるし、家族の話難しいわね」
「でもオルライトは妹もいるだろ」
「とはいえ妹は活動的な性格でもないから、貴族社会だとなかなかにね」
平民であれば大人しい性格でもいいだろうが、貴族ではそれは厳しいという。
貴族というのは社交的な人付き合いが求められる事も多いからだ。
したたかでなければ生き残れないのもまた貴族社会の難しさだ。
「でもフユにも妹がいたのね」
「一つ下だけどな、よく一年で次を産んだなとは思ってるけどよ」
「とりあえずフユも私も家族の事は何かとあるのは確かなのかしらね」
「かもな、オルライトも貴族にしては我が強いタイプだし」
「でもフユも家族仲は悪くなさそうよね」
冬夕も家族の関係はそこまで悪くない。
とはいえやはり親からしたら何かとあるのだろう。
なんにせよ家族関係は悪くはないというのは確かである。
「私ももう少し大人しくなるべきなのかしら」
「それはそれでオルライトらしくない気はするけどな」
「どういう意味よ」
「そのままの意味だよ、やっぱお転婆で豪快なのがオルライトらしいだろ」
「あなたねぇ、まあ間違ってはいないけど」
そんなオルライトもやはりそのままがいいのだろう。
冬夕もオルライトも大人しいタイプではない。
だからこそこのままでいるべきなのかもしれない。
「とりあえず、たまにはお父様に近況報告でも書きましょうか」
「そうしてやれ、報告は行ってるかもしれないけど」
「まあそれは知ってても書いておくわよ」
オルライトも親を邪険にしているという事もなく。
だからこそ家族関係以上に我を通したくなるのだろう。
冬夕もオルライトもお互い我の強い性格だからこそである。
言いたい事を言ってしまうタイプの性格はそれはそれで難儀である。




