二年目最終日
季節は春になり村に領主代行として赴任してから二年目がまもなく終わる。
三年目を前にしてもオルライトは変わる事なく仕事をこなしている。
そんな中村もかなり発展し、規模的には小さな街なのだろう。
とはいえ国の定める基準により今でも村ではあるのだ。
「あら、バルカ、相変わらず見回りかしら」
「これはオルライト様、ええ、春にもなって盗賊や野生動物も動き始めますしね」
「そうね、でも自警団も強くなったし、戦えるだけの戦力はあるでしょ」
自警団もガウルとエルネストのおかげで小隊レベルの強さには仕上がっている。
そこに加え盗賊や海賊達というそれなりに戦える人達もいるからこそだ。
「そういえば自警団が銃を持ってるのを見たんだけど」
「ああ、あれは海賊達から聞いてマテリアルハンドが作ったらしいですよ」
「確かにそういう計画は受けて許可は出して報告には上がってたけど、仕事が速いわね」
「火薬に関しても以前崩した山の近くから採れるらしく、困ってないみたいでさぁ」
「まさか銃の量産を本当にやっちゃうなんて大したものねぇ」
海賊達から話を聞いてマテリアルハンドが量産に成功した銃。
自警団もそれを持つようになり、さらに強さがマシているという。
ちなみに銃は基本的にサブウェポンであり本来は槍などを持っている事が多い。
「銃って火薬の入った弾を打ち出す機械式のものって事でいいのよね」
「ええ、海賊達が持ってるのも小型の短銃ってものらしいですよ」
「ふーん、銃にも種類があるのね」
「銃がメインの場合は大型のマスケットなんかを使っているらしいですが」
「銃の知識はそんなにないのよね、海賊って学はないなんて嘘じゃないの」
銃の仕組み自体は海賊も詳しいわけではない。
サンプルとして持っていたものの一つをマテリアルハンドに渡し調べさせたのだ。
そこで仕組みを理解したマテリアルハンドが量産を成功させたという事らしい。
「銃の量産に成功した時点で武力が国の中隊レベルぐらいにはなったんじゃないの」
「そういえばオルライト様が来てからもう三年目になるんじゃないですか」
「ええ、明日で赴任して三年目、三年目が始まるわ」
「意外と早かったですねぇ、約束では四年間でしたっけ」
「ええ、それ以降はどうなるかは今はまだ分からないわ」
元々ここに赴任してきた理由が結婚したくないという理由ではあった。
そのためもし目的を達成させた場合それ以降はどうなるかはまだ分からない。
もちろん婚約などしたくないので目的を達するために奮闘し奔走しているのだが。
「バルカは私にここの領主を続けて欲しいと思う?」
「そうですね、前の領主様も悪い人ではなく、よくはしていただいていましが」
「前の領主様もいい人だったのね」
「ええ、貴族様なのに村の人達と酒を飲んだりする割とフレンドリーな人でした」
「ふーん、交流はしてたっていう事なのかしら」
前の領主は村人の話はきちんと聞いた上でいろいろやっていたらしい。
ただ発展にはそこまで興味もないらしく、仕事はしつつも村はきちんとまとめてはいたとか。
そんな中国の方で開発計画が立ち上がり、領主も病気で仕事を続けられなくなったという。
「国の方から開発計画が出てた事は聞いてるけど、なんで病気になったのかしら」
「なんでも元々持病持ちだったらしいですよ、それが悪化したんだと聞いてます」
「なるほど、毒を盛られたとかじゃないならまあいいんだけど」
「王都の方にある医者が領主様宛てに薬を届けていたのを確認してますんで」
「つまり医者に診てもらう程度には深刻な持病だったって事なのかしら」
話では王都の医者が配達人に薬を届けさせていたという。
そして領主自身も季節の変わり目に王都の医者に診察を受けに行っていたらしい。
それが悪化したという事らしく、開発計画と領主が倒れた事でオルライトに話が来たとか。
「でも裏の黒い話じゃなくて安心ではあるかしらね」
「前の領主様も本心では仕事を続けたかったんでしょうね」
「とはいえもし復帰出来ないとなれば、その時は私がそのまま正式に就任してもいいのかしら」
「オルライト様はあくまでも代行とはいえ、可能なら正式になってもらいたいですね」
「そうね、今はまだ分からないけど、これから次第ではそれも考えておくわ」
前の領主の復帰は厳しいとバルカも報告を受けているらしい。
可能ならオルライトに正式に領主として就任して欲しいと思っているとも。
それは今は分からないが、もし許しが出たのならそれもいいとはおもっている。
「とりあえず三年目もいろいろやっていくから見てなさいよ」
「ええ、開発計画自体は村も反対してる人は元々少なかったですしね」
「三年目、ここからが本番かしらね」
明日には三年目が始まる事になる。
オルライトも本番はここからだと考えているようではある。
一年目は土台作りを徹底し、二年目は安定化に奔走した。
三年目から本格的に納税額と移住者を増やす事に力を入れる事となる。




