第49話 姫-1グランプリ その2
女騎士、いや姫騎士ルヴィ。
金髪の長髪を靡かせ、透き通るような白い肌に大きな胸、一見清楚に見えるおしとやかな外見をしている人物だ。そう、彼女は金髪なのだ。
なのに、今現れた女性は、綺麗な赤髪だった。まさに、宝石のルビーを思わせる、濁りの無い赤だった。足長っ。今まで気付かなかったけど、こんなにスタイル良かったんだ。
普段、よく裸に近い姿を見ているので慣れていたが、こうしてビキニ水着姿を見ると、凄い綺麗なんだな、と純粋に思った。いつもこうしていればいいのに。
「――――さぁ現れました!これが王者の風格!!どんなにいい男に言い寄られても全て突っぱねて来た最強の姫!聖剣に選ばれ、姫-1グランプリの王者となり、とある名前で冒険者として名を馳せていると噂の、完全無欠プリンセス!!欠点何てあるのか、いや、無い!!
エントリーナンバー4番、ルヴィアンジュ・グレイシア!!!」
――――会場が、一気に湧いた。
――――え、ルヴィって略称だったんだ、と今初めて気づいた。
そういえば、まだルヴィにはまだステータスカードを見せて貰っていない。
だから、分からないのは仕方無いけど、教えてくれてもいいじゃんって思った。
「きゃあああああああ!!!グレイシア様ァ!!!」
「アンジュ様素敵でございます!!」
「ルヴィ様ァァァァァァァァァ!!!!!」
人によって全部呼び方が違った。
それぞれの呼び方があるみたいだ。ここで俺は、長い間の疑問がようやく解ける。
冒険者ピレスで、ルヴィが王族とか関係無くやっていけた理由。
そりゃあ、今の姿を見ると、まさかあの金髪ルヴィと同一人物とは思わない筈だ。
しかも、ルヴィがただの略称ならば、確かにバレないな、と思った。色んな呼び方があるのなら、ルヴィと聞いただけで、この赤髪の姿に結び付けるのは難しい。
いや、っていうか何で赤髪になってんの!?まずそこじゃん。
何が起きているの?どういう事?
「――――あれは、ルヴィ様の本来の姿です。」秘書官のオニキスが解説する。お前居たのかよ。
「じゃあ、普段の金髪状態は何?」
「スキル《変装》によるものです。」
「成程なぁ・・・。身バレしない為に頑張ってたのか・・・。」
金髪も似合っているけど、赤髪もいいなぁ。悔しいが、見惚れてしまう。
「――――さァ、どんどん次も参りましょう!!」
・・・・・・そこからは、観客も俺らも、まるで頭に入ってこなかった。
サファイアとルヴィが登場した所でピークを終えてしまい、25番まで姫達の登場が終わると、謎のアピールタイムが始まった。
司会のシンジュが1番から話を振っていく。
「さぁ、エメラルーダ・ヴィ・オラ様、今のお気持ちは?」
「そうですね。こんなに多くの人に見て貰えて、光栄です。」
「いいぞいいぞ!!」
「普通の返しだな!!」
「埋もれるな!!個性を出すんだヴィオラ!!」
観客もそれに野次を飛ばしていく。観客が謎の保護者目線を発揮し、返しや個性まで指摘している様は笑ってしまった。
何故、ここにいる人間は、黙って鑑賞する事が出来ないのだろうか。
「はい、ありがとうございます。2番のダイヤ・グランド様、今のお気持ちは?」
「とっても最高でーす!!皆、いつもありがと~♡」
身長の低いダイヤ姫だからこそ出来る、あどけなさの表現。
狡くて巧くて、単純に凄いなと思った。
「可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「ああこっち向いて欲しいよおおおおおおおおおおおおおおお」
「天使っていんのかよおおおおおおおおおおお」
前列の親衛隊が盛り上がる。もういいや。こういう大会なんだね、これ。
可愛さアピールする為の場じゃん。なんか、アホらしくなってきた。
「―――そして、今大会の優勝候補!!サファイアメイジスト様、今の心境は?」
「・・・・・・そうですね。私は絶対に勝ちます。麗しさ、逞しさの面においても、私が秀でているという事をこの場で証明してみせますわ。」
自身に満ち溢れたサファイアの表情は、勝利を確信しているかのようだった。
・・・・・・そういや、これどうやって評価すんの?
このままじゃ、競うも何も、あったもんじゃなくない・・・?正直、皆可愛いし。
「さぁ、今回も出場してくれました!絶対王者、ルヴィアンジュ・グレイシア様!!」
遂に、我らがルヴィの出番が回って来た。
「私も、絶対に負けません。冒険者として培った野生の本能、特別なトレーニングなんかしてこなくても、天性のフィジカルがある。それをここで、証明する。」
観衆が一気に盛り上がる。
フィジカル?何で麗しさ、逞しさを決める大会で、そんな文言が出て来るんだ・・・?
そうして、一通りアピールタイムが終わった後、観衆がざわざわし始めた。
何だ、何だ。何が起こると言うのだ。
「―――――さて、ここまで皆さん見て頂き有難うございました。
紹介・・・いや、お遊びはここで終了です!!」
シンジュの気迫のこもった声に、盛り上がりは最高潮を見せた!!
「―――――これより、プリンセスによるプリンセスの為の、筋肉のデカさを競う競技――――――マッスル・プリンセスを決める、姫-1グランプリ、開幕!!!!」
――――目を疑う光景が、そこにはあった。
何故なら、シンジュが開幕宣言をした途端、姫達が全員、筋肉の塊になっていたからだ。
あーあー、成程ね。
このふざけた世界における、この国における姫が、普通では無いと思っていましたよ。
ただのモデルとして、美しい身体を見せ合って評価をする。そんな下らない理由で、ここまでの観衆が盛り上がる筈無いもの。
姫-1グランプリとは、麗しさ、逞しさを決める大会って言ってましたもんね。
見てごらんなさい、目の前の有様を。
あの筋肉の塊になった姫様達、確かに麗しくて逞しい。言葉として全く間違っちゃいない。
皆、余りの筋肉に、ビキニが千切れそうになっている。というか、性別も顔を見なければ判断つかない程に、男らしい筋肉を身に纏っていた。
端正な顔立ちに、全く似合っていない身体の筋肉。
あ。国王、そういやマッチョだったな。
あと、ルヴィってやけに力持ちだったよな。
ステータスカードを見せなかったのも、攻撃力が半端じゃ無いから、この姿がバレるのが怖かった?姫-1グランプリ出場に躊躇いがあったのも、俺にこの姿を見せるのが嫌だったって事?
この大会に向けて身体を鍛えたみたいなニュアンスの事、サファイアが言っていたような気がする。これ、そういう事だったの?
え、何この世界一いらない伏線回収。
ここに至るまで、伏線らしき、思い当たる節があり過ぎる。
姫様達が美貌を競う大会だと思っていました。
そしたらなんと、筋肉の展示会が始まりました。
・・・もう頭が追い付かねえよ、さっきから。
「・・・ボディビルだ。」勇者ソーマがそう呟いた。
「・・・は?ボディビル?」
「異世界にも、ボディビルがあるんだ!!」
あれ。思ったより状況に適応してないか、こいつ?
え、俺だけか?パニックになっているのは俺だけなのか???
誰かおかしいと言ってくれ。この状況を当たり前にしないでくれ。この場において、俺が少数派なのは絶対におかしい。
姫達が、なんかポージングし始めた。筋肉凄い奴がやるポーズを、それぞれがやっている。
うわぁ、色気がねぇ。
と思っていたら、観衆から野次が飛んだ。
「1番!!背筋鍛えすぎ!!ほぼモモンガじゃねぇか!!もう空飛べよ!!!」
「おい2番!!身長の割に下半身デカ過ぎるだろ!!それでどうやって歩くんだよ!!永遠に股ズレかァ!?」
「8番!!腕が飛空艇!!!」
「16番!!筋肉マニア!!!」
「24番!!もう上着は要りません!!筋肉があるから!!!」
うわ凄ェ。言いたい放題言ってやがる・・・。
何かに例えたり、シチュエーションを勝手に作って突っ込んだり、もう異様だ。
姫の麗しさどうこうより、これ言いたいが為に観衆が集まっているんじゃないかな・・・?
しかも、言葉が全部適格だ。1番がモモンガは確かにそう思えるし、8番の腕が飛空艇という例えは見事だった。明らかに太すぎる腕だから、その例えは刺さる。
やはりというか、中でも3番と4番は、異彩を放っている。
単純に、デカい。一際、デカい。
筋肉がデカいのではない。全体的に、なんかデカく見えるのだ。
格が違う。そう、うちの姫様は、格が違った。
「3番!!肩に魔獣住んでんのか!!」
「4番!!ほぼオーガ!!!」
「3番だけ飛び出して見えるぜ!!筋肉3Dアトラクションだな!!」
「4番!!腹筋でボルダリングさせてくれェ!!!」
サファイアと、ルヴィのデッドヒートだ。
野次もその2人に集中している。
「3番、どんなスキルも無効化します!」
「4番、もはや人間兵器だな!!」
もう言いたい放題である。
「――――さて、それでは、1番から4番まで、前へ!!」
そう言って、筋肉姫が4人、前に出てきて、ポージングし始めた。
それを見て、また野次が飛ぶ。
「筋肉自慢の勇者パーティですねェ!!!!」
「この4人ならもう魔王勝てるだろ!!」
「可愛さ余って筋肉100倍!!!」
「守ってあげたくねーよ!!守って欲しいわァ!!!」
もう滅茶苦茶だ。状況を理解したくない。ずっと悪夢を見ているようだ。
「3番、最高―!!」
勇者ソーマが、横でそう大声を出した。
え、お前だけは俺の味方でいてくれよ。何でノリノリなんだよ!!
勇者ソーマが声を出したせいか、サファイアは更に筋肉を張り上げた。
もう人の形を留めているかも怪しい。それくらいの筋肉だ。
・・・まずい。ルヴィが、負けるかもしれない。
「うおおおおおお!!!3番の筋肉が噴火寸前の、プリンセスマウンテンだぁぁぁぁ!!」
3番のサファイアがもう、凄い事になっている。筋肉の膨張が臨界点を越えている。しかも勇者の言葉を受けてか、更に筋肉が膨れ上がったようにも見えた。
・・・これ、怖いのが、他の人達全員がこれを当たり前に受け止めている事だ。
姫がマッチョになっている事へのツッコミが一切ない。疑問が湧かないのだろう。
それは恐らく、これが、当たり前の行事になっているからだ。
「更にサファイア様が膨張している!!凄い!!何だこれは!?」
シンジュの実況も更に白熱し始めた。野次も止まらない。
「いつから球体になったんだよ!?」
「その筋肉で円周率解けるんじゃねェのか!?」
もう言いたい放題である。
一方のルヴィは、焦りを見せていた。まさか、サファイアがこんなに怪物みたいになるとは思っていなかったのだろう。
やばい。負けそう。どうしよう。
いや、待て。何で俺が、悔しいみたいになっているんだ・・・?
こんなものに一喜一憂するの、意味分かんないじゃん・・・。
・・・なのに、何で、俺の心が熱くなっているんだ・・・!?
そうだ、これは戦争だ。
俺と勇者ソーマの戦いと同じ。これは、女と筋肉の熾烈な争い。
俺は、ルヴィの仲間だ。ここで、男見せないでどうする。
もういいや。俺も所詮人間だ。一緒に馬鹿になってやる。
「・・・4番!!そんなモンじゃないだろ!?」
大声を出した。ルヴィに届いているか分からない。だが、声を届けなければ、届かない思いがある。
俺は、ルヴィに勝って欲しい。心からそう思った。
「3番!!がんばれ!!」勇者ソーマも声を絞る。
「4番!!行ったれやぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
―――――俺は、手を掲げる。
対象は、ルヴィ。
ルヴィをもっと目立たせなければ、その思いで、あるスキルを発動させる。
―――それは、スキル《急所見極め》。ソーマのタマキンを光らせた、悪夢の如きスキル。
これで、よくも悪くも、ルヴィは目立てる!!
この戦場は何でもあり、その特性を利用させてもらう!!
「行っけェェェェェェェェェェーーーー!!!」
・・・・・・そして、ルヴィの右乳首辺りから、光が差した。
いやお前の急所そこかい。
ピー




