第39話 国王謁見
ダンテに構える城は、大きくて荘厳な雰囲気があり、近付くにも怖気付いてしまいそうだった。ダンテに来た時から全体像は薄っすらと見えてはいたのだが、やはり近くで見ると印象が全然違う。
城門の前に、門番と思わしき甲冑をした兵が居たので、そいつにルヴィは話しかける。
「おひさ、ルヴィよ。」
「・・・はっ!お久しぶりであります姫様!!」
「今寝てたわよね?」
「ね、寝ていませんとも!」
「そう。従者を連れて来たから、一緒に入ってもいいわよね?」
「了解です!!」
そうして、城の中まで、顔パスで入れてしまった。
「・・・半信半疑だったけど、マジで姫なんだな。」
「やっと信じて貰えたかしら?」
「流石になぁ。」
城の中庭を抜ける際にも、近衛兵達がきちんと整列しており、ルヴィが通ると頭を下げる。
「ルヴィ様!今日もお綺麗で!」
「幻獣種を倒されたとか!流石ルヴィ様!!」
「ルヴィ様の英雄譚は兵士達の活力となっていますよ!!」
「ルヴィ様、流石でございます。」
「ルヴィ様、麗しい・・・。」
「あぁルヴィ様という人が居ながら、私は・・・。」
全員が全員、ルヴィを褒めていた。
・・・何か、逆に闇を感じてしまった。
周りの大人たちは、この怪物をこうして育て上げてしまったのかと。
当の本人のルヴィは、そう言われる事が当然みたいな顔をして歩いている。
――――ああ、こうして自己肯定感を高めているんだな、と冷めた目線で見てしまった。
冷静に考えたら、そうなるのも仕方ない。
聖剣に選ばれ、王族に生まれ、こいつは全てに恵まれて生まれているのだ。
その上、一人で冒険者としてSSランクにまで上り詰めた。性格には多少難があるが、こいつは端から見ればとんでもないスペックの持ち主で、誉め言葉がそのまま現実に体現されているような人間だから、尊敬に値されるような人物であるには間違いないだろう。
力も強いし、雪の中で平然としていたり、人間にしては丈夫過ぎる位の身体の持ち主だしで、規格に収まらない器であるのは確かなのだ。
――――そうして、いつの間にか国王が控える間まで到着した。
レッドカーペットが引かれた大理石の床の先に、3つの階段があり、その上の玉座に王冠を構えた人物がいた。
あれこそ、マーランド国王。ルヴィの実父にして、この国の最高権力者である。
上半身裸で、権威を示すかのような赤いマントを羽織っている。頭に被っている王冠が明らかに浮いていた。
パッと見、そんなに怖い印象は湧かなかった。歳はまだ40代前半くらいだ。髭も生えておらず、若々しい印象を受けた。ただ、国王にしては、身体のガタイが良すぎていて、単純に生物として強そうな印象を受けた。成程、ルヴィが強いのは、この人の遺伝なのか。
何だあの肩幅。二頭筋。胸筋。三頭筋もでかい。王族にしては筋肉デカ過ぎる。
ていうか、何で上裸なの?裸の王様にしては身体がえげつない。
国王の御前とだけあって、俺は片膝を落とし、首を垂れる。流石に緊張する。
こんなに権力者でありながら滅茶苦茶強そうな人を見るのは、初めてかもしれない。
「――――おお、ルヴィ。帰って来たか。色々と、大変だったようだな。」
意外と、口調は軽かった。
「ああ、従者もそんなにかしこまらなくていいから。ええと、レント君、取り敢えずこちらから礼を言わせてくれ。このじゃじゃ馬と一緒にいるのは大変だろう。君の心労を察するよ。」
どうやら、この王は人の心がよく分かるらしい。本当にその通りだと言いたかったが、流石にそんな事は口が裂けても言えない。
「―――いえ、ルヴィと共に冒険をする日々は、本当に刺激的で、自分がいかに凡庸な人間か思い知らされるばかりです。」
「大分オブラートな本音が出ているね。」
「いえ、決してそんな事はありません。鬼神の如きその強さには、本当に畏れ多い気持ちを抱くばかりであります。常人を越えた発想力に抜群の機転、状況判断能力の精密さには、毎日感嘆する思いです。先日も私の命を救ってくれました。一緒に旅をさせて頂き感謝しかありません。」
「そこまで言ってくれるのなら、娘を無事に任せられそうだ。頼んだよ。」
「・・・はい。」
俺は、心にも無い事を沢山言って、王様に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「――――そして、セレス。久しぶりだね。」
「はい、国王。いや、アンバーと呼んだ方がいい?」
「そうだな。君とは旧い仲だ。どっちでもいい。」
「じゃあ、気軽な方で呼ばせてもらうね。アンバー、久しぶり。随分偉くなったね。」
「そういう君は、本当に何も変わっていないな。」
俺は思った。知り合いなんかい。そんな仲だったんかい。
俺よりも、ルヴィの方が口をあんぐり開けて驚いていた。
・・・・・・いや、まぁ予想は出来たよ?セレスの経歴を考えれば、一度くらい国王と呼ばれる人と会っていてもおかしくないけどさ。
そんな感じなんかい、と思ってしまう。
「色々訊きたい事はあるんだけど、アンバー、ユウキュウが何で魔王軍側についているか、理由知っている?」セレスが訊く。
「いや、それがどうにも。多分、彼なりの考えがあっての事だろう。本当に彼は、何を考えているか分からなかったから、私には判断がつかない。今となっては、明確な敵だよ。非常に厄介だ。」
「分かったわ。あいつはいずれ、ぼくが殺すから、安心して。」
セレスの眼が、怖かった。覚悟が決まっているような眼だった。
俺と2人で料理している時に発生するノリをやっている奴とは思えない程、凄みがあった。
「――――ルヴィ。個性豊かなメンバーになったね。」国王が優しく言う。
「うるっさいんだよエロ親父。セレスと面識あるんなら最初から言えよ。」
とても汚い口調で父親を攻めている。あれ、こいつ19歳じゃなかった?
思春期終わっているんじゃないの?何、何なの?それが父親に取る態度なのか?
まぁ、家庭の事情だから色々あるし、仕方無いけど、あまり見ていて気分のいいものじゃないなぁ・・・。
「まぁまぁ。そんな言葉遣いするんじゃない。」国王が宥めてんじゃん。
「・・・ふんっ!しーらない!」
セレスは、ずかずかと歩き始め、離れていく。枝分かれしたレッドカーペットのその先には、重々しい扉があった。それをルヴィが開けると、扉をバタンとしめた。家族団欒の夕食時に、突然自分の部屋に籠る娘みたいな感じに見えた。
「・・・いっつもあんな感じなんだよ。」国王がため息をつく。
「アンバー、立派に父親やってるじゃん。」
セレスが国王をいじる。この2人の上下関係は、案外ハッキリしているかもしれない。以前は、セレスの方が上だったんだろうなと想像出来た。
よく俺とセレス仲良く出来ているよな、と冷静に思った。
「・・・まぁ、父親としては失格だからな、私は。女にだらしなかったから、娘に嫌われて当然だ。」
「そりゃ嫌われるよ。」セレスが言う。なんか、俺と喋る時と、キャラが違う気がする。
なんか、今のセレスは、とても大人に見える。不思議だ。
「・・・でも、私の娘にしては、強くなりすぎてしまったな。レント君、君はどうやってルヴィと仲良くなったんだ?」
「・・・ええ、それはちょっと、言いたく無いですね・・・・・・。」
流石に、あいつがいきなり冒険者に決闘を挑んでは相手を殺し掛けているとは、言えない。
で、それに勝ったからなんか認められて、仲間に半ば強制的になったなんて、言えない。
どう話した所で、決して美談にならないからだ。
「多分、言ったら娘さんに幻滅すると思います・・・。」
「そうか、言いたく無いなら仕方ない。あいつはそんな事ばっかりだからな。苦労を掛けているのは承知の上で頼むが、娘の事、よろしく頼むよ。」
「・・・勿体無きお言葉です。」
・・・国王が話の分かる人で良かったと思う。
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