9話 16歳…?
目の前の少女に「高速で爪が生え変わる変な人」という印象を持たれてしまっては、出会いの第一印象としては最悪である。しかしそんなことを気にしてられるほど、安全な場所ではないのだ。
まずは名前を聞かないと。
「えっと、自己紹介がまだだったね。俺の名前は川口晴人。日本人なんだけど、君もそうでしょ?」
不慣れながらも笑顔を作って名前を言った。不自然じゃないだろうか。心配だが、今の俺は顔面偏差値100億ぐらいなのできっと大丈夫だ。
名前を言うついでに日本人であることも告げた。髪の色が水色だったりと日本人離れしてしまったので、言う必要があると思ったのである。
「はい、私も日本からこちらに来ました。望月千尋といいます。」
お互いに同じ故郷から来たと分かってひとまず安堵する。
望月さんと呼ぶべきか、千尋さんと呼ぶべきか。それとも「さん」よりも「ちゃん」のほうがいいだろうか。いや、その前に年齢を聞くべきか。年齢とか聞いたらナンパしているみたいにならないだろうか。
コミュニケーションの不足した毎日を送ってきたせいで、そういった思考が脳内でぐるぐると駆け回る。とりあえず無難に望月さんと呼ぼうかな。
この思考の間わずか1秒。人と、特に異性と話すときは脳が活性化しがちである。
望月さんは何やら困ったような表情でこちらを見ていた。
「望月さん、どうかしたの?」
「いえ、その…晴人さんって、女の子ですよね?」
ここで俺の脳に二重の電撃が走る。
まず一つ目、下の名前で呼ばれた。いきなり下の名前で呼んでくるとは、この子はもしかしたらコミュニケーションの猛者かもしれない。俺は今のでかなりドキッとした。人の心を容易くつかむ、まさに魔法使いといった感じだ。
二つ目の衝撃、俺は女の子だと思われているらしい。そりゃ無理もないか。だってこの美貌だもん。今までの自分の話し方はいかにも男子高校生であった。見た目と話し方のギャップに戸惑っているのだろう。一人称も「俺」だったし。
今後の話し方なんてのも考えた方が良いだろうか。
「いや、俺、男だよ。18歳、高校三年生の男子。アハハ」
乾いた笑いみたいなのが出てしまった。補足で年齢も言っておく。
「ええ!?男の子だったんですか!?かわいいので、てっきり女の子かと思っていました」
かわいいと言われてついニヤけてしまいそうだが必死にこらえる。と、ここで一つ疑問が浮かぶ。
「そ、そうかな?俺の声とかって、普通に男の声じゃない?」
「そうでしょうか?普通にかわいらしい声だと思いますよ。中性的というか」
え、まじか。さすがに声までは変わってないと思っていたが、結構高くなっているのかもしれない。身長が縮んだついでに声帯も短くなったか。
自分の声は自分では分からないというので、もともと高かった可能性もある…のかな?
中性的でかわいらしい声、と言われたことでますますテンションがあがってしまう。ニヤニヤを抑える限界に達しそうなので今すぐ話題を変えなければ。
「と、ところで、望月さんって何歳なのかな!?俺とタメぐらいだと思うんだけど」
動揺がダイレクトに出てしまったが、無理やり話題を変えるために年齢を聞いた。女性に年齢を聞くのはタブーだとよく言うが、それはたぶん20代後半とかの話だろう。見るからに10代だし、聞いても問題ないと思ったのだ。
しかし俺の考えに反して、望月さんはドキッとした感じで表情がこわばった。
一瞬の静寂が訪れる。
「望月さん…?」
彼女のバッグを持つ手は力がこもっているように見えた。
あれ、もしかして俺、地雷踏んじゃった?と思ったが、望月さんは別に怒ったとか気に障ったとかそういう感じではなく、焦りや緊張といった表情である。
「え、ええっと、そ、その、私はじゅ、16歳ですよ!!」
とんでもなく焦った様子で彼女はそう答える。年齢は見た目通りなので特に驚いたりとかはない。しかしなぜ、彼女はこうも落ち着きをなくしているのか。何か隠していることでもあるのだろうか。しかし、嘘をついているようには見えない。ただひたすらキョドっている。
うーん、あまり追及しないほうがいいだろうか。
「ごめんね、もしかしてあまり聞かないほうがよかった?」
「いえ、全然大丈夫ですよ!隠してることとか全然ないです!」
あれれ、おかしいなあ、俺は別に「隠してることある?」とは聞いていないんだが。これはもう隠し事があると言っているようなものだろう。
しかし、今日出会ったばかりの相手にそんな踏み込んだことをずけずけと聞くわけにはいかない。デリカシー、プライバシー、ディズニーシー、ファイナルファンタジーである。脳内でひたすら韻を踏むMCになることで好奇心の暴走を防ぎ切った。
そう、今話すべきは協力を持ち掛けることである。
「俺はこの世界にきてまだ数時間しか経っていないんだけど、望月さんは?」
「私はついさっき来たばっかりなので、1時間も経っていないと思います」
なるほど、ということは何かしらスキルを持っているとしても、試す時間はなかっただろう。先ほどかけてもらった回復魔法も初めて使ったのだと予想できる。
「望月さん、ここは二人で協力して森を抜けだすのがいいと思うんだけど…」
「はい、もちろんです!協力しましょう!」
望月さんは即座に了承してくれた。
よかった、ここでもし「晴人さんと一緒はちょっと…」なんて言われたらショックで立ち直れなかったかもしれない。
「よし、そうと決まれば早速…安全そうな場所を探そう!」
「え、移動するんじゃないんですか?」
俺も最初はそうしようと思った。
「もう日が沈むほうに動いてるんだ。明るいうちに寝床を確保しないと」
太陽のタイムリミットが迫ってきている。さすがに夜中移動するわけにはいかないだろうからな。
「なるほど、確かに。安全な場所…。そういえば、ゴブリンがこの辺りから急に現れたんですけど、住処でもあるんですかね?」
「ゴブリンの住処…。この辺にいて、急に襲われたら大変だね。場所、変える?」
俺は彼女の忠告を聞きそう言った。
「いえ、それもそうなんですけど。もしその住処が空いてたらパクっちゃてもいいのかなー、と」
しかし、それは予想外な提案だった。てっきり大人しい性格の持ち主だと思っていたが、違うのかもしれない。パクるとか、最近の高校生はあまり使わないよな。
とにかく、俺はその豪快な作戦が非常に良いと思った。
「じゃあ、それで行こう。その前に、俺は荷物持ってくるね」
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宝箱とレジ袋というなんともちぐはぐな荷物を持ってきたあと、二人でゴブリンの住処を探すことにした。すると30分もしないうちにあっさりと見つけてしまった。
それは岩場から削りとられたような洞穴であり、天井は低くやや屈まなければいけないが、頑張れば人が3人横になれそうな広さだった。中には動物の死骸があり、ゴブリンが狩ってここで食べたのだと推測できた。
「まさか、こんな簡単に見つかるなんてね。これもモッチーの作戦のおかげだよ」
「モッチー…?私のことですか?」
さりげなく望月さんのことを「モッチー」と呼んでみた。いきなりあだ名で呼ばれて困惑しているようだが、これには深いようで浅い理由がある。
一つ目、いざと言うときに、素早く呼ぶため。
二つ目、俺自身があだ名をつけてもらいたい。そのためには俺からあだ名で呼ぶしかないのだ。
距離感の詰め方が急すぎてマリオカートの難しいショートカットかよって感じだが、コミュニケーション強者は大体急接近してくる。
下の名前が千尋なので、ちーちゃんにしようかとも思ったが、フィーリングでモッチーにした。
「さて、ほんのちょっと掃除すれば使えそうだね」
「そうですね。でも、まだ日が暮れるまでに時間がありますよ?」
確かに。しかし他にやることといえば…。お腹がすいた。そう、食料を調達しなければ。
(後書き)
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