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7話 美男美女の宿命、それはセクハラ

 血まみれの人差し指を男性用トランクスでぐるぐる巻きにし、余った布を中指、薬指、小指でつかむことで固定した。

 一度はがれた爪ってくっつくんだろうか。何しろ爪がはがれるのは初めてなのでよく分かっていない。


 さて、応急処置は済ませたが、せっかくの新品のパンツが台無しである。なぜ俺はあのホームセンターで包帯や絆創膏を買わなかったのだろうと思うが、後の祭りというやつだ。むしろパンツを買っててよかったとポジティブに考えるべきかもしれない。


 替えのパンツが欲しい。そうだ、今こそ【パンツ召喚】のスキルを試すにはベストタイミングだ。


【パンツ召喚】のやり方は【水鉄砲】を使ったときと違い、感覚で分かったりはしなかった。しかし、予想はできる。


 自分が最初にいた地点に描かれていた、「三角形と丸だけの魔法陣」を思い出す。自分はあの魔法陣から召喚されたのだとすると、召喚には魔法陣が必要なのではないだろうか。


 俺はその辺に転がっている流木を広い、砂の上に円を描いた。あれ、ちょっと小さいかな。そう思ったが、円の形自体は綺麗なまん丸なのでこのままいくことにした。


 内側には何を描こうかな。何かルールとかあるんだろうか。よくわからないので三角形を描いた。これだけだと物足りない気がしたので、逆向きの三角形を重ねて描いてみた。するとあら不思議、六芒星の出来上がりである。

 へー、六芒星ってこうやって書くんだ、初めて知った。


 とにかく適当に描いた魔法陣だったが、いかにもそれっぽくなってしまった。


 それで、ここからどうやって召喚するんだ?

 試しに魔法陣に向かって手を向けながら、念を送ってみた。パンツ出てこい、パンツ出てこい、パンツ、出てこいや!

 残念、何も出てこなかった。


「パンツ、召喚!」


 今度は気合を入れて叫んでみたが、ダメだった。気合で何とかなるほど世の中甘くないということだろう。


 ここで頭をひねらせて考えてみた。召喚といったら、いかにも魔法使いっぽい行為である。では、他にも魔法使いっぽい行為といえばなんだ?俺がひらめいたのは、「生贄」だ。すなわち、代償を支払うということである。

 よくよく考えれば、なんの代償もなしに何かを得ようというのは難しい話だ。生贄を用意することで何かを得られると考えたほうが自然ではないだろうか。


 しかし、一体何を生贄に捧げればいいのだろう。そう思い足元を見ると、サハギンの死体が転がっていた。これで良くね?


 俺はサハギンの死体をずるずると引きずって、魔法陣の前まで持ってきた。


「出でよ、パンツ!」


 すると突然、体から何かの力がごっそりと抜き取られた。きっと魔力とかいうやつだろう。パンツを召喚する程度でこんなにごっそり吸い取られるのか。


 魔法陣は光り輝き、生贄に選んだサハギンの死体は見えない何かに徐々に浸食され、姿を消していく。やがて完全に消えた時、魔法陣の光は一層強まり、ゴゴゴゴゴゴといった感じで人影が現れた。


 え、人影?なんで?俺が召喚したのはパンツじゃなかったのか?


「…私を呼び出した人間はあなたですか?」


 魔法陣の光が消えた後、現れた男は、そう尋ねてきた。

 頭に山羊の角が生えており、背中には黒い翼があった。細身で、貴族のような紫色の上品な服を着こなしているが、顔色は3日寝てないんじゃないかってぐらい酷い。凄みのある三白眼を、銀色の丸眼鏡が際立たせていた。

 体の特徴的に、もしかして、悪魔?


「えっと、そうです。俺が呼び出した人間です。ですが、すみません、どちら様でしょうか。俺はパンツを召喚したつもりなのですが…」


 自分のことを人間と言うのも変な感じだが、初対面なのでできるだけ丁寧に聞いてみた。すると悪魔っぽい男は、目をクワッと開いた。


「パンツを召喚!?ふむ、なかなか興味深い…。ですがこの魔法陣、六芒星を描いているではありませんか。六芒星は悪魔の象徴ですから、これはどう見ても悪魔を召喚するための魔法陣です」


 え、そうだったの!?この世界にはそんなルールというか、常識があったのか。いやでも、【パンツ召喚】のスキルで悪魔を召喚するなんておかしくないか?

 では、目の前に立っている自称悪魔は一体、何者なのか。


 うーん、でも本人が悪魔だと言っているんだし、悪魔ってことでいいや。それと、今気づいたけどめっちゃ声低い。


 そう考えていたら、悪魔は右手を胸の辺りまで持っていき、軽い会釈のようなことをした。


「失礼、少し興奮して申し遅れましたが、私の名はオツ・パンティー。色欲の悪魔アスモデウス様の配下であり、下着を司る悪魔です。以後お見知りおきを」


 彼は下着を司る悪魔、オツ・パンティーというらしい。

 下着を司る悪魔ってなんやねん。と思うが、分かりやすい名前ではある。


 そんな悪魔がなぜ出てきたのかということだが、おそらく、パンツを召喚しようとしたら、パンツの悪魔が出てきたってところだろう。惜しい!

 とりあえずこっちも自己紹介しとくか。


「えっと、俺の名前は川口晴人です。よろしくお願いします」


 俺がそう言うと、オツ・パンティーは不気味な笑みを浮かべた。


「そうですか。では、ハルトと呼ばせていただきましょう。早速ですが、ハルト、あなたは何故パンツを召喚しようとしたのですか?」


 理由を聞かれた。


「替えのパンツが足りなくて困っていたので」


 実際にはスキルを試したいという目的も含まれているが、わざわざ言うほどでもないかと思った。


「ふむ、なるほどなるほど。でしたら、私と出会ったのは幸運ですね。下着を司る悪魔である私と契約すれば、あなたにパンツを差し上げることができる。どうですか?私と契約しませんか?」


 け、契約?悪魔と契約するって、なんか怖いな。寿命とか取られるんだろうか。たかがパンツのために寿命を取られるのは普通に嫌なんだが。

 しかし彼は寿命を取るとは言っていないので、質問してみよう。


「契約って何をするんですか?」


「簡単ですよ。私の要求を呑むだけです」


「その、要求っていうのは?」


 彼は少し考えるそぶりをした後、ニヤリと笑った。

 俺はとんでもないことを要求されるのではないかと思い、冷や汗をかいた。


「そうですねえ…。ハルト、もうちょっとこちらに近づいてきてください」


「は、ハイ」


 なんか怖いけど、大人しく言われたとおりにした。


「ふーむ…見れば見るほど美しい顔だ。しかも、これで男ですか。フフフ、気に入りましたよ、ハルト」


 気に入られたらしい。え、なんか超怖いんですけど。


「では契約の内容はこうしましょう。ハルト、私はあなたが今穿いているパンツを頂きたい」


「…は?」


 あまりにも予想外の内容だった。


 え、パンツ?パンツを渡せと?


 俺は二つの理由で困惑した。


 一つ目に、これからパンツを貰うのにパンツを渡すという点。それだとプラマイゼロである。


 二つ目、なぜそんなものを欲しがるんだ。もしかしてこの悪魔、とんでもない変態なのか?そういえばさっき、色欲の悪魔の配下とか言ってたな。


 オツ・パンティーは俺のドン引きした顔を見て、何か気付きを得たような顔をした。


「おっと、そうでした。私は向こうを向きますから、その間に脱いでください」


 いや、そうじゃなくて。脱いでいるところを見ないという配慮は紳士的だが、そもそもパンツを欲しがるのは紳士的ではないのだ。そういった行為は、生理的にムリってやつだ。もうちょっと人間の心を理解してほしい。


 そう伝えたかったが、事故とはいえこちらから呼び出したのに契約をせずに帰してしまうのは、なんだか申し訳ない。

 仕方ない、脱ぐか。俺はなるべく早くズボンとパンツを脱ぎ、ズボンだけを穿きなおした。黒いボクサーパンツを折りたたみ、なんだか複雑な気持ちになる。


「えっと、ぬ、脱ぎました…」


 恥ずかしいというよりは、屈辱的な気持ちである。なぜパンツを脱いだことを報告しなければならないのか。そしてなぜ渡さないといけないのか。


「ふむ、いただきましょう」


 オツ・パンティーは振り返ると、やや食い気味にパンツを受け取った。そしてそのまま懐にしまう。


「フフフ、コレクションがまた増えてしまいましたね。さて、こちらは後で楽しむことにしますか」


 おい待て。楽しむってなんだ。

 てか、こいつ、パンツをコレクションしてるのか?シンプルにキモい。


「では契約通り、私からはパンツを、それもあなたに似合う特別なものを差し上げましょう!!!」


 いや、特別とかそういうのいいから。サイズが合えばなんでもいいです。


「ア、ハイ。ドウモ」


 感情を失いかけながらも、一応お礼を言っておいた。


「それではハルト、またお会いしましょう」


 そう言うとオツ・パンティーは透明になって消えていった。彼が立っていた魔法陣の上には、脇に抱えられるサイズの宝箱が置かれていた。あの中にパンツが入っているのだろう。


「もう、二度と会いたくねえよ…」


 俺のぼやきは、誰にも聞かれることはなかった。




(後書き)

 今更ですが、アプリなどで読んでいる方もいらっしゃるかもしれないので、前書きと後書きを分かりやすくしてみました。

 え、クリスマスイブって何ですか?初めて聞いた言葉です。なんだか怖いですね…。

 というわけで、お読みいただきありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などをいただけると嬉しいです。

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