6話 キモい生物、襲来
顔がとんでもない美少女になったことでテンションブチ上がりだったが、肝心の性別は男のままだった。要はキンのタマがついていた。くっそー、これじゃ美少女じゃなくて美少女(男性)じゃないか。それとも男の娘と表現すべきか?いや、男の娘を自称するのはなんとなくムカつくから、あくまで男性というスタンスでいくべきか。
今後の身の振り方に頭を悩ませるが、どうせ他人にどう思われるかは知らんこっちゃである。
そんなことよりも今は、どこに向かうか決めたり、スキルの使い方を確認したり、いろいろやらなきゃいけない。
まず、俺が今いる場所は砂浜で、目の前には海が広がっている。反対側には木がまばらに生えた森林があり、ここを歩いて進むのはちょっと怖い。しかし海と森以外何もない。人が住んでいる気配はまるで感じられなかった。
航海する手段はないし、海を泳ぐ度胸もないので、とりあえず海沿いに歩いてみることにした。ひょっとしたら漁村のような集落が見つかるかもしれない。
「よし、出発するぞ!」
勢いよく腕を宙にかざしたら、なぜか手が袖の中に入っていた。
あれ、おかしいな。パーカーのサイズはピッタリのはずなんだけど。
あまり気にしないで歩き始めたが、数歩だけ進んだところで違和感があった。靴のサイズが合ってない。足の指を動かしてみても全然余裕があった。
嫌な予感が脳裏をよぎる。もしかすると、身長が縮んでいるのではないか。
「う、嘘だ、身長が縮んでいるなんて!」
ただでさえ低かった身長である。もとが166㎝しかなく、神様は平均身長さえ与えてくれなかったのかと嘆いたほどのコンプレックスだった。身長165㎝の人を見て「自分はまだ1㎝上だ」と思うことで心の平穏を保ってきた。それが今回、あろうことか縮んでしまうなんて…!ショックが大きい。
いや、でも待てよ。俺はついさっきものすごい美貌を手に入れた。それと引き換えに身長を失ったと考えれば妥当じゃないか。むしろ低身長プラス美少女と考えれば可愛さマシマシ、爆発的アドバンテージである。
あ、でも俺、男のままじゃん。身長低かったら結局男として敗北な気がする。ちくしょう。
くよくよしても仕方ない。とにかく靴のサイズが合わないのは致命的なので、いっそ脱ぐことにした。靴下も脱いだ。それらをレジ袋に無理やり突っ込み、自分自身は裸足で歩く。
小石が足裏に当たるのが意外と痛かった。なるべく石のないところに行こう。そう思うと必然的に波打ち際を歩くことになる。歩くたびにちゃぷちゃぷと音が鳴る。
傍から見れば、海に遊びに来た旅行者だ。
「なんか一人でバカンスに来たみたいだなー」
日が照って熱いので、足に海水が当たると、ひんやりして気持ちよかった。我ながら随分とのんきだ。
あまりにも足元が気持ちよかったため、足で水を飲んでいるような気分だった。…ん?いや、待て待て。足で水を飲むってなんだ。
不思議に思い自分の足を触ってみると、濡れていなかった。ついさっき波に当たっていたというのに。代わりに白い粒が付着していた。ペロッ、これは塩。
一体どういうことだと疑問が浮かんだが、すぐにピンときた。これはきっと、【吸水】の効果だ。足から水を飲んでいる気がしたのも、足が濡れずに塩が付着したのも、【吸水】の能力だろう。
【吸水】は食塩の混ざった海水ではなく、水だけを吸い取るみたいだ。しかもどういう経路かは不明だが、喉から飲んだ水と同じように吸収している、気がする。おかげで喉が渇かずに済みそうだ。塩が足につくのが玉に瑕といったところか。手で塩を払えば直ぐにもとの綺麗な足が現れる。
しばらく歩いていると、もう一つ残念な点が発覚した。このスキル、自分の意志で止めることができない。心臓が勝手に動いているように、このスキルも触れた水を勝手に吸うのである。いや、スキルというより、皮膚だ。【吸水】のスキルオーブを取り込んで脱皮したとき、皮膚が【吸水】の性質を帯びるように変化したんだろう。
これから俺は全身自動吸水人間として生きていくんだと思うと、嬉しくも悲しくもない、微妙な気持ちになった。やれやれだぜって気持ちだ。
綺麗な海を眺めながらてくてく歩いていたら、サメ映画によくある黒い背ビレのようなものを発見した。しかも、その背ビレはこちらに向かって突進してくるように見えた。
え、マジ?もしかして俺、格好の餌だったりする?
「ひょおおお!?に、逃げる!!」
奇声を上げながら海から距離を取る。ちょうど波が届かないラインに下がってから、背ビレのほうを見た。すると、さっきまで海のど真ん中にいたそいつは、波打ち際のすぐそこまで来ていた。
あっぶねー、もしかすると食われてたかも。でもここまでくれば安全だ。
しかし、その考えは間違いだった。魚は海からは上がってこられないと思っていたのだが、そいつはそもそも魚ではなかった。そいつは魚のボディではあるものの、うろこの生えた手足を持ち、人間のような二足歩行をしながら海面から歩み寄ってきた。
俺より二回り大きい魚人、またの名をサハギン。マーメイドの逆バージョンのようなキモい怪物がそこに立っていた。
サハギンはこちらにじりじりと歩み寄ってくる。どう見ても友好的ではないが、念のため声をかける。
「ど、どうも。いい天気っすねー…」
反応なし。言葉は通じないようだ。そうなると、残る選択肢は二つ。
一つは逃げること。二つ目は立ち向かうことだ。
まず、逃げることに関してだが、俺は今裸足だ。そのうえサハギンの両手両足はうろこ越しにもわかるほどムッキムキである。逃げ切れる気がしない。もしかしたら相手はエラ呼吸で、地上では長く活動できないかもしれない。だが自信満々で陸地に上がってきた様子から察するに、全然そんなことないんだろう。
立ち向かうことは、こちらも同じく無理な気がする。体格的には負けてる。では肝心の武器であるスキルはというと、俺は現在【吸水】以外のスキルを試していない。
どうしよう、詰みだ。第3の選択肢、「あきらめて死ぬ」が出てきてしまった。
「ギチャアアア!」
サハギンが汚い声を発しながら突撃してきた。くそっ、こうなったらイチかバチか、【水鉄砲】で撃退するしかない!
スキルを試していないからといって、全く使い方が分からないわけじゃないんだ。【水鉄砲】のスキルオーブを取り込んだときの「指に激痛が走った」あの感覚。このスキルは指から発射するんだと感覚で理解している。
俺はサハギンに向かって、狙いを定めるように、両手で指鉄砲を作った。でも使うのは、右手の人差し指だけだ。右手の人差し指だけに意識を集中させると、そこに体中のパワーが集まっていくのを感じた。
確実に仕留めるために、自分の指が破裂しそうなほど力を込める。
俺の歩幅であと3歩というところまで肉薄した瞬間、俺は水鉄砲を放った。
水というにはあまりにも高速で飛び出した細長い水弾は、バビュウン!という聞いたことのない風切り音を発し、あっという間にサハギンの脳天を貫通していた。
…サハギンは2,3秒ほど硬直した後、前のめりに倒れたのだった。
怪物サハギンが足元に転がっている。しかも、脳天をブチ抜かれて、だ。
俺はなんだか現実離れした光景にしばし脳の処理が追い付かなかったが、だんだんと追い付いてきた。
「ハハッ、なあんだ、大したことなかったな!」
本当は怖すぎて死ぬかと思っていたが、自分を勇気づけるために虚勢を張る。遅れて安堵がやってくると、右手の人差し指がじんじんと痛むことに気づいた。
ちらりと見ると、爪がはがれてどくどくと出血していた。
「つ、つ、爪がはがれてるう!?」
俺は慌てて止血しようとしたが、包帯などを持っていなかったのでレジ袋に入れていた新品のパンツで止血する羽目になった。
(後書き)
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