16話 飛び級で冒険者になった件
「本当にマリオさんなんですか?」
「え?ああうん、そうよ。俺マリオ。てかあんたら誰ぇ?俺のこと知ってるの?」
マリオさんが聞き間違いをしている可能性を考慮し、モッチーが聞き直したが、マリオという名前で間違いなかったらしい。
なんという偶然だ。顔がマリオに似ているだけでなく、名前もマリオだったなんて。
「俺たちはただの旅人だ。この町に今まさに入ろうとしていたんだが…門番であるあんたが眠っていたから、起こさなきゃならなかった」
「ええっ?俺眠ってたん?いつの間に?あちゃー!またやってもうたわー、油断してたー!」
マリオさんはユートの言葉を聞いて、全身と顔を駆使して自らの失態を嘆いた。
なるほど、この人は居眠り常習犯だったのか。よく今まで門番を務めてこられたな…。わずかな非難の気持ちが湧いたが、自分もよく授業中に寝ていたので親近感を感じた。
「気にしないでおじさん、ボクもそういうこともあるよ!」
「あら、お嬢ちゃん優しいなあ!小さいのにええ子やで」
「いや、ボクはおと…まあいいや」
お嬢ちゃんでも小さい子でもないと言おうかと思ったが、話がややこしくなりそうなのでやめた。
この世界に来て初めての、この世界の人との会話である。問題なく意思疎通できてホッとしているのだが、気になることが一つあった。さっきから異世界の言葉で話しているのに、なにか訛りのようなものがあると感じる。標準語を聞くまではこれが訛りなのか分からないというのは、歯がゆいところだ。
「ところで、私たちはこの町に入れるのでしょうか?」
「そりゃあもちろん!わざわざ起こしてくれるなんて、悪い人たちじゃないでしょ」
「お金とか、身分証とか、そういうのは必要ないんですか?」
「いや全然!都会なら必要かもしれんけど、ここ田舎やし」
その話を聞いてまた安心した。現在ボクたちは住所不定&無国籍&無職とかいうかなり危ない状態だったので、不審者として逮捕されるんじゃないかと不安だったのだ。
「ごめんなさいね、眠ってたなんて。ところで、なんで俺の名前知ってたん?」
「知り合いのマリオって人に似てたんだ!まさか名前まで同じだなんて、思ってもいなかったよ」
すかさず言い訳する。
「へー、そんな偶然あるんやなあ。俺いつの間に有名人になったんやろうなんて考えてたわ」
マリオさんは納得してくれたようである。そっか、知らない人に名前を知られるなんて有名人ぐらいだもんな。
「なあ、この町に冒険者ギルドはあるのか?」
「あるで!田舎やから小さいけど。ここまっすぐ行って、右曲がるとそれっぽい看板が付いた建物があるから」
おお!冒険者ギルド、あるんだ!ワクワクしながら、教えてもらった道を進んだ。
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冒険者ギルドに到着したらすぐに分かった。看板に異世界の言葉で「冒険者ギルド」と書いてあったからだ。習ってもない言葉なのに読みも問題なく行える、といことを確認し、勉強してないのにテストで高得点を出したような背徳感を感じた。
洋風の木造建築といった感じの外装で、大きさは普通のレストランぐらいだ。この町の他の建物に比べるとやや大きい。ドアは開き戸で、木の板を金具で留めただけのシンプルな造りだ。ちょっと年季が入っててイイ感じの雰囲気である。
失礼しまーす、と心の中で言いながらドアを開ける。中は思ったより人が少なく、静かだ。奥のカウンターに職員がいるだけで、他には武装した者が3、4人椅子に腰かけてテーブルを囲んでいる。やはり田舎というだけあって人が少ないのか。それともたまたま人が少ない時間なのか。
ギイー、と音を立ててドアが閉まる。
「…で、何しに来たんだっけ?」
「もう忘れたのか?冒険者登録と、地竜の体の換金だろう」
呆れた顔でユートが言った。
そうだった、冒険者ギルドに来るのが楽しみで肝心なことを忘れていた。ギルドでは冒険者登録、アイテムの買い取り、クエストの受注、発注など、いろいろやってるらしい。マリオさんが言っていた。
想像していたよりも物静かな店内ではあったが、剣や杖を持った人がいて、カウンターの近くの大きな掲示板にはいろんな紙が貼られている。個人的には満足だ。100点満点中78点ぐらいのファンタジー度である。
「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょう」
受付のお姉さんだ。制服かわいい。
「冒険者になりたいです!」
「ええっと、失礼ですが年齢は?」
お姉さんは困惑したように尋ねてきた。
「18だよ」
「そ、そうでしたか!失礼しました。12歳未満の方は冒険者登録できないので、念のため確認させていただきました」
どうやらボクは相当子供に見られているらしい。おいおい、そりゃ冗談きついぜ。ショックが大きいあまり、心が砕け散りそうだった。
泣きそうなのをグッとこらえる。
「お金はいくらかかるんですか?」
ボクが精神的にダウンしたのを察してくれたのか、モッチーが代わりに聞く。
「一人あたり銀貨1枚になります」
銀貨1枚ってどんなものなんだ。貨幣の価値がなんも分からん。価値が分かったところで一文無しだからどうしようもないのだが。
「そうか。悪いが今、持ち合わせがなくてな。買い取ってほしい物があるんだが、頼めるか?」
「分かりました。モンスターから採れる素材などは換金できますよ」
冒険者登録をする前でも換金などはできるらしい。
ユートはポケットから取り出すような素振りをしつつ、実際にはアイテムボックスから白き地竜の爪を取り出した。ゴブスケに見せた後に剝ぎ取っていたのだ。
鋭く硬い鉤爪は、頑張れば先端ぐらいはポケットに入るかもしれないサイズである。取り出すところを正面から見られていたら怪しまれたかもしれないが、カウンターで隠れているので大丈夫だろう。
「この爪なんだが…」
「これは、なんのモンスターの爪でしょうか?見覚えがないもので…。ギルドマスターが【鑑定】スキルを持っているので、呼んできますね」
お姉さんは一瞬困ったような表情を浮かべたが、すぐに奥の部屋へと向かっていった。
【鑑定】、そういうスキルってやっぱりあるんだ。どんな効果のスキルなんだろうと考えを巡らせていたら、奥の部屋からさっきのお姉さんとスキンヘッドのマッチョマンが出てきた。
「おう、待たせたな」
顔も怖いし声も低い。歳は40ぐらいだろうか。服装は地味だが、これがもし白スーツとかだったら完全にマフィアである。
「あんたが【鑑定】を持っているギルドマスターか。これを鑑定してくれ」
ユートは怖気づくことなく鉤爪を差し出す。いや、度胸ありすぎだろ。
ギルドマスターはこちらの態度を気にせずに、鉤爪を受け取った。
「ふむ、この重さに質感…これを素材にして武器を作れば相当いい物になりそうだ。しかも100年以上前の地属性魔力に、竜の因子。っつーことは、これは白き地竜、ガルドノアの爪だな。お前らが倒したのか?」
ギルドマスターは何やら細かく分析した後、怪しむような顔で聞いてきた。顔こわっ。
発言の内容から察するに、【鑑定】というスキルはすぐに物の名前がわかるような便利なものではないらしい。状態を細かく分析し、あくまで最終的な判断は本人の知識によって行われる…そんなスキルだろうか。
「ううん、倒したのはユート。ボクは襲われてるところを助けてもらったんだ」
「…ああ、まあそんな感じだ」
ユートは何やら消極的に肯定した。本当は自分が倒したことにしたくなかったのだろうか。しかし、なんのために?
「なんだボウズ、お前一人で倒したってのか?」
「そうだ」
「…てめえみてえなガキに倒せるはずがねえ」
ギルドマスターはユートに問い詰めると、途端に空気が重くなり、物凄い危機感、悪寒がした。それはギルドマスターから放たれる殺気だった。強者の持つオーラが、ボクの、人間の五感を超えた本能に警鐘を鳴らす。異常なまでのプレッシャーだった。
しかしそのプレッシャーはすぐに消えた。ほんの一瞬しか放たなかったのだろう。一瞬しか放たれなかったそのオーラで、圧倒的な実力者であると理解させられた。ふおー、怖かった。
「まあな。俺が倒したっていう保証はない。あんたが信じたくないって言うんなら、俺は構わん」
「ちっ、いけ好かねえガキだ…。だが今ので度胸があることだけは分かった。この爪は金貨20枚で買い取らせてもらう」
ユートは一ミリもビビった様子はなかった。え、すご。モッチーも驚いたような顔をしている。
「分かった。相場がどの程度か知らないが、金額はそれでいい。3人分の冒険者登録の金額、銀貨3枚をそこから差し引いてくれ」
「何?まだ冒険者登録をしてねえってのか。…なら、特例でD級からのスタートにしてやる。本来ならG級からのスタートだが、実力を測る意味ではちょうどいいだろう。ところで、お前らパーティは組むのか?」
特例でD級、というのは冒険者のランクのことだろう。もしパーティを組むことになったら、実力のあるユートはいいとして、ボクとモッチーのランクはどうなるんだろう。実力が離れているどころか、そもそもこの世界に来たばかりで自分の実力すらよく分からない状況である。もし2人の足を引っ張ることになったらイヤだな。
まあ、難しく考えなくてもいいか。
「ボクは2人と一緒に旅したいな~」
「ええ、せっかく知り合えた仲ですし」
「だな。同じ故郷から来た者同士だ。俺たちでパーティを組むのが一番いいだろう」
よかった、3人とも同じだ。こういうのってちょっと嬉しい。
「よし、分かった。後の手続きは受付のお前に任せる」
「はい、分かりました。では皆様の名前を教えてください」
手続きは滞りなく進み、晴れて冒険者の証である冒険者プレートという物をもらった。これさえあれば身分証の代わりになるらしい。プレートにはD級冒険者、ハルト・カワグチの文字。いい響きだ。
ギルドを出て、宿をとるという段になって、金貨20枚というのはどうも大金らしいと分かった。
受け取った金額の金貨20枚から銀貨3枚を引いた額で金貨19枚と銀貨97枚。銀貨100枚で金貨1枚の価値ということが自ずと分かった。受付のギルド職員から教えてもらった宿は一部屋一泊につき銅貨10枚だった。3人分、贅沢に3部屋とって代金は銅貨30枚。銀貨を1枚払うと銅貨70枚のおつりが返ってきたので、銅貨100枚で銀貨1枚の価値だということも分かった。
銀貨1枚で、一人あたり10泊できる。金貨一枚なら1,000泊できる。しかも朝食付きで、だ。
日本円で例えるのは難しいのだが、とにかく大金だということは分かる。
今日はもう遅いので、必要な物の買い出しなどは明日にすることにした。着替えやらなんやら、必要なものが多い。
金貨20枚はユートのものなんじゃないかと思ったのだが、本人いわく「これはパーティのものだ。たとえ大金でも、こんなあっさり手に入った金に固執する気はない」とのことらしい。随分と男前だなー、と感心したが、もらってばっかりでは申し訳ない。いつか借りを返す。むしろバリバリ働いてパーティに貢献しようというやる気がみなぎっている。
「そのためにも、早いとこ異世界に慣れて鍛えないとな~」
ふあ~、と宿屋のベッドの上であくびをすると眠たくなってきた。異世界に来て2日目がようやく終わりを迎える。




