15話 ゴブリンキッズとおっさん兵士
(前書き)
今年の抱負を考えているうちに2キロ太りました。ひとまず痩せることを目標にしようと思います。
「…誰かが後を付けてきている」
ユートが足を止め、振り返る。
え、後を付けてきているって…ストーカーかなにか?そう思い自分も後ろを確認するが、誰もいなかった。
「誰もいないよ?気のせいじゃない?」
「いや、確実にいる。…そこだな」
ユートが草むらに右手を向けた。その腕は既に帯電しており、今にも【電気魔法】を放とうとしている。
「ちょちょ、待っておくれよ~!」
気の抜ける声を発しながら、草むらから緑の人影が飛び出す。尾行してきたのはゴブリン村のゴブリンだったようだ。
草むらの緑と緑色の肌が馴染み、カモフラージュになっていたのだろう。ゴブリン、恐るべし。
というか、ユートはよく気が付いたな。
「わあ、本当にいたんですね」
モッチーも気づいていなかったらしい。よかった、気づけてないのがボクだけじゃなくて。
「おい、なぜ付いてきた?」
ユートはゴブリンに詰問する。理由次第では殺すぞ、という言外の殺気を放っていた。
しかしゴブリンは全く怯んでいない。肝が据わっているのか、鈍感なのか。
「えへへ、なんだか面白そうだから付いてきちゃった」
ゴブリンは子供みたいな理由を述べる。ゴブリンの顔の違いや年齢などは分からないが、先ほど出会った老ゴブリンよりは若く見えるので子供ゴブリンなのだろう。
「ねえ君、名前はなんていうの?」
相手がゴブリンだろうが、子供ならば優しく接してあげたほうがいいかと思い、名前を聞くことにした。
「おいらはゴブスケってんだ。村長の息子だよ」
ゴブリンのゴブスケか。ゴブスケくんって呼ぼうっと。村長というのはあの老ゴブリンのことだろうな。
「村長の息子さんでしたか。道理で言葉が流暢なわけです」
たしかに、あの村にいたゴブリンは村長を除き大半が片言だった。沢山のゴブリンを治療したモッチーだからこそいち早く気づいたのだろう。
「ゴブスケくん、ここはモンスターがいて危ないから、今すぐ村に帰らないとダメだよ」
とりあえず帰るように説得する。
「へへっ、おいら隠れんぼ得意だから大丈夫だよ」
なるほど、モンスターから身を隠せるのなら大丈夫なのかも。ボクたちよりもゴブスケくんのほうが森での生活は長いだろうし、生きる術は身に付けているように思える。
「そんなこと言って、俺には見つかっていただろう」
「それは兄ちゃんが凄いだけだよ!ドラゴンスレイヤーなんでしょ?」
ユートが腕を組みながら指摘すると、ゴブスケくんは意外な返事をした。ドラゴンスレイヤーというのは、例の『白き地竜』を倒したことを指しているのか。村長が鵜呑みにしなかった話をこのゴブリン少年は信じているらしい。
「さあな。あれがドラゴンかと言われると自信がない。デカくて白い亀なら納得できるが」
ユート自身でさえも自分がドラゴンスレイヤーである自覚がないようだ。ドラゴンといえば普通はトカゲに翼が生えたようなものをイメージするだろう。しかし亀も爬虫類だし、ドラゴンと言えなくもないのではなかろうか。
「だったらさ、ドラゴンの爪とか持ってきてないの?」
ゴブスケくんがそう言うと、ユートはしばし思案し、「ちょっと下がってろ。デカいから」と言いながらやや広い場所に移動する。
え、まさか…?
何もない空間から突如、ズモモモといった感じで白い物体が現れる。あれは間違いなく、ユートが倒した亀の胴体だ。あんなデカいものまで【アイテムボックス】に入れられるのか。というか、いつの間に入れていたんだ。
やがて全身が現れ、ドシーン!と地面に落ちる。亀の甲羅、4本の足、尻尾。首から先は切断したから無いが、遅れてアイテムボックスから取り出された。
「おおっ!すっげえ!本物じゃん!」
ゴブスケくんがはしゃいで声を上げる。
「本物ってことは、ゴブスケくんは前にも見たことあるの?」
「うん、そうだよ。父ちゃんと一緒に狩りに出たときに見たんだ。父ちゃんが白き地竜だって言ってたから、間違いないよ!」
どうやら本当に白き地竜だったみたいだ。これでユートは晴れてドラゴンスレイヤーになったわけである。やったね!
「ところで兄ちゃん、今どこから出したの?」
ゴブスケくんは当然の疑問を口にする。
「…【アイテムボックス】だ」
ユートは答えるべきか迷ったようだが、正直に言った。スキルについてどの程度話していいのか、確かに迷いどころである。あまりにも強力なスキルだと、持っているだけで怖がられるかもしれない。【聖剣】なんかは特に人に言っていいのか分からないだろう。
「へー、そんな便利なものがあるんだね。ドラゴンスレイヤーってすげえや」
ゴブスケくんは特に驚いたりしなかった。アイテムボックスという言葉を聞いて「便利なもの」と言ったところから、道具かなんかだと思っているのかも。それならそれでいいか。
「なあなあ兄ちゃんたち、そんだけ強いってことは冒険者なんだろ?」
「いや、俺たちは冒険者じゃない。旅人みたいなものだ」
さすがに「異世界から来ました」とまでは言わないみたいだ。相手は子供なので信じてもらえるかもしれないけど。
「ええっ!?冒険者じゃないの?もったいないな~、おいらだったら絶対冒険者になってるのにな~。…じゃ、おいら帰るね!」
そう言って、ゴブスケくんは唐突に走り去っていった。よっぽど足が速いのか、すぐに見えなくなった。
「アイツは一体なんだったんだ?」
「まあ、子供ですし。そういうものじゃないですか?」
ユートもモッチーも嵐のようなゴブリン少年に翻弄され、困惑気味であった。
「さ、気を取り直して行こうよ」
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数時間後、町が見えてきた。
「ようやく着いた~、めっちゃ疲れたよ」
気づいたら疲労が足に蓄積していた。太ももをパシパシ叩く。
「俺は大して疲れていないが…。体力ないんじゃないか?」
「なっ…!?」
ユートからの唐突なディスに動揺するが、言われてみれば確かにそうだ。普段はあまり運動していない。しかし現代人が運動不足に悩まされるのは珍しくないだろう。
「モッチーも疲れたでしょ?」
「私は【疲労軽減】のスキルがあるので、あまり疲れていないですね」
体力貧弱の民はボクだけであった。
いいなあ、【疲労軽減】かあ。派手ではないが強力そうなスキルである。地味に強いってやつだ。
まだお互いに能力の詳細を明かしていないが、じきに分かるだろう。モッチーとは出会ってまだ2日、ユートは今日出会ったばかりだ。
町の周囲には木の柵が張られていた。町から伸びる道は舗装されてはいないが踏みならされている。その道を辿って町の入り口に近づくと、兵士が立っていた。鈍く光るヘルメットの下には、ヒゲがある。きっとおっさんだろう。
「ねえ、門番がいるよ」
「ですね。ゴブリンの村にも見回りの方がいましたが…」
「日本では見かけない光景だが…、この世界はどこも物騒なのかもな」
兵士のいる方へ歩いて進んでいくが、兵士は一切こちらに反応を示さない。ずっと腕を組み仁王立ちである。どっしりと構えて強そうな雰囲気だ。
ヘルメットの下の顔が見える位置まで進むと、その兵士は下を向いて目を瞑っていた。なんだかめっちゃ強そうである。例えるなら、主人公の到着を待ちわびる四天王最強の男って感じだ。
「すみませーん、通ってもいいでしょうか…」
「………」
恐る恐る声をかけてみたが、反応はなかった。聞こえなかったのだろうか。
もっと近づかないとな。
「すみませーん!」
今度はモッチーが近くで声を張るが、反応はなかった。
うーむ、耳が遠いのかな。脳裏にクエスチョンマークを3個ぐらい浮かべていたら、ユートが兵士の目の前まで近づき、顔を覗き込む。おいおい、ヤンキーみたいなことをするな…と思ったら、すぐこちらに振り向いた。
「おい、このおっさん、立ったまま眠ってるぞ」
「え?」
強そうだと思っていた兵士は、意外にもただ寝てただけらしい。
なんというかちょっと残念である。
「立ったまま眠れるなんて…そういったスキルを持っているんでしょうか」
ガッカリしているボクとは対照的に、モッチーは何やら戦慄していた。これがスキルだろうかとは思うが、この世にどれだけスキルがあるかは知らないので完全に否定することはできない。
「いや、モッチー。立ったまま眠っているのは単なる技術で、眠りながらも威圧感を出していることがスキルかもしれない」
「そんなバカなスキルないだろ」
ボクが出した可能性をあっさり否定されたが、本人に聞かなければ分からないだろう。
さて、どうやって兵士を起こしてやろうか…。
ひとまずヘルメットをコンコンと叩いた。反応はない。次にヘルメットと緩衝材の布を勝手に取り外し、おでこをコンコンと叩いた。それでも反応はない。
「うーん、なかなか起きないな…」
「普通に肩をゆすったりしないんですか?」
なるほど、起こし方が間違っていたのか。
「ドアをノックするみたいにされたら、起きても起きたくなくなるだろう」
言われてみれば確かにそうである。
そこであることに気が付いた。この兵士の顔である。それなりにきちんと整えられた口ひげに、ちょっと小太りな丸い顔。目、鼻、口、それぞれの顔のパーツは大き目。そして髪の毛は短く天然パーマで少しもじゃもじゃだ。
そう、この兵士、このおっさんの顔は…顔は…!
「なんかこの人マリオに似てない?」
「それは俺も思った」
「私も思いました」
配管工のおっさんこと、スーパーマリオブラザーズの主人公、マリオに似ていた。
「ハハハ、めっちゃマリオじゃん。ウケる~」
「いや、いくら相手が眠ってるからって失礼じゃないか?」
「まあ異世界から来た私たちにしか通じない話ですから…大丈夫じゃないですか?」
「そういう問題じゃないと思うが」
人の顔で笑うのは失礼だと言いたいのだろうが、これだけ似ているとつい笑ってしまう。
さて、気を取り直して起こすか。
「おーい、マリオー!」
しまった、ついうっかり脳内で名づけてしまった。本当は兵士さんと言おうとしていたのに。
するとその時だった。兵士のおっさんは顔を上げぱちりと目を覚まし、口をワッと開いた。
「ゴホッ、えっ、今俺の名前呼んだ?」
どうやら、本当にマリオという名前だったらしい。
(後書き)
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