14話 悪いゴブリンじゃないよ!
数分後、ユートが戻ってきた。顔色はまだ若干悪かったので、なんかごめんって心の中で謝っておいた。
「俺のことは気にするな。明るい内に進むぞ」
ボクたちが進むのはでっかい山のほうだ。さっきユートが木の上から思いっきりジャンプして、かなり高い位置から周囲をざっと見たところ、何やら人工的な建築物が見えたらしい。その方向が山のある方向と一致していた。
3人で周囲を警戒しながら進んでいくが、正直言って、ユートの戦闘力があれば滅多に負けることはないんじゃなかろうか。それにずっと警戒してるのも疲れるので、適当に会話をしている。
「異世界だけど言葉通じるかな?」
「どうでしょうかね。元の世界でも、国が違えば言葉は通じませんし」
「言語に関係するスキルは、探す時間がなかったな」
もしも全然通じなかったら、ジェスチャーでなんとかするしかないな。あと、他に不安なことといえば、お金だ。
「どうせ充電なくなるし、スマホとか高値で売れないかな?『未知のアイテムです』っつって」
「使い道のないものが売れるかは微妙ですが…」
やっぱり無理そうかー。なんとかして仕事を探してお金を稼がないとな。そう思っていたところで、ユートが口を開いた。
「充電、か。俺は【電気魔法】を持っている。まだ試したことはないが、充電もできるかもしれない」
魔法も持っていたのか。確証はないようだが、実験してみる価値はありそうだ。
「マジ?じゃあボクのスマホで試してみてよ」
ボクはユートにスマホを手渡す。
「いいのか?壊れるかもしれないぞ」
「いいよいいよ。どうせ充電できないなら壊れてるようなもんだし」
ユートはスマホを左手で持ち、右手をその上にかざす。そして右手から電流がバチバチと流れる。
「あっ、壊れた」
「ええっ、早くね!?」
「冗談だ。次は真面目にやる」
冗談かよ。モッチーも笑ってないでなんか言ってくれ。
ユートがあれやこれやと試すと、スマホからブゥンという音が鳴る。
「お、もしかしてできた?」
ユートは首を縦に振る。
「ああ。意外と簡単だった。だが、100%になるまでにある程度時間がかかる」
彼の【電気魔法】により、スマホの充電問題はあっさり解決。スマホ自体の寿命が来るまでは手放さなくてもよさそうだ。
歩きながら1分ほど経つと、「もう貯まった」といってスマホを渡してきた。見ると、しっかり100%まで充電されている。もともと50%だったのが、たったの1分でマックスである。【電気魔法】って結構すごいのかもしれない。
「ねえ、せっかくなら写真撮ろうよ」
ボクはスマホの動作を確認し、そう提案する。
「いいですね!撮りましょう!」
「俺は別に、写真とかは…」
ノリノリなモッチーとボクが、乗り気ではないユートを両側から挟んで拘束する。
「はい、チーズ!」
「って、おい待てっ!」
パシャッ。ユートの制止を聞かずに、内カメラで自撮り。よし、ちゃんと3人写ったな。ボクとモッチーはピースをしている。
「ユートくん、表情が硬いですよ」
モッチーも写真を見て指摘する。
「う、うるさい」
「じゃあもう1枚撮るよー」
今度は角度を変えてパシャ。
「こっちのほうがうまく撮れたかな?」
「はあ、全く。チヒロもハルトも、呑気すぎないか?」
ユートがため息をつくが、彼自身、「とりあえず振り回したくなる後輩オーラ」を出している…気がする。
「まあ、異世界に来た記念写真ってことでさ。ボクたちが呑気にしてられるのも、ユートのおかげなんだぜ?」
「そうですよ!ユートくんのおかげです!」
「適当に褒めてごまかそうとするな」
そう言うユートだったが、その表情は若干嬉しそうだった。照れ隠しで言ったのかもしれない。
その後、特に敵と遭遇することもなく歩いていくと、前方に藁の塊みたいなものを発見した。
「なんだろう、あれ。原始人の家?」
「歴史の教科書に載ってそうな見た目ですね」
「想像してたよりも文明が遅れている気がするが…本当に人がいるのか?」
一体だれが住んでいるのか不明な藁の家が、1、2、3、4、5、6。6軒ある。それほど規模の大きい集落ではないみたいだ。
「待って、見張りがいます」
モッチーが言ったとおり、その集落の周りを歩く人影があった。小柄で、手には槍を持ち、腰に毛皮を巻いただけの簡素な衣服。上半身が裸なので、その肌が薄い黄緑色であることがよく分かった。
見つからないよう、慌てて近くの草むらに身を隠す。
「あれはゴブリンか?」
ボクもユートと同じ感想を抱いた。しかし、前に一度交戦したゴブリンとはやや異なる見た目をしている。
「ゴブリンみたいだけど、ボクたちが出会ったのはもっと濃い緑色だった。それに耳も、もっと尖っていたと思う」
なんというか、前に会ったやつよりも全体的に小綺麗だ。
「ひょっとしたら人間と友好的かもしれません。近づいてみませんか?」
「ああ。だが武器は構えていく」
ユートがアイテムボックスから剣を出し、先頭に立って進む。
ある程度近づくと、見張りがこちらに気づいた。見張りは慌てて藁の家の一つに入り、すぐさま別のやつと共に出てくる。
「お待ちくだされ!冒険者の方々!我々は悪いゴブリンではありませぬぞ!」
現れたそのゴブリンは、しっかりとした言葉で声を上げた。
マントのようなものを羽織い、杖をついている。いかにも老ゴブリンといった感じだ。
日本語ではないのに聞き取れた。この世界の言葉?あるいはゴブリン語?もしかしたらこっちの世界へ渡る際、脳みそに直接、言語をインプットされたのかもしれない。
ていうか今、冒険者って言ったよね。やっぱりそういうのあるんだ!ワクワクしてきた。
「そうか、言葉が通じるのか。だったら俺たちも敵対するつもりはない」
「ホウ、そうですか。それはありがたい」
ユートが戦う意思がないことを伝えると、老ゴブリンは安心したようだった。
「私たちは偶然ここを通っただけなんです。もしこの森の地理に詳しいようでしたら、どちらに人間の町があるか教えてくれませんか?」
モッチーが質問してくれた。ナイスである。
「おや、旅の方たちでしたか。それなら、この村を通り過ぎて北へまっすぐ進むと町があります。それほど遠くないので、いまから向かっても夕方までに着くかと」
老ゴブリンは親切に教えてくれた。これほど人間の言葉を理解しているということは、過去に人間との交流があったのかもしれない。
「それから、一つ気を付けて欲しいのですが、この森には『白き地竜』がいます。巨大な亀のような見た目ですが、ドラゴンでございますゆえ、くれぐれも近づこうなどとしないでください。襲われたらひとたまりもありません」
巨大な亀。…えっ、それってユートが倒したやつじゃない?
そう思って二人のほうを見ると、頷いた。どうやら考えてることは同じらしい。そっか、ドラゴンだったんだ。
「その『白き地竜』ってやつ、多分俺が倒したぞ」
「ホッホッホ、ご冗談を。何か別のモンスターの見間違いでしょう」
信じてもらえなかった。まあ、信じられなくても仕方ないか。証拠もないし。
「ところでおじいちゃん、杖をついてるけど、腰が悪いの?」
ボクが気になったのは、老ゴブリンの姿勢だ。杖をついている割にまっすぐな気がする。
「いえ、旅のお方。実はこのように、足を怪我しておりましてな。歩くのにも一苦労なのですじゃ」
老ゴブリンはそう言って、左足を差し出し、見せてくれた。
足には確かに大きめの傷があった。布がないのであろう、その傷に紐のようなものをいくつか巻き付けていた。それほど古くはなさそうだ。痛そうである。
「あの、もしよろしければ治しましょうか?【回復魔法】が使えるので」
見かねたモッチーがそう提案する。
「よろしいのですか?」
「はい、全然かまいませんよ」
モッチーは老ゴブリンに近づき、足の方へ手を向ける。温かい光が傷口を覆うと、みるみる傷が治っていく。
「おお、これは…もうすっかり痛くありませんぞ!ありがとうございます!」
「どういたしまして。道を教えてくださったお礼です」
そういったやり取りをしていると、いつの間にか藁の家から出てきた他のゴブリンたちが集まってきた。
「グギャ、ニンゲン、オイラノウデモ、ナオシテ」
「こらこら、旅のお方に迷惑を掛けるでない」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
モッチーはその腕を怪我したゴブリンだけでなく、続々と集まってきたゴブリンたちの怪我もあっという間に治していった。
「あわわわわ、こ、こんなに助けていただけるなんて。本当にありがとうございます。あなたはまるで女神様のようです」
「そ、そこまで褒められるほどではないと思いますけど」
その光景を傍から見ていたが、本当に女神様みたいだった。ふむ、仲間を褒められると自分も誇らしくなってくるな!
なんて考えながらゴブリン村を眺めているときだった。ふと藁の家を見ると、その陰から誰かがこちらを覗いていた。むこうもこちらの視線に気づき、さっと身を隠す。
「ん…?」
うーん、気のせいかな?誰かがいた気がするんだけど。シャイなゴブリンでもいたんだろうか。あるいは、ボクたちを警戒しているのか。まあ、気にしなくていっか。
「では、私たちはこれで」
モッチーが全員に回復魔法を掛け終わり、別れを告げる。僕たちは沢山のゴブリンに見送られて村を去った。
(後書き)
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