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13話 年下のヒーロー

 目の前の異様な光景に呆然としていた。あれだけ巨大な亀の首を、一瞬で切り落とすなんてことができるのか。

 

 少年は悠々とした足取りでこちらに近づいてきた。目の前まで来て立ち止まる。自然と見上げるような形になった。

 少年の顔は若い。高校1年とかその辺じゃないだろうか。金髪に黒目、日本人らしい顔立ち。服装は黒いロングコートにジーンズ。うーむ、なんとも中二病のかほりがする。しかしどれも高級品のような風格があり、不思議と着こなしている。ひとえに中二病とは言えないか。


「立てるか」


 少年は右手にある大剣を地面に突き刺し、左手をこちらに差し出してくる。

 普通だったらこちらも左手で掴むのだろうが、間違って右手で掴んでしまった。しかし立ち上がる分には問題ないので、そのまま引っ張られて立つ。

 左手で涙を拭う。


 そうだ、ボクはこの少年に助けられたのだから、何か言わなければ。


「あ、ありが、とう…」


 さっきまで死の危険が迫っていたのでぎこちない感じになってしまう。立ったあとで気づいたが、この少年、ボクよりもだいぶ身長が高い。それに握っている手の大きさも違う。

 ちくしょう、年下のくせにいっちょ前に背ぇ伸ばしやがって。無意識のうちに握る手に力が入ってしまった。少年はやや驚いたような表情をしていた。やべ、謝っとこ。

 

「ご、ごめん」


「いや、いい。…怖かったんだな」


 ボクは一瞬「ん?」と思ったが、彼は、ボクが恐怖のあまり力強く手を握ってしまったのだと勘違いしたのかもしれない。

 まあ、実際は身長で負けていることの悔しさで力んでしまったのだが、言えるはずもないのであった。


 ボクはそこで手を離そうとしたのだが、なぜか離れなかった。しっかりと握り返されているようである。


「あ、あの、手…」


「安心しろ。俺が守ってやる」


 話しかけるタイミングが悪く、遮られてしまった。

 少年があまりにも情に満ちたような表情で言うので、それ以上強く言うことができない。


 どうしようかと思ってしばらくジッと目を見つめていたが、少年はサッと目をそらした。


「…この森にずっといるのは危険だ。さっさと抜け出したほうがいい」


「ま、待って。仲間とはぐれてしまったんだ。たぶん、まだ向こうにいると思うんだけど」


「そうだったのか。なら、すぐに合流しないとな」


 少年が自分の右に立って、手をつないだまま歩き出す。

 やべえ、手を離してくれない。しかし、せっかく自分を助けてくれた少年の好意を無下にするわけにもいかない。いかにも中二病っぽい服装や雰囲気だが、たぶん悪いやつではない。むしろ結構優しいと思う。

 仕方ない、ここは我慢しよう。


 ふと彼のほうを見ると、いつの間にか大剣が消えていた。


「剣はどうしたの?」


「ああ、【アイテムボックス】に仕舞った」


 少年はあっさりとボクの質問に答える。

 アイテムボックスといったら異世界転移モノの定番である。しかし昨日モッチーに聞いた話だと「高すぎて手が届かなかった」ということだった。それだけの強力なスキルを持っているのは不思議だが、よっぽど多額の資金をもらっていたということだろう。

 

「へえ、すごいスキルだね!」


「いや、別に。大したことじゃない」


 表情が見えないので、本当に大したことじゃないと思っているのか、謙遜してそう言ったのかは分からない。あるいはかっこつけているだけとか?

 いろいろ質問してみるか。


「ねえ、君も日本人だよね?名前はなんていうの?」


「…優斗。神谷(カミヤ)優斗(ユウト)だ。」


 神谷優斗か。うーん、なんて呼ぼうかな。


「へー、ユートって呼んでもいい?」


「好きにしろ。…で、お前は?」


「ボクは川口晴人っていうんだ。よろしく」


「ん…?いや、何でもない。よろしくな」


 何か引っかかったようだが、何でもないというならいっか。


「ところでユートは高校生?」


「いや、中学生だ。中学3年」


 てっきり高校生ぐらいだと思っていたので意外である。髪も金髪だし。彼ももしかしたら、スキルの影響で見た目が変わったのかもしれない。


「だったらボクのほうが年上だね!高校3年生だから」


 そこでようやく、彼はこちらを見た。しかし少しの間目が合っただけですぐ逸らされてしまう。


「そうだったのか。勝手に年下かタメだと思っていた」


 彼は年上でも気にせずにタメ口を使うタイプのようだ。それよりも、年下だと思われてたの?ボク。


「え~、どっからどう見てもボクのほうが年上じゃん!」


「…どうだかな。ちっさいし」


 さすがに今のは聞き逃さなかった。


「なっ…!?今、さりげなく身長でマウント取った?」


「そんなことはないですよ、先輩」


 唐突な敬語である。これは煽りの常套手段だ。


「や、やっぱり馬鹿にしてるでしょ!」


「いやいや、先輩が小さいのはただの事実ですよ」


「おまっ、ユートがでかいだけだろ!」


「俺の身長は172なんで、別に普通です。先輩が小さいだけです」


 俺は今の一言に耳を疑った。彼の身長は180ぐらいはあると思っていたのである。ところが実際は172。

 横に並んだ感じだと、ボクとの身長差は20センチぐらい。

 172-20は…152。うそだろ、152?


「…ねえユート、ボクの身長って何センチぐらいに見える?」


「さあ…148、とか?」


「うぐっ!?」


 思ったより低い!


「どうした?どこか痛いのか?」


「い、いや、何でもない。何でもないよ、ハハハ…」


 精神的ショックで声が出るというのはなかなか無いことだと思うが、さすがに身長が想像より縮んだショックは大きかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 あれこれ話しているうちに、前方に人影が見えた。


「お、いたいた。おーい、モッチー!」


 手を振って声を上げる。こちらに気づき、手を振り返してきた。


「あ、ハルちゃーん!大丈夫でしたかー!?」


 お互いに近づき、話しやすい距離まで行った。

 そこでモッチーから口を開く。


「えっとー、ハルちゃん、そちらの人は…?」


 いささか困惑した様子で尋ねられる。


「手を繋いでここまで…ま、まさか恋人!?」


「ち、違うってば!」


 しまった、手を繋ぐのに慣れていてすっかり忘れていた。

 慌てて手を放して、手を横に振り否定する。なんで男同士で恋人なんか…。


 と、今ここで気づいたが、もしかしてボク、ユートに女の子だと思われてた?なんか男同士にしては優しすぎた気がするし。つい昨日、この見た目になったばかりで失念していた。


「そういう関係じゃなくて、ユートはあの亀を倒して、ボクを助けてくれたんだ」


「ユート!?もう呼び捨てする仲なんて…」


 説明のつもりが悪い方向に進んでしまった。ていうかモッチー、悪ノリっていうか、妄想広げるの早くない?


「ゆ、ユートもなんか言ってよ」


「ああ、俺たちは___」


「俺たち!?」


 なんかもうモッチーが制御不可能だった。「俺たち」という言葉に反応されてはもうお手上げである。


「はあ、やれやれ」


 ユートはため息をつく。ボクもやれやれって感じだった。

 さてどうしたものか、というところだが、意外にもこの場で最も切り替えが早いのは最年少のユートだった。


「とにかく、この森は危険だ。立ち話をしている暇なんてないんじゃないか?」


 その通りである…のだが、いかんせん足が疲れてしまった。


「さっさと移動したいんだけどさ、ちょっと休憩してからにしない?」


 ボクが提案し、そばの木陰で休憩する運びになった。


 3人で円になって座り、ボクとユートに軽いケガがあったのでモッチーが【回復魔法】で治してくれた。腹は空いてないか、とユートが言うと、【アイテムボックス】から惣菜パンや菓子パンを取り出した。ついでに紙コップと水を取り出し配ると、簡素なピクニックになってしまった。


 アイテムボックス便利だなー、と思ったが、単純にユート本人の準備が良い。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は望月千尋といいます」


「俺は神谷優斗だ」


 2人が名前だけのシンプルな自己紹介をする。

 ボクはもう自己紹介をする必要がない。これで晴れて3人の転移者が集まったということである。


 パンを頬張りながら話し合う。この後進む方向や、ここに来るまでの経緯などについてだ。


「それにしても、あの大きな亀を一撃で倒したなんて信じられないです」


「ああ、俺もあんなあっさりいくとは思ってなかったが…【聖剣】の能力がよっぽど強かったということだろう」


 ユートは【アイテムボックス】に加えて【聖剣】というスキルも持っているらしい。その並びだけ見るとかなり強そうというか、主人公感がある。正直うらやましいが、スキルよりも身長のほうがうらやましかったりする。


「ところで、なんで手を繋いでいたんですか?」


 やっぱりそこが気になるのか。うーん、なんて説明するべきか。ボクは思い悩む。


「それは…」


 ユートが答えようとして、言いよどむ。


「というかハルちゃんって男ですけど、知ってたんですか?」


「…え?」


 どうやらユートは、気づいてないようであった。

 …何とも言えない空気になり、若干の沈黙が訪れる。

 ボクと、たぶんモッチーも、内心で「やべっ、やっちまった」と思っていた。

 ユートはというと表情が硬直し、現実を直視できないというか、混乱している感じの表情だった。


 まずい、ここはボクからなんか言わないと!


「えっとー、そのー、なんていうか、騙すつもりはなかったんだけどさ。言うタイミングがなくって…ごめんね?」


 言うタイミングがなかったのは本当だし、「ボク実は男なんだよねー」というのもなんか変な気がしたので言わなかった。


「そ、そうか。それはなんというか、意外だったな。…すまないが、ちょっと席を外す」


 そう言い残してユートはどっかへと歩いて行った。なんだか苦々しい表情をしていた気がする。


 残されたボクとモッチーは目を合わせ、互いに苦笑い。


 またボク何かやっちゃいました?心の中でそう呟いたつもりだったが、モッチーに「ハルちゃんったらもう…」と軽く(たしな)められた。




(後書き)

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