12話 ゲームオーバー…?
翌日の朝、朝焼けに起こされた。太陽に起こされるなんて健康的じゃないか。血の回りきっていない脳でそんなことを考えながら、軽くストレッチをする。
寝床が寝床だったのであまりちゃんと寝れなかったが、それでも疲れは取れたと思う。【貯水】の効果で喉は渇いていないが、モッチーは渇いているはずだ。空のペットボトルに【水鉄砲】で水を入れた。
今気づいたことだが、水鉄砲を使うときに使う力は魔力だ。召喚を使ったときの感覚に似ている。魔力によって体内の水を指の一点に凝縮させ、弾丸のように発射する。
なんとなく自分の水色に生え変わった爪を眺めていると、あることに気づいた。指の先、爪と指の肉の間に、ごく小さな穴があった。なるほど、ここから出ていたのか。【吸水】も【水鉄砲】も身体構造が変化するスキルオーブだったわけね。
人間として必要な機能を失っていないか不安になるが、それだったら今頃死んでいるだろう。生物として進化していると信じよう。
「ハルちゃん、おはようございます」
モッチーもやや遅れて起きた。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい!ばっちり起きました」
彼女は【快眠】というスキルを持っているらしい。そのスキルを早速体感したということだろう。
「水、いる?」
「いただきます!」
朝から非常に元気である。彼女は水をゴクゴクと飲んだ。もともと俺…じゃなくてボクだ。ボクの体内にあった水だが、だからといって変な味がしたりはしない。ちゃんとした普通の水である。
昨日茹でたカエル肉を残してあるので朝ごはんとして食べた。相変わらず味らしい味はしないのだが、何も食べられないよりずっとマシである。
「モッチー、今日は頑張って移動しよう」
「はい。人がいる集落を探すんですよね」
向かう先はこの森を抜けた先。海の反対側にはひときわ大きな山が見えるので、そっちを目指して進む予定だ。
「荷物は少ないほうがいいよね…。この宝箱、置いてくか~」
「それ、何が入ってるんですか?昨日からずっと気になってたんです」
隠したくもあるが、怪しまれたら嫌だしな。
ここは素直に見せるか。
「…これを見ても嫌いにならないでよ?」
「そんなに怖いものが入ってるんですか!?」
若干の保険を掛けた上で開けた。
「…これは?」
「パンツです」
「随分とかわいらしい色とデザインですが…そういう趣味なんですか?」
「ち、違うんだモッチー!自分で選んだわけじゃないんだ!」
必死な弁解のスタートである。
着替えがないと大変だから、焦って【パンツ召喚】とかいうわけ分からんスキルを買った。魔法陣から悪魔が出てきて、わけ分からん取引をした。そしたらこうなったんだ、ということを説明した。
自分で言っておいてなんだが、事実にしては突拍子もないな。それならそういう趣味だと言われたほうがまだ納得できる。
しかしなんとかモッチーは理解してくれた。
「ここを通った人が『宝箱だ!』って言って開けたらパンツだった、なんてこともあり得そうですね」
彼女はそんな冗談も言った。
「せっかくだしパンツ以外も入れておくか」
「なんでそうなるんですか!?」
スペース確保のためにパンツを何枚か抜き取ると、ボクは余っていたペットボトルコーヒー3本を入れた。よし。
要らないものを捨てるのではなく、宝箱の中身にしてしまえばよいのだ。我ながらいい作戦だ。
「ハルちゃん、要らないもの入れてません?」
秒でバレたのであった。であれば仕方ない、彼女も巻き込んで共犯にしよう。
「モッチーもなんか入れちゃいなよ!」
「ええっ、じゃあコスメでも入れときましょうか」
化粧しなくてもバッチリかわいいので、彼女には必要のないモノだろう。
「よし、じゃあ行こうか!」
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前後左右に気を付けながら、森を進むこと二2時間弱。
「意外と生き物に遭遇しませんね」
「たしかに。そういうもんなのかなあ?」
彼女の言う通り、今のところゴブリン、デカガエルのようなモンスター、あるいは動物に出会っていない。
「このまま何も出くわさずに森を抜けられるかもよ?」
「ハルちゃん、そういうのをフラグと言うんですよ。油断大敵です」
フラグかあ。それは確かに縁起が悪い。気を付けようっと。
そう考えながら歩いていたが、やがて前方に何かを発見する。
「モッチー、前にでっかい岩があるよ」
それはそれはでかい岩だった。一戸建ての住宅ぐらいありそう。高さ4メートルぐらいかな?
「ほんとですね。落石でもあったんでしょうか。すぐ近くに山はないですけど」
言われてみれば、なんでこんなでかい岩があるんだろう。眺めていたら、ちょっと動いたような気がした。
「今、動かなかった?」
モッチーは一瞬きょとんとした。
「気のせいじゃないですか?」
「だよねー、やっぱ気のせいだったか」
突然、ゴゴゴゴゴといった地鳴りが聞こえた。揺れはないので、地震とかではない。
岩が、だんだん高くなっていった。ゆっくりと高度を上げていき、やがてそれが岩ではないということが分かった。
四足歩行の生き物だ。岩のようにでかい生き物が、眠りから覚めたのだ。
「おー、でっかい生き物だなあ」
「ですねー。なんの動物でしょう。…あっ、あの岩みたいに硬そうな部分、亀の甲羅じゃないですか?」
「ほんとだ!巨大なリクガメのモンスターだ!」
ここまででかい亀を見るのは初めてだったので、ついつい興奮してしまう。動物園で初めてキリンを見た子供のような気分だ。
しかし、モッチーは重要なことに気づいた。
「襲われたらやばくないですか?」
「…たしかに」
あんなでかい亀に襲われたらひとたまりもないだろう。しかし、体の大きさが違いすぎるし、どうせ気づかれないでしょ。
「でも、大丈夫だと思うよ。ほら見てよモッチー、あの亀、向こう向いてるよ」
「そうですね…ってちょうど今こっちを向きましたよ?」
「いやいや、こっちを向いたところで気にも留めないよ」
「たしかに…って今こっちと目が合いませんでしたか!?」
黒くて大きすぎる瞳がチャーミングだね、なんつって。…本当にこっちを見てる気がする。あれ、これはまずくないか。
「よし、逃げようモッチー!全力撤退!」
すぐさま後ろを振り向いてダッシュした。
「はい、言われなくとも逃げま…ぷぎゅっ!?」
何やらかわいらしい鳴き声が聞こえたと思ったら、モッチーがすっ転んでいた。ギャグ漫画ならズコーッという音がしそうな勢いである。
「えええっ!?モッチー大丈夫!?」
「はひ、だいじょうぶで…は、ハルちゃん後ろ!」
振り向くと巨大亀がこちらに近づいてきていた。動きはとてもスローに見えるが、大きい分歩幅も大きいので侮っちゃいけないだろう。
仕方ない、ボクが囮になって逃げるしか!素早く水鉄砲の銃口、指先を亀の顔面へ向けた。的が大きすぎるのでどうやっても当たりそうだ。適当に発射する。
亀の鼻先あたりに当たった水弾は、わずかに傷をつけただけで弾かれてしまった。だが、注意を惹く分には十分だったようで、亀の標的は完全にボクになった。
「悔しかったらついてこい!」
煽り文句は特に効果はないと思われるが、とにかく全力ダッシュだ。逃げまくって姿をくらまし、そのあとでまた合流しよう。
開けているところではなく、なるべく木が密集しているところに逃げる。時間稼ぎのつもりだが、むこうは巨体で木をなぎ倒して突き進んでくるのでお構いなしだ。
「ひょおお、怖え!」
全力で逃げるが、正直逃げ切れる自信はない。スピードと小回りで勝ったからといって、スタミナで勝っているわけではないのだ。
数分逃げ続けたが、恐怖の鬼ごっこは唐突に終わりを告げる。
目の前に川があった。それも激流である。
「う、うそでしょお…」
退路が断たれ、完全に命運尽きた。終わった。ボクの異世界生活は、2日目にして終了である。
あー、このままペシャンコに踏みつぶされて死ぬんだろうなー。はあ、せめてもう少し長生きしたかったよ。
ドシーン、ドシーンという足音が大地を揺るがす。絶望が奏でる重量感のあるビートだ。ちっとも感動的ではない。
「ごめん、モッチー…」
ボクの心残りはモッチーだけだ。この世界で唯一の友達だ。そんな彼女を置いてけぼりにしてしまう。そのことを思うと、悔しくて涙が出てきた。立っていられないので、力なく座り込む。
目の前に亀の顔が迫りくる。くそっ、間抜けな顔しやがって。あーあ、もうさっさと殺してくれよ。
自分が死ぬ瞬間を見たくないから、目をつぶっていた。死んだら、高橋と同じ天国へ行くんだろうか。もしそうなったら悪くはないけど、やっぱり死ぬのは怖いなあ。脳内にフラッシュバックする、数々の思い出。走馬灯を見ているのなら、せめて幸せなことだけを思い出していたい。
考えることはとっくにやめて、ずっと目を瞑っていた。しばらくの間そうしていたのだが、一向に死の瞬間は訪れなかった。
何が起こったのだろう。恐る恐る目を開けると、あの亀の顔面はなかった。代わりに在ったのは真っ赤な首の切断面と、切り落とされた頭。そして、身の丈よりも大きな大剣を担いだ少年がそこにはいた。
(後書き)
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