11話 恋に恋して乙女よ進め ~異世界修学旅行~
残ったカエル肉を調理して、明日のために取っておく。もう既に辺りは暗くなり、今日はこれ以上活動できない。今は寝て体力を回復し、移動はまた明日だ。
地面が硬くて寝ることが難しいので、葉っぱや草を敷き詰めて寝床とした。濡れている植物も【吸水】を使えば乾かすことができる。
モッチーはと言うと、光魔法でなんとか光源を作り出すことに成功していた。おかげで洞穴の中は明るい。そしてさらに、聖魔法を使い何やら試行錯誤していた。神聖なオーラっぽいのを出しては、消す。出しては消す。
「モッチー、何やってるの?」
「【聖魔法】でバリアを作ろうと思って」
それを聞いて納得した。寝てる最中に襲われないように、結界のようなものを作るということか。実に名案である。
「よくそんなの思いついたね~。上手くいきそう?」
「はい、もう少しできますよ」
彼女はそう言うと、聖魔法を薄い板状に展開し、洞穴の出入り口にバリアを形成した。
「一応作り出せました。どれくらいもつかは分かりませんが…」
せっかく凄いものができたのに、なんだか自信なさげだ。
「凄いよモッチー!流石だよモッチー!」
「そ、そんなに褒めることですか?」
とりあえず褒め倒しておいた。
お互いの能力で助け合う。実に仲間という感じで、なんだかいいなと思った。
他愛もない会話を楽しんでいたが、しばらくしてモッチーが真剣な面持ちになり、「ハルちゃん、実は話さないといけないことがあるんです」と言い出した。
「実は私、嘘をついていたんです」
それについてはなんとなく察していたが、「知ってるよ~ん」などと言っては話の腰を折ってしまいそうなので、黙って頷く。
彼女は少し逡巡したあと、決心したように口を開いた。
「…本当は、16歳じゃなくて22歳なんです。【若返り】というスキルを持っていて、そのスキルの効果で16歳ぐらいまで若返っていたんです。…騙してしまって、本当にごめんなさい」
俺は彼女の衝撃的な告白にしばしポカーンとしていた。しかしこれで納得がいった。彼女の服装やハンドバックなど、16歳にしてはちょっと大人すぎるなと思っていた。
本当は22歳、か。だとしたら一つ重要なことがある。
「モッチー…さんって呼んだほうがよかった?」
俺は18歳男子高校生という、まだ社会にも出ていないガキンチョである。そんなのが年上に敬称もつけられないとなると、かなり生意気なんじゃないか。そこが第一の心配であった。
「気にするとこそこですか!?呼び方は今まで通りでいいですよ。全然気にしないでください」
「だったら、モッチーも敬語使うのやめてね!」
年上から敬語を使われて、自分はタメ口というのはなんともむずがゆい感じがする。
「はい、分かりました…じゃなくて、分かったわ」
たぶん彼女が今まで敬語だったのは、単純にクセというか、使い慣れていたからだろう。
「ていうかモッチー、その見た目で22歳っていうのは違和感あるし、16歳ってことにしてもいいんじゃない?」
もしも年齢をごまかすのに罪悪感があるのだとすれば、その後ろめたさを取り除いてあげたいと思った。
「でも、嘘をずっと言うのも辛いですし…」
その気持ちはすぐ理解できた。実際に彼女は出会って一日も経たないうちにカミングアウトしたわけだし。
あと、また敬語になってる。完全に敬語がしみついているんだろう。まあ、いちいち指摘する必要はないよね。
「うーん、難しく考えなくてもいいんじゃないかな。見た目が16歳で心は22歳。そもそもあんまり変わらないよ。モッチーに比べればコナン君なんてもっとヤバいよ?それでもコナン君が嘘ついてるなんて、誰も思わないわけだし」
「た、確かに。コナン君が嘘つきだと思ったことはない…かも」
そもそも嘘をついていないのなら、罪悪感なんて感じなくていい。我ながら上手く説得できた。満足のドヤ顔である。
それよりも、自分がある事実を棚上げしていることに気づいた。
「モッチー、俺も元々はこんな見た目じゃなかったんだよ。こっちの世界でスキルオーブを取り込んでからこうなっちゃったんだ」
「そうだったんですか?」
俺は、ちょっと待ってねと言いつつ、スマホを取り出して写真のアルバムを見る。ええっと、自分が写っている写真は…あったあった。
「ほら、これ。全然違うでしょ?」
横に並んで、スマホの画面を見せた。
「確かに髪の色も目の色も違いますね。でも、面影というか、顔のパーツは変わらないと思いますよ?女の子っぽさがあります」
「え、マジ?…じゃなくて、とにかく俺もモッチーも同じってこと!せっかく新しい世界に来たんだから、新しい人生を楽しもうよ!」
「そうですよね!楽しまなきゃ損ですよね!」
新しい見た目を手に入れて、気分も入れ替えれば、それはもう別の人生だ。それに加えて、全く新しい世界。【スキル】や魔力があって、何もかもが新鮮だ。
今はまだ人里離れた森の中で大変だけど、きっとこの先の人生には楽しいことがたくさんあると思うんだ。
「そういえばモッチー、【若返り】のスキルを得たってことは、何か目的があったの?若さを保ちたいとか、不老不死になりたいとか」
モッチーは一瞬ドキッとした後、頰を赤らめて躊躇いがちに口を開いた。
「えっと、その、不老不死とかじゃなくって。若い頃に出来なかったことをしたいな〜って」
彼女は話しながら、人差し指どうしをつんつん合わせるような仕草をした。俺は頷いて続きを促す。
「私、高校が女子高だったんです。だから…その…」
彼女はそこで言葉に詰まるが、俺は察した。女子高ってことは、男女共学じゃないということ。つまり…。
「アオハルしたいってこと?」
「そ、そういうことです」
青春+恋愛=アオハル。そう、彼女はそれがしたかったのだ。もう手に入らないと思っていた甘酸っぱい男女の恋と青春の日々を、もしかしたら得られるかもしれない。そんな期待を込めて【若返り】というスキルを手に入れたのだろう。
「モッチー、それは素晴らしいよ!」
「変じゃないでしょうか…」
「そんなことない!!!」
彼女は、夢がもう少しで叶えられるところにいる。そこにどうしようもないロマンを感じる。応援したくなる。俺のテンションが上がるのもまた変じゃないだろう。
___相手はどんな人がいいの?年上?年下?___年上がいいです。頼りがいのある人が___身長は何センチぐらい?___170とか…私より背が高い人がいいです___肉食系?草食系?___…積極的な人、ですかね___てことは、告白されたい?___はい、されてみたいです___………
とにかくもう、質問攻めをした。理想の相手を探してあげたいのもあるが、楽しかったからというのが一番大きい。
「ふふふ、なんだか修学旅行みたいですね」
「ええ、そうかな?」
「ほら、恋バナとかするじゃないですか、ホテルで」
「確かに!」
俺は自分の記憶と照らし合わせた結果、男同士で枕をぶん投げまくってた思い出しか浮かばなかったが、ちょこっと恋バナをした気もする。
「こんなこと言ったら失礼かもですけど、ハルちゃんって、男の子って感じがしないんです。見た目だけじゃなくて、さっき話してたときも、ずっと女の子と喋っているみたいな気持ちでした」
そう言われたのは初めてのことだったが、スキルの影響で性格も女子っぽくなるというのは、あり得なくはなさそうだ。元からそうだったのかもしれないけど。
モッチーはとても可愛い顔をしているんだけど、それに対して男としての劣情みたいなものは湧かなかった。不思議と話しやすかった。
…そっか、俺、女の子と友達みたいに話せるんだ。それに気づけてすっごい嬉しい。
「俺さ。自分のこと俺って呼んでるけど、それは女の子っぽくないでしょ?」
「ええ、そうですね。むしろそれが無かったら、本当に女の子になっちゃいますよ」
「ワタシとかに変えてみようかな?」
「今のままでいいと思いますよ?」
「うん、でもさ、喋ってるときも女の子みたいって言われるの、結構嬉しかったんだ。だから、思い切って変えてみようかなって」
「それなら、ボク、はどうでしょう。男の子と女の子の間って感じで、ぴったりだと思いますよ」
彼女にそう言われて、僕、ボク、ぼくと口の中で唱えて、なんだかとてもしっくり来た。
「よし、今日から俺はボクだ!」
俺はボク、なんて言葉は普段耳にしないだろうから、モッチーを笑わせてしまった。釣られてこっちまで笑顔になる。
出会ったばかりのボクとモッチーは、年齢も性別も違うけど、すぐに親友になれた。
(後書き)
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