10話 焼肉同盟
今から食料を得る方法は、狩猟と採集の二択しかない。生き物を狩って肉を食らうか、植物を探して食べるか。なんともサバイバルであり、現代人にいきなりやれと言われても難しいことである。
さらに、ここは異世界だ。さっきはゴブリンを退けることに成功したが、もっと凶悪なモンスターがいると考えている。だって、「剣と魔法のファンタジー」の言葉が本当なら、ゴブリンなんてスライムと並ぶ序盤のザコモンスター代表であるはずだ。
という訳で食料調達はよっぽど慎重に、かつ手際良くやらなきゃ危ない。俺みたいな素人に出来るだろうか?尻込みしてしまう。
しかしここはあえて、「出来るかどうか考えても無駄」と割り切って行動に移すべきだろう。でなければ、飢えて死ぬのだから。
よし、こういうときは短い言葉でまとめて気合を入れよう。
「モッチー、一狩りいこうぜ!」
「え、モンハンですか?今はそんなことやってる場合じゃないですよ」
流石に分からないだろうと思ったモンスターハンターネタが通じてしまい、不意をつかれた。まさかこんな冷静なツッコミがくるとは。
「食料調達のために探索しようってことだよ!モッチーって実はゲーマーなの?」
しっかりと訂正しつつも、ゲームの話が通じるか確かめたい。
「ネトゲを少し、かじる程度ですね。全然ゲーマーってほどじゃないんですけど」
そう言う彼女だったが、話すときに一瞬だけ目を逸らしたり、髪を触ったりといった動作をしていた。嘘をつくのが下手な人がやる動作である。
あんまりにも分かりやすいので、本当はもっと正直な性格なんだろうなと思った。何か理由があって隠しているんだろうけど。
「とにかく、食べるものがないとお腹空いちゃうから」
「そうですね。私は【小食】のスキルがあるので、あまり食べなくても大丈夫だと思いますが…」
そんな便利そうなスキルあったんだ。
「うーん、でもスキルの効果もまだ試してないんでしょ?どれぐらい食べないで持つか分からないよ」
「た、確かに。【回復魔法】以外のスキルは試してないです」
「何かしら戦いに使えそうなスキルはある?」
「【聖魔法】と【光魔法】を持っています。強そうだなー、と思って選んだんです」
俺の【水鉄砲】よりだいぶ強そうである。回復魔法に、光魔法、聖魔法。RPGなら神官といったところか。
「よし、じゃあそれらの試し打ちも兼ねていこう」
「そうですね、了解です。…ハルちゃん」
彼女は少し思案したあと、微笑みながら名前を呼んだ。
彼女の中で俺の呼び方は「ハルちゃん」になったようだ。かわいらしい呼び名で嬉しい。
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俺が先頭になって周囲の索敵をしつつ、モッチーには後方の警戒を任せる。どこかにいい感じの獲物はいないものか。
「ハルちゃん、あれ見てください」
彼女が指さした先には、ヌメヌメした何かがいた。よく見ると、でっかいカエルである。犬ぐらいのサイズがあるが、草木に上手く擬態している。よくあんなのに気づけたなあ…。
向こうはこちらに気づいてないようである。
「カエルって食べれるの?」
俺は疑問に思ったことを口に出す。
「毒がなければたぶん食べられますよ。以前、カエル肉入りのカレーをチキンカレーだよって騙されて食べたんです」
「そ、それはなんか、残念だったね」
さらっと可哀そうな話をされたが、まあ、食べられるなら問題ない。どうやって仕留めるかが問題である。足が非常に発達しているので、うかつに攻撃したら逃げられそうだ。
「俺が横に回り込むから、3、2、1、の合図で同時に攻撃しよう」
「分かりました、十字砲火ってことですね」
十字砲火という言葉、そんなにスッと出てくるだろうか。ゲーマーな部分が隠しきれていないが、理解が早いのはありがたい。
俺は可能な限り音を立てないように回り込み、モッチーのほうへ3、2、1とハンドサインを出す。
カウントダウンと同時に、右手の小指に力を貯めていた。それをゼロのタイミングで発射する。素早く当たったが、後ろ足に当たっただけで致命傷にはならなかった。
カエルは痛みに反応し飛び上がろうとしたが、足のダメージも手伝い、よろけただけにとどまった。そこに光でできた刃のようなものが遅れて到達し、カエルの胴体を真っ二つに切り裂いた。
予想外の威力に驚くが、それはモッチーも同じだったようだ。
「ナイスだよモッチー、凄いね」
「あ、ありがとうございます。ゴブリンと対峙したときはなぜか使えなかったんですけど」
どうやらゴブリンに対して反撃しようとしていたらしい。なぜ使えなかったのか考えるが、魔法は落ち着いて使わないと繰り出せないとか、そういうことなんだろうか。
やっぱりというか何というか、小指から出血して爪がはがれていたので、回復魔法をかけてもらう。その後二等分されたカエルの体を、それぞれ持って洞穴へ戻る。重いので基本的に引き摺ってたが、血痕が残るのが難点であった。あと、血の臭いもすごい。
「内臓飛び出てるけど、モッチーは大丈夫なの?」
「ええ、臭い以外は大丈夫ですよ。ハルちゃんこそどうなんですか?」
思ったよりもタフな返事が返ってきた。
「俺は正直、ちょっと苦手かも…」
内臓とか普段見ないからな。
「無理しなくてもいいんですよ?」
「いや、無理はしてないよ」
心配させてしまったようである。
「ところで、どうやって調理しますか?」
「…あっ」
やっべー、完全に忘れていた。焼くにしてもなんにしても、火が必要である。しかし火を起こすのは簡単ではないだろう。サバイバルの達人ならばできるのかもしれないが、俺にはそういった知識はない。
鍋などの調理器具もない。もしあれば【給湯】のスキルで茹でたりもできたかもしれないが。
「モッチー、なんか火を起こせるものある?それか熱に耐えれる容器とか」
「…うーん、持ってないですね」
彼女は自身のハンドバッグの中を確認したが、そういった物はなかったようだ。どうしたものか…。
そこであるアイデアが思い浮かんだ。
「ひとつ考えがあるんだ。モッチー、カエルの足をさっきの魔法で切断できる?」
「やってみます」
彼女はカエルの分断された下半身のほうへ近づき、足を光の刃で切り落とした。
俺はその足を持ち上げ、切断面を見る。綺麗にスパッと切れたため、血管などの位置も分かりやすかった。
「ちょっと変な方法だけど、やってみるしかないか」
俺はまず、切断面にある血管に指先を押し当てた。もしかしたら血を【吸水】で吸えるかもと思ったのだが、水以外の割合が高すぎるせいかダメだった。
かわりに、威力を弱めた水鉄砲を発射し、血管に水を通す。
「ハルちゃん、何をやってるんですか?」
「血抜きだよ。まずは洗わないと、食べられないからね」
そしてそれを何回か繰り返すと、今度は血管ではなく筋肉に指を突き立て、さっきよりやや強めに水を注入していく。なるべく肉全体に水が行き渡るように、いろんな箇所から注入した。
そうしていくと、だんだん肉全体の体積が水でかさましされたような見た目になる。
ここからが本番だ。【給湯】スキルの初の出番である。スキルオーブを取り込んだときの感覚によれば、このスキルを使う方法は簡単だ。自分の近くにある水に意識を向けて、力、おそらく魔力を使うだけで、だんだんと温度を上げることができ、保温することもできる。
体内にある水の温度も上げられると思うが、火傷するのが怖いので試す予定はない。熱湯水鉄砲作戦は何かしら解決策が思い浮かぶまではお預けである。
カエルの足肉は、今や水の入った肉袋だ。【給湯】で内側から温度を上げていけば、茹でることができると考えたのである。
【給湯】を発動させ、肉の中にある水を沸騰させていくようにイメージする。
「ハルちゃん、目が光ってますけど…」
え、このスキルって発動すると目が光るのか。
「【給湯】っていうスキルを使ってるんだ。肉の中にある水分を温めてる」
隠す必要はない、それどころか自分の能力については共有したほうがいいと思うので説明した。
しばらくすると、肉全体から湯気のようなものが立ってきた。断面や皮膚もだんだん変色してきている。
「いい匂いがしてきましたね」
「うん、これならうまくいきそう」
待つこと10分ほど。
待っている間、モッチーと雑談していた。自分はホームセンターで2時間を過ごしたが、モッチーはデパートだったらしい。時間は2時間で同じだったが、資金には大きな違いがあった。
「え、70万!?誰からそんなにもらったの?」
「私はご先祖様からもらったので、結構な人数と金額になったんだと思います。ハルちゃんこそ、1万円だと買えるものも少なかったんじゃないですか?」
そうか、ご先祖様か。道理で。しかしなんで俺はご先祖様から支援がなかったんだ?高橋に助けてもらわなければ、一文無しで何も準備できずこっちの世界にきていたかもしれないな。
そんなことを話していた。やがてカエルの足がいい茹で具合になる。
「さて、食べよっか!」
「はい!頂きましょう!」
切り分ける道具がないので、その辺に落ちてる尖った石を使い、無理やり食べやすいサイズに分ける。見かねたモッチーが魔法で切ってくれた。
素手でワイルドに掴み、いざ、実食!
パク、モグモグ。
「ん、思ってたよりも臭みがない…美味しくはないけど」
「でも、味付けすれば美味しくなりそうな気がします…調味料ないですけど」
この世界に来て初めての食事は、なんとも微妙な結果に終わった。それでも栄養を得るために食べる。
俺は…いや、モッチーもきっと心の中でこう誓った。「次こそは美味い飯を食べてやる!」と。
いつの間にか空は夕焼けに染まっていて、今日はお互いに大変だったね、なんてことを自然と話していた。
(後書き)
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