第6話 海中決戦
『我こそは大天使アナトが相棒、ウテナ・ハーゲン!ポークだかルーだか知りませんが、アナトさんと私にかかれば、貴方など一刀両断です!!』
ウテナは、クラ―ケンさんには見えるはずもないのに、コックピット内で大見得を…ポーズをとっていた。左拳を握りしめ、右手は右目を横ピースで覆っている。
そんな非常に香ばしいポーズに、アナトさんは次元エンジンと魔導エンジンの出力バランスを崩しそうになっていらっしゃるようであった。機体がグググと海底に傾いている。
そんな状況など知るわけもないクラ―ケンさんは、興味深げな声色で返答する。
『ほほう…貴様は腹の中に人間を飼っているのか?そんな非力な生き物を飼ってなんとする?』
シリアスコメントをありがとう!…と云うかの如く、アナトは持ち直すと魔導ランチャーを背のラッチへと装着し、大太刀を抜く。
『腹ではありませんよ。私の胸…ハートに私の相棒は居るのです。それに飼っているわけではありません。協力していただいているのです!』
『そうですそうです!!』
距離を置いていたアナトが素早くクラ―ケンの間合いに飛び込み、触手を数本纏めて斬り落とした。しかし、触手程度はダメージにならないらしく、動揺する事無くクラ―ケンは、次々と触手をアナトへと向けて来たのであった。
『くぅ!数が多すぎます!退避!!』
アナトは機体を反り返して後方へと退避すると、そのまま直進する。それを見たクラ―ケンは『逃がさん!!』と追い縋って行こうとしていたのであった。
アナトと海魔クラ―ケンの距離は、付かず離れずと云った感じで、詰まる事も離れる事もなかった。それこそがアナトの狙いである事に、クラ―ケンは気付いていない。
「アナトさん、バミューダ海域をもうすぐで抜けます」
『了解。ウテナさんは魔力…ESP波に注力していてください』
「らじゃー」
次元エンジンが通常稼働に移ると、アナトの背中の羽からは、虹色の泡沫が溢れだしてきていた。魔導エンジンとのツインドライブが始まったのである。そして、大太刀を鞘に収めると、再び魔導ランチャーを手に取る。
『制御は私が、ウテナさんはトリガーを!』
『はい!』
空砲状態の魔導ランチャーに、虹色の光が集束して行く。エネルギー値が上昇し続け、120%を越えようとしていた。もう完全に、バミューダトライアングルを抜けたと云う事であろう。
クラ―ケンの方に機体の前面を向けつつ、後ろ向きの状態でアナトは直進し続けていた。
『補正値0.3、集束率150%』
『行きます!!』
ウテナは言葉を発すると共に、トリガーを引く。
ズバー――ッ
虹色の閃光が、妖魔クラ―ケン目掛けて海中を突き進む。咄嗟の事にクラ―ケンは回避行動を諦め、触手を盾にしようとしていた。
しかし―
『な、なんだと!?触手が次々と!うわぁ!と、溶ける!!!』
草でも刈るように触手は次々と霧散し、クラ―ケン本体に虹色の光が直撃する。クラゲのようなゲル状の体はそれに耐えきれないらしく、魔導ランチャーの砲撃がクラ―ケンの体を蒸発させる。
『わ、我はルークぞ!?海魔クラ―ケンな…○×△――』
最後の方は、既に言葉にすらなっていなかった。魔導ランチャーは無慈悲に、海魔クラ―ケンの全てを焼き払ったのである。そして海中には、虹色の泡沫が全てを包み隠すように漂っていった。
「威張っていた割にあっさりでしたね?」
『そうですね。ポーンとルークではクラ―ケンがたまたま話せただけで、体長くらいしか変わりがないのかもしれませんね。』
そう二人は会話しながら、ゆっくりと海上へと浮上する。海底の方向には、未だに虹色の泡沫が揺らめいていた。ウテナはそれを、綺麗だなと眺めていた。
浮上し、空中に飛び上がると、アナトはNinja400を回収すべく、デラウェア州の方向へと進路をとる。ウテナはそれまで興奮していた為に気付いていなかったが、ESP波の使い過ぎでバテているようだった。
「試しに飲んでみますね…」
元気なくマナドリンクの封を切り、ウテナは口をつける。
『え!?あ!そんな躊躇なく!?』
銭湯のコーヒー牛乳よろしく!グイっと一気飲みである。ぷっはー!と云う声を挙げ、ウテナの表情に活気が甦る。
「効いた!効きましたよこれ!しかも一瞬なんですね?」
『え、ええ。ただ蓄積されてくると効き目が落ちますので、あまり頼り過ぎてはいけませんよ?』
自身の世界のウテナが、よくがぶ飲みしていた事を思い出してアナトは注意している。同じ存在であるならば遣りかねないと。
『それに本数も限られているので、なるべく自然治癒を心掛けてください』
恐らく冷蔵庫に入っていた本数は3カートンだったとアナトは記憶している。残りが29本…不安である。乗っているのがあの方に瓜二つなだけに。
『ウテナ様だけで良かった…サクヤ様まで居たらどうなっているやら…』
「サクヤ?何故アナトさんは私の姉の名を知っているのです?」
アナトは沈黙する。まさかこちらにも居るとは思っていなかったようである。
「まあ、姉と云っても同じ日に生まれた異母姉妹なんですけれどね。日本の月詠とか言う名家のお嬢様なんですよ」
『日本!?日本にいらっしゃるのですか?しかもツクヨミ家ですか!?』
アナトの急な大音量の音声に、ウテナが驚いてマナドリンクの瓶を床に取り落している。
「え、ええ。どうしたのですか?」
『日本…そこは私の主の、故郷なのです…』
ウテナは、アナトの寂しげでありながら、何処か嬉しそうな音声に頬を緩ませ、慈しみの笑顔をモニターに向けた。
「アメリカが終わったら、日本に行きましょう!私も姉とは随分会っていませんしね」
『はい!ウテナ様』
「あ!また様付!!言いだしっぺはそっちなのに!」
『あ、あら…ついつい…』
二人の楽しそうな会話が海洋に響く。海鳥たちが首を傾げて、それを見送っているようだった。
邪神軍の力関係ですが
キング(邪神)>クイーン>ビショップまでは順当で
>ナイト≒ルーク≒ポーン
と、云った感じで考えています。
決してイコールではなく、それぞれのランクで何らかの能力的な違いがあり
ポーンの中にもナイトを凌駕する者がいると仮定しておきます。




