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機鋼甲冑アナト A.D 2030  作者: 三ツ蔵 祥
遊撃部隊”MSX”始動編
22/49

第21話 カルタヘナの攻防(前編)

 カルタヘナにはネットを見たり、噂を聞きつけたりした人々が日々続々と集まって来ていた。太田とメルティの部隊は、この人々の保護の為に忙殺されていた。医療班は患者の為に、設営班は簡易式のトイレやテントの設営に走り回っていた。戦車隊もその手助けと町の防衛に奔走する。


 一方陸上部隊のヘリと、航空隊の戦闘機、そしてアナトは周辺の哨戒を繰り返しつつ、随時接近するヒュージアントを退治していたのだった。




「要請した応援はいつ頃到着しそうなんですか?」


 パスタを口元に垂らしながら、ウテナがエクステリナに問う。


「おカジさんの話しでは、あと2週間は掛かりそうね」


 空母の甲板で、二人はアナトに寄り添いながら食事を摂っている。もう既に日は暮れ、夜の闇が迫って来ていた。


「2週間ですか。はぁ…補給物資が保たなくなるんじゃないですか?」


「まあ、海もあるし、人々にもまだ活気があるから、何とかなるんじゃないかしら?意外に逞しく商売してる人もいるしね」


「軍人さんの割にエクステリナって楽観的なんですね」


 ウテナ同様にパスタを口にしていたエクステリナのフォークが止まる。何事か考えているようだ。


「…これって、貴女の影響だと思うんだけど?」


「はあ!?」


 ボソっと呟いたエクステリナの一言を、ウテナは聞き逃さずに大声をあげる。そして非難の視線を送るのだが、エクステリナはそれから逃れるように視線を町に向けていた。


『まあ、良くも悪くもウテナの影響力は大きいでしょうね』


 頭の上から響く声に、ウテナは今度はそちらを睨む。声の主は勿論アナトである。アナトはキュイーと音を立てて、やはり町の方に首を向けていた。その仕草の人間臭さに、思わずアナトを睨んでいたはずのウテナが「くそー…可愛い奴め」と、にやけている。


 そうしてウテナも二人同様に街に目を向けると、遠くに花火のような閃光を見つけた。


「あれは、なに?」


「ウテナ、戦闘服に着替えて。どうやら戦車隊と戦闘機隊だけでは足止めも厳しかったみたい」


『そのようですね。今しがたジード殿から通信が来ました。援護要請です』


 アナトの手の平に二人は素早く飛び乗ると、コックピットへと滑り込み、内部に置いておいた戦闘服に私服の上から袖を通した。

 アナトは二人の着替えが終わるのを見計らって、一気に空中へと飛翔する。グラビティーシールドの作用でGはない。ほんの少しの浮遊感があるだけだ。


「数は?」

「現状6ね。アナト、被害の方は?」


『戦車は10式が1両大破、戦闘機は各機とも健在ではありますが弾薬切れで帰投するようです。歩兵隊も10式の乗員を救出しながら後退するところです』


 見ればラドクリフは後退の指揮を執りながらも、指揮車から機銃を撃っている。アナト到着までの時間稼ぎであろう。目や触覚などを狙ってヒュージアントをやり過ごしていた。


「まずはラドクリフ大尉の援護を。ウテナ、私が行くわね」


「はいな。任せましたよ」


 二人の遣り取りが終わる前に、既に背中の羽は分解し、宙を舞っている。それぞれがランチャーに接続され、ロングレンジライフルの形を成していく。そして宙を舞ったライフルは、フワリとアナトの手に納まったのであった。


 狙いは頭部、エクステリナの目の前に幾つもの三角形のゲージが表示される。それらの中心点が一つの場所を示す時を待って、エクステリナは画面を凝視する。


 やがてそれらが一点を示した時に、エクステリナはトリガーに掛けられた指に力とESPを籠めていた。


波動衝撃砲(バスターランチャー)!発射!!」


 エクステリナの発した言葉と共に、銃口からは虹色の光弾が撃ち出される。そしてその光弾は、眩い光を発しながらラドクリフの目の前のヒュージアントの頭部を貫通し、更にその後方に居た別のヒュージアントをも撃ち抜いたのであった。


「纏めて2匹を撃ち抜きました。ウテナ、あとは貴女にお願いするわ」


「OK!シフトチェンジ!」

『了解。中距離及び接近戦モードに移行します』


 ライフルが再び宙を舞い、羽がライフルから分解されると、アナトの翼へと収まって行く。そしてその中心にあった魔導ランチャーも宙を舞い、アナトの背中へと収まると、アナトは急速降下をしながら、両手にはヒートダガーを握りしめるのであった。




「雷鳴閃!」




 ウテナの掛け声に呼応して、ヒートダガーが光を帯び、その刃先からは放電現象が発生していた。バリリリと云う音を発しながらまずは1匹を2振りで殲滅すると、次の敵へと2刀を同時に振りかぶる。


 バリリリ


 放電するダガーがヒュージアントを斬り裂くと、残りの2匹が後ずさるように後退を始めていた。



「逃がしません!行け!苦無達よ!!」



 手に持つ苦無を投げつけると同時に、アナトの腿の部分にある収納庫から、更に4つの苦無が空を走った。それらは意思を持つかのようにジグザグに飛行し、ヒュージアントの急所を的確に捉えて突き刺さっていった。


『この場の妖魔は全て壊滅したようです』


 塵となっていくヒュージアントを眺めるような姿勢で、アナトが告げるが、レーダーには新たな敵影が表示される。


『まだ来るのですか!?』


 アナトはその方向に向き直りながら呻いた。レーダーの反応を見ていたエクステリナは眉を寄せている。


「今までと移動速度が段違いよ。ひょっとしたらこれって…羽蟻!?」


 アナトが空を見上げると、3匹の羽蟻がヴヴヴヴヴと羽音をさせながら接近して来ているのが目に入る。


「大きさも今までの1.5倍くらい?とうとう働き蟻以外が動き出したみたいですよ。エクステリナ」


 冷や汗を垂らすエクステリナに対して、ウテナは意外にも冷静であった。口元には笑みさえ見える。そしてゆっくりと足元のペダルに力を入れる。その動きに呼応して、アナトも腕組みの姿勢でゆっくりと空中に浮きあがった。


 その周囲では、苦無達も迫る羽蟻達を睨み付けるように刃先をその方向へ向けつつ、ゆっくりと旋回していた。


「さて、第2ラウンドです。アナト、エクステリナ、行くよ!!」


 苦無達が1匹の羽蟻に狙いを定めて突進すると同時に、アナトは残りの2匹に狙いを定め、腰の大太刀を引き抜き、早々に虹色の泡沫を全身から発していた。ツインドライブである。


 そして通りすがりに1匹を袈裟切りにする。ズオオオオと云う衝撃音のあと、袈裟切りにされた羽蟻の胴が真っ二つに引き裂かれ、黒い塵になると、そのままアナトは残りの1匹に向き直る。


 その時には既に、苦無が殺到していた羽蟻も撃墜されたようで、苦無達がその羽蟻を取り囲むように包囲していた。


『さあ、貴方も塵となりなさい。雷鳴閃!!』


 羽蟻の四方から苦無が殺到するのと、アナトが大太刀を振るうのはほぼ同時に行われた。八つ裂きにされながら、羽蟻が断末魔の叫び声をあげる。



 ギシャアアアァアア



 黒い塵が空を舞う。


 アナトは大太刀を1振りすると、空母へと帰還する為に向きを変える。しかし、その後方からは更なる羽音が響き渡って来ていた。レーダーを見るエクステリナが息を呑む。


「…更に増援。数は…100」


「え!?100?」


 戦慄するアナト達の目の前に、それはやがて黒いカーテンのような光景を見せた。そしてヴヴヴヴヴと云う羽音が、周囲を埋め尽くしていったのであった。

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