第19話 MSX
カナダのファイヤーバードを倒した一行は、メキシコを抜け南アメリカへと向かう。北アメリカについては、ファイヤーバードで最後のようだった。
「ファイヤーバードが増殖タイプだったので、あれだけでカナダを壊滅させるつもりだったのでしょうね」
エクステリナの推測に、アナトもウテナも同意する。
倒しても倒しても短期間で増殖する妖魔なんて、冗談ではない!と云う思いもあるようだった。
『ただ…その点で云うと、次の目的地の相手も…』
「「はあ…」」
一行は溜息を吐く。
メキシコを抜けた先、アマゾン川流域を中心に暴れている妖魔は…10m前後の体高に、30m前後の全長の…蟻の妖魔であるとの報告がSDFから届いていた。
1匹なら大した事はないであろうが…その数は日増しに増え、アマゾン川を埋め尽くすのではないか?と云う勢いであるらしい。
この報告が大袈裟な比喩であって欲しいと、3人は願っていた。
「埋め尽くすは大袈裟ではあったけど…」
『比喩としては、合ってます…』
「いくらなんでもこの数は無理があり過ぎます!SDFに支援を求めるべきです」
予想はしていたが3人は唖然とする。木々の隙間から確認がとれているものだけではあるが、百体には届かずとも、何十体もの巨大な蟻が、アマゾン周辺を蹂躙していた。
一つの村や町に3~5匹が群がり、貪っている。少なくとも流域の部落には既に人影はなく、家なども既に破壊され、ただの荒れ地となっていた。
しかし、それらは人類の文明を破壊する事のみに集約されているようで、森林は多少踏み荒らした跡はあれども、それ以上の破壊行為には及んでいないようであった。これらを観測後、SDFに連絡を入れ、彼女らは一旦ハワイのオアフ島、ヒッカム基地へと帰投したのだった。
アナト専用ドックに入り、アナトを収容してもらうと、その前方…アナトの顔の高さに、『遊撃隊専用ブリーフィングルーム』なるものが増設されていて、ウテナとエクステリナはそこに通される。そして40畳ほどの広さのその部屋には、既に久能海上幕僚長が待ち受けていた。
「北米の解放、ご苦労様です。二人には食事を、アナト殿にはオイルマッサージの準備をさせてあります」
『有難うございます。非常に助かります』
ブリーフィングルームに入り正面を向くとガラス張りになっており、そこにはアナトの顔が割と近くに見えるようになっていた。また、部屋の会話もアナトの通信装置に直接送信されているようで、会話もスムーズに行えるようである。
そうして会話が成されている間に、アナトの身体はラッピングされていっていた。そしてその作業が終わるとラッピングに油が流し込まれていく。それらは排出口から出て来ると濾過循環器を通って、再びアナトへと送られているようだった。
「マッサージと云うか、お風呂?サウナ?」
「ですね。相当気持ちいいのでしょうね。目が点滅してます」
エクステリナの云うとおり、アナトのアイカメラが不規則にゆっくりと点滅し、表情のないはずのアナトが寛いでいる様子がわかる。表情があるならば、きっとだらしない顔をしていそうだなと、ウテナはニヤニヤと眺めていた。
「さて、落ち着いたところで3人に紹介したい部隊があります。お二人は席で食事をしたままで構いません」
久能はそう言うと、副官に目配せをする。すると副官は扉を開け、部屋の外の者に声を掛けると、外から足早に走る音が聞こえた。どうやら別室で控えているその部隊を呼びに向かっているようだ。数分後には廊下からザワザワと声が聞こえ出し、副官が再び扉を開け「入れ」と命令をすると、30人ほどの猛者達が入室して来たのだった。
「ここに呼び出した者達は、貴女方を支援する部隊となります。謂わば『遊撃支援部隊』と云ったところです」
久能が告げると、黒髪長身の青年が前に出て自己紹介を始める。
「私はこの部隊で戦闘機隊を預かるジード・ガンプ大尉です。エクステリナ大尉、久しぶりですね」
「ジード大尉!?生きておられたのですね!」
エクステリナの顔が綻び、その目には涙を溜めている。
「ええ、ヒッカムに転属されていたおかげで難を逃れられました。貴女も元気そうで嬉しく思っていますよ」
「二人は沖縄での知り合いと聞いてね。本来はこの基地の防空部隊なのだが、こちらの部隊に引っ張って来た」
久能の計らいに、エクステリナは涙を流しながら頭を下げる。その横のウテナも、嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。
「盛り上がっているところを悪いが、俺は戦車隊のラドクリフ・ソーン大尉だ。よろしく頼む」
そうして口を挟んだラドクリフは、とても大柄でムキムキの筋肉質で、ちょっと無骨な感じの男であった。
「私は輸送隊のメルティ・ラース中尉です!お二方、それにアナト様のサポートは任せてください!」
元気の良い挨拶をするメルティに、ウテナもエクステリナも微笑む。小柄で愛嬌のある感じの彼女に好感を覚えたようだった。
「同じく輸送隊の太田梶大尉です。SDFと隊との間を取り持つ役目も担っております。」
「太田大尉は米軍なのですか?」
階級がSDFとは違う形式であったので、ウテナが問うと、太田大尉は微笑みながら首を振る。
「いえ、私の所属はSDFです。元米軍の多いこの隊に馴染みやすいように、米軍階級となっております。」
長い黒髪の印象的な、そのアジアンビューティーの微笑みに、ウテナは息を呑んだ。プロポーションといい、所作といい、全てに於いて負けたような気がして少し悔しそうでもある。
「彼女は私の婚約者でもある。仲良くやって欲しい」
頬を掻きながら久能幕僚長が告げると、ウテナはどこか納得したような表情をしている。「説得感がありますね」と口からは漏れていた。
「彼女が言ったように、この隊は統一感を持たせる為に階級の呼称は米軍式になっています。以後ウテナ特別2等海尉も、特別中尉と云う呼称で呼ばせて頂く」
「らじゃりました!」
久能の言葉にウテナは元気よく敬礼で返した。思わず久能幕僚長も笑みを漏らす。
この後、各隊の末端の隊員達も挨拶を済ませ、アナトを中心とした国連軍特別遊撃隊Mobile forces Special Cross…『MSX』の発足が久能から告げられる。その任務内容は、機械天使アナトと共に戦い、妖魔の殲滅にあたる事である。
「君等に与えられた権限は、国連軍に対しての支援要請。現地に於ける徴発行為等も許可されている。その際の任官にあたっては、私に報告していただければ助かる。」
「要は…自由にやってくれ!と、云う事ですね」
「ウテナ!言い方!!」
久能を始めとした。職員全員が苦笑いをしていたが、ウテナに気にする素振りはない。横で頭を抱えるエクステリナの肩を、ジードがポンポンと軽く叩くと、エクステリナも苦笑いを浮かべながら頭を上げた。
「それじゃあ!MSXの皆さん!バンバン妖魔を倒して、世界に平和をもたらしちゃいましょう!」
ウテナの掛け声に、全員が引き攣った笑顔を漏らしつつも高く腕を掲げる。
「「「おう!!!」」」
部隊名Mobile forces Special Cross
って
ただ単に『MSX』と云う部隊名を付けたかっただけで
適当に宛てたものです。
一応Mobile forcesは遊撃隊
Special 特別
cross 交わるとか、十字架とか色々含みを持たせてます。
纏めると
混成特別遊撃隊
と言う意味で捉えてください。
単語を並べただけなので、ツッコミどころ満載ですがw
MSX…これ、昔のPCがまだマイコンと呼ばれていた頃に生まれた、とあるコンピューター規格の名前です。
アスキーがマイクロソフトに持ち込んで、統一規格で安価のPCを作り出そうとしたアレです。
結局、時代の流れで消えて行きましたが
理念的にはWindowsの中に、今でも生きていると私は思っています。




