第17話 月詠財閥
アナト達が旅立った翌日、日本からのチャーター便がヒッカム基地に到着する。その飛行機から降りてきたのは、防衛大臣と銀髪の…ウテナと良く似た女性であった。
「お待ちしておりました。歓迎いたします」
久能海将補は笑顔で敬礼し一行を案内する。
「妹の件、有難うございます海将補。あの跳ねっ返りには2等特別海尉と云う階級は、充分に枷になる筈ですわ」
サングラスを外しながら礼を言う彼女は―
「この度の月詠財閥の協力、誠に感謝致します。月詠咲耶様」
大臣までも頭を下げる彼女こそが、ウテナの姉であり日本を影から支える財閥の現当主、月詠咲耶であった。その容姿は瓜二つでありながら、漂わせる空気はまるで別世界の人物であった。
「今回はうちの研究員も連れて来ています。海将補のお役に立てればと思います」
アナトから齎されたオーバーテクノロジーは、日本本土でも急ピッチで解析されているのだが、その前線に立つ科学者を、サクヤはヒッカム基地に同道させたのだった。
「こちらは敷島博士と橘博士です。こき使って差し上げてください」
「お嬢、それは酷い言い草じゃのう。少しは年寄りを敬って欲しいもんじゃ」
痩せ細った風体の博士…敷島は禿げ上がった頭をボリボリと掻きながらサクヤを批難するが、このお嬢様は全く動じた様子もない。寧ろ厄介払いが出来たとでも言わんかのようだ。
「博士、お嬢様に何を言っても無駄ですよ。それよりも早く整備ドックが見てみたいと思いませんか?」
「うむ、一理あるな。よし、早速向かうか橘君!」
40代半ばくらいと思われる少し小太りの男性…橘は、溜息を吐きつつも、場所も知らないのに駆けて行ってしまった敷島の後を追った。
「博士!何処へ行くのですか?海将補の案内なしでは道に迷いますよ!」
「と、まあ、あんな感じの二人ですが、技術の最先端を行く逸材です。お好きに使ってください」
冷めた表情でサクヤは、駆けて行く科学者二人を手の平で指し示す。大臣と久能海将補は、この光景を苦笑するにとどめたのだった。
博士二人には案内係を付けて整備ドックに向かわせ、一行は会議室にてお茶をしながら現在の進渉状況と、今後の対策などを話しあう事となる。
「オリハルコンに関しては、オリハルコニウムなる鉱石に似た組成の物を幾つか吟味して、ニアオリハルコンとでも云うべき物が出来そうです。ただこの精霊コンピュータですが、これの再現は難しそうですわ。地球にはマナと云う物質が少ない為に、データの中にあった召喚プログラムを用いても、アナト様のような上位の精霊は召喚出来ていません」
タブレットを片手に説明するサクヤであるが、伊達であろう、目許では眼鏡を光らせている。その彼女の後ろには、それらのデータや映像が映し出されていた。
「しかしです。下位バージョンとはなりますが、この精霊コンピュータと云う物のおかげで随分と恩恵が齎されました。ある程度性能の低いPCでも、この人工知能に似た存在のおかげで、高性能なコンピューターをも凌駕できるのです。実際、実験に使われたPCは現在、ラボに於いて重要なデータ管理などで活躍してくれています」
防衛大臣と久能海将補は、熱心に資料を見つつ映像を眺めている。
「そしてこれが、精霊コンピュータ搭載によって遂に再現可能となった戦闘用ロボットのデータです」
そこに映し出されていたのは、SDF技術部が長年夢見て来た全長18mの戦闘用ロボットが動く姿であった。何とは云うまい。あれである。
「尤もこれは進行中だったプロジェクトに、アナト様から頂いたデータを上書きしただけのような物なので、戦闘には向きません」
「しかし充分に考証材料にはなりますな」
防衛大臣がほくそ笑む。
「ええ、機械天使様ほどの力は持てずとも、今回の整備記録を合わせれば、アナト様曰く『邪神の尖兵共』と戦える戦力を身に付けられそうですわ」
この後、魔導ランチャーのデータを流用したレールガンや、魔導炉の構造をヒントに設計された縮退炉などの進渉状況が述べられた。久能海将補はこれらのデータを、ただただ驚愕したかのように見つめていた。
「まあ、そういうわけでな。君の活躍のおかげで技術革新が起きようとしているのだ。それを称えて政府としては、君に2階級特進を決めたわけだ」
「はあ!?2階級特進ですか!!?」
話の最後に大臣から話しを振られた久能は、更に驚き、目を見開いていた。2階級特進…それによって久能の階級は、海将補から海上幕僚長となる。そう、海上自衛隊最高幹部の仲間入りとなったわけである。
「異世界のデータだけではない。秘密裏に行ってもらった崩壊したペンタゴン内のデータの回収、アメリカ本土に眠っていた核兵器の封印作業、米軍最新兵器の接収作業。これらだけでも十分に特進に値するだろう」
「ええ、我が月詠財閥としても久能海将補…いえ、幕僚長を買っています。今後もよろしくお願い致しますわ」
スッと席を立ちながら大臣とサクヤが微笑む。その眼前には腰を抜かしたかのような久能佑輔の姿があった。
「ところで…佑哉さんの行方について、何かわかったようですわね」
佑輔は更に驚く、自身の失踪した弟の事をサクヤが知っているかのような素振りであったからであった。
「え、ええ。弟はあの機械天使様を異世界にて生み出したそうです。その世界の王となって…」
「そう…なのですか…帰ってこられたわけではないのですね…」
不躾ではあると思ったが、暗い顔をするサクヤに、佑輔は尋ねる。
「…弟とお知り合いだったのですか?」
サクヤは何処か遠くを見るような表情で答える。
「ええ、まあ…学生時代の憧れの君でした…あちらはあまり私の事を知らないようでしたが…下校時などにその後ろ姿を追ったものです。よくお友達方とファミレスに寄ったり、ゲームセンターに行かれたりしてらっしゃいましたわ。ある時にはお一人で公園に行かれて、捨て犬を可哀想にと愛でてらっしゃいました。勿論その子は私が回収して、立派に育てましたわ!」
大臣は目を閉じて頷いて聞いていたが、冷静に佑輔は考え、思った。
『それって…ストーカーって云うんじゃね?』と。
今のところはサクヤをアナトに乗せる気はありません。
財閥総帥として活躍してもらうつもりです。
うん。つもりなんです。
でも気が変わって1回くらいは操縦させるかもしれません。
※雑記
いつの間にやら新たに評価をしてくれた方がいらっしゃったようで
ありがとうございます。
正直に入れて頂けて有り難く思います。
さて、現状次の章を書き始めているのですが、手が進みません。
あれもしたいこれもしたいと思いながらも
そこへキャラクター達を導くためのストーリーが浮かんできませぬ。。。
仕事に流されすぎているなぁと自覚しておりますが
どうにもこうにも手が動いてくれません。
…一息つけたら旅行にでも行こう。。。
頭の中をリセットせねば!!