第14話 ファイヤーバード
カナダにあるコロンビア山に、身体に火を伴なう巨鳥が巣を作っていた。その巨鳥は初めに観測された際にはたった1羽であったはずだった。だが数日のうちに5つの卵が観測され、それはまた数日後には雛となり、1週間もたった頃には大空に羽ばたいた。
そして6羽の火の鳥によって、カナダ西部及びアメリカ北西部は、火の海となったのであった。
人々はこの巨大な火の鳥を、ファイヤーバードと呼んだ。
「1羽目発見!ヒートダガー、セットオン!!」
アナトは両手に苦無を握りしめ、虹色の泡沫を後に残しながらファイヤーバード目掛けて飛翔する。レバーを握るウテナの手にも力が籠る。
エクステリナは二人が戦闘に集中している間、ひたすら各種センサーとレーダーに意識を集中している。他の個体が接近して来る可能性があるためだった。
「水遁の術!」
ウテナは覚醒してから絶好調のようであった。アナトも操縦をほぼウテナに預け、不意の攻撃の際の防御にだけ意識を集中しているようである。
アナトのクロスする苦無から、大量の水が吹き出しファイヤーバードに襲い掛かると、身体の火の勢いが弱まるのと比例してかファイヤーバードの飛行速度が落ちていく。
『各種能力も落ちているようです。増援が来る前に一気に畳み掛けましょう』
「承知!」
そう告げるやウテナが気を高め、アナトが天に苦無を掲げると雷鳴が迸った。そしてその雷を身に纏い特攻する。
「往生してください!雷鳴閃!!」
どうやら雷を纏った一閃に、自身で名前を付けたらしい。イカデビル同様にその一撃を喰らったファイヤーバードが四散する。
「少尉!油断しないで!後方よりもう1羽来たわよ!!」
ふー、とウテナが溜息を吐いた矢先だった。
エクステリナの警告に即座にアナトを回頭させるが、尋常ではない速度で迫って来たそれに、思い切り体当たりを喰らってしまい、アナトは地上へと墜落する。
ズドドドド
後ろ向きの状態で地表に勢いよく墜落し、アナトは木々を薙ぎ倒しながら転げる。不意の攻撃によってアナトのグラビティー・シールドの発生が遅れ、ウテナとエクステリナは急激なGに呻いていた。
「くう!アナト、大丈夫!?」
『今の地表への衝突の際に受け身をとり損ねました。左腕の関節のギアが幾つか飛んだようですが、まだいけます』
「腕部アクチュエーターも損傷しているわ。片手苦無での戦闘は不利よ。少尉、大太刀に切り替えて!」
「わかりました!」
左腕をダラリと垂らしたまま、アナトは苦無から太刀へと持ち替えるが、左手の苦無は握られたままだった。肩関節のアクチュエーターは生きているのだが、肘から下が機能停止していたのだった。
空中で制止したままで、アナトは静かに太刀を構える。その間に2匹目のファイヤーバードは大きく旋回し、2度目の特攻を試みようとしていた。
「アナト、光の加護を太刀に!」
『判りました。精霊力を強化します』
アナトが精霊としての力を強めると、大太刀は眩い色を放って輝き始めた。ウテナはアナトに加護を頼みながら九字を切る。そうしている間にもファイヤーバードは接近しつつあった。
そしてアナトとファイヤーバードが衝突するかと云う至近距離になった時に、ようやくウテナはレバーを操作する。
「光刃剣!!」
眩く光る太刀を右腕一本ですれ違い様に振り抜くと、ファイヤーバードの腹部から赤い飛沫が飛び散る。しかし、ファイヤーバードは再び旋回を始めて、向きを変えようとしていた。
『損ねましたか!』
「いえ、ここからです!行け!苦無達よ!!」
ウテナがそう叫ぶと、装備されている苦無の幾つかが腿から射出されると、意思を持っているかのようにファイヤーバード目掛けて飛び交った。その間、ウテナは目を閉じて精神を集中しているようであった。
「先程の九字切りはこの為ですか!?」
縦横無尽に飛び交う苦無を眺めながら、エクステリナが驚く。
アナトに内蔵されている魔力増幅機の力を使って、テレキネシス能力を増幅して苦無を操っているようである。九字切りはその為の精神集中のためだったのだろうと、エクステリナは推測する。
「姉の実家はさる武家の流れを汲んでいまして、遊びに行くとよくあちらのお爺様が護身用にと色々教えてくれたんです」
武家?それって忍者の間違いじゃないの?と云うツッコミを、エクステリナは飲み込む。
『ふむ、あちらのウテナ様はニンジャマスターでした。これは同位体シンクロだけではなく、元々素養があったと見ていいようですね』
3人の会話の間にも、苦無は次々とファイヤーバードに襲い掛かり、その内の1本がその脳天に突き刺さると、ファイヤーバードはケーンと断末魔の声をあげながら地上へと落ちて行った。
「あと4羽ですか」
『ええ、しかしどこかで修理をしなくては…』
「待って、また新たな反応が急速接近よ!今度は2羽よ!!」
「休む暇くらい欲しいです!」
ウテナは呻きながら、苦無達を新たな敵の方向へと飛ばす。その額には幾つかの汗が流れ落ちている。そして無言でマナドリンクに手を伸ばしていた。
ザクザクザク
確実に1羽は仕留めた感覚がウテナにはあった。しかし、もう1羽は華麗に苦無の攻撃を避けながら飛翔していた。
「他の個体より動きがいいみたいね。少尉、動いて揺さぶった方がいいのでは?」
「らじゃ。アナト、行きますよ!」
『了解。ただ左腕が動かない分、旋回性能が下がっているので気を付けてください』
某リアル系作品で言うAMBACK制御の事である。四肢を使って旋回機動を速めるというものであるが、四肢があり翼までもあるアナトには勿論可能であり、実際使っている。
苦無がファイヤーバードを追い駆け、その先へとアナトが回り込む。コックピット内にいる二人は、天と地がグルグルと目まぐるしく入れ替わる様を眺めながらも、ファイヤーバードを目で追い駆けていた。
「追いつきましたよ!」
ウテナはそう叫ぶと、アナトの大太刀に念を送る。すると刃に電撃のスパークが迸った。
「雷鳴閃!!」
アナトがウテナの声に応えて一閃すると、ファイヤーバードがギシャー!と呻く。そこへ次々と苦無が降り注ぎ、4匹目のファイヤーバードは絶命したようだった。
はい。
説明するまでもなくあれは…
「行け!ファン○ル達!」です。
リンドバウム本編で軽く触れていますが
再現可能ですw