第12話 真なる力
2足歩行するコヨーテの妖魔に、アナトは隙を見せる事もなくゆっくりと歩み寄る。まるでその光景は神聖なる決闘…もしくは御前試合と云った空気感だった。
「敵エネルギー値増大。攻撃力、防御力共に今までの1,3倍以上と表示されているわ」
「わあ、本気を出されてるようですね?アナト、大丈夫なんですか?」
『概算では魔王クラスと7大幹部クラスの間くらいと思っていま…あ、二人にはわかりませんね。嘗ての戦いの強敵と同レベルと言い換えましょう』
どの戦いに於いても、アナトは単機ではなく味方機随伴での勝利の経験しかない。しかし、勝てると踏んでいる。
何しろその頃のアナトは魔導エンジンのみであったが、今は違う。次元エンジンも組み込まれ、ツインドライブ時の能力値は以前のアナトとは比べ物にならないものであるのだから。
そして魔力の安定供給も、エクステリナを乗せた事によって適っている。
『お二人の力があれば、今の私に断てぬ者はありません』
凛とした音声がコックピット内に響いた。ウテナとエクステリナの表情にも、安堵の色が窺える。
フィイイィイイイ
ツインドライブが始まり、次元エンジンと魔導エンジンのフルドライブする音が、西部の荒野に鳴り響く。
『いざ尋常に…』
『『勝負!!!』』
それまでゆっくりと動いていた空気が、急に緊迫感を持った色を見せ、デスイーターとアナトが互いに剣を向ける。その巨体とは見合わない速度の一閃をデスイーターが振るうと、アナトはそれを受け流しデスイーターの後ろへと回り込もうとする。
しかし、想定よりもデスイーターの身のこなしが軽く、受け流すだけに止まった。
「なんですかこいつ!?大きいうえに動きも早いじゃないですか?」
「ええ、しかも少尉、御覧なさい。受け流した先の地面が、衝撃でちょっとしたクレーターになっています」
「うわ!?何これ?」
決して大きくはないクレーター…しかしコックピットの二人には充分衝撃的に見えたようだった。…アナトがあれを軽く受け流していたと云う事実を含めて―。
『お二人共、ここからは本来私が使えるスキルを使って動き回ります。目を回さないようにしてください』
了解!と二人が言い終える前にアナトは翼を展開し、縦横無尽に動き始めていた。そして時折、瞬間移動と見紛うほどの速度を見せる。
高速機動スキル『瞬絶』と『瞬光』を交互に使い分けているようだった。そしてデスイーターに接近する度にガキン!ガキン!と云う凄まじい金属音が鳴り響いていた。
気付けばデスイーターの体中が傷だらけとなり、そのワーウルフのような妖魔は痛みに呻いていたのだった。
「す、すごい!私一人の時よりも、遥かにアナトが強くなっています」
『ふふ…3つの心が一つになれば!と云う事ですよ』
「うわ、そのフレーズ心が踊ります!」
「え?そうなの?」
キラキラした表情のウテナに対して、エクステリナは少し引いているようである。そんな二人を見るアナトは、懐かしさを感じていた。自身の世界に居たよく似た二人を思い出しているのだろう。
そんな会話の間にも、アナトは激しく動き回り、デスイーターを翻弄する。デスイーターは舌打ちを何度したかわからないほどに疲弊していた。
『どうしました?動きが緩慢になっていますよ?』
『くそが!俺の動きを遥かに上回るだと!?貴様本当に天使級か?!どう考えても勇者か女神級じゃねえか!!』
アナトはデスイーターの言葉に対して、自身の顎にあたる部分に手をやり、薄笑いを浮かべるような仕草を見せる。
『私は機械天使を名乗っていますが、天使であるとは一度も名乗っていませんよ』
『な、に?!』
一旦動きを止めると、アナトは手に持ちし大太刀を天に掲げる。
『我は惑星ソラス監察官久能佑哉に創造され、戦神サガにより選ばれし勇者、機鋼甲冑アナトである!!』
アナトはデスイーターにそう告げると、全身と大太刀の刃を虹色に輝かせる。そして刃を斜めに構えると大太刀は更に激しく光りを放った。
『機械人形如きが勇者だと!神共は狂ったか!?』
『不遜な…確かに私の外装は機械ではありますが、私自身は元々が光の精霊です。そう、元々私はあなた方が恐れる、光そのものなのです!』
激しさを増す大太刀にアナトが更なる力を注ぐ。そしてウテナはトリガーを引いた。
『裂光斬!!!』
光の粒子が大太刀を包み、虹色の軌跡を見せると空間までも斬り裂いて、後ずさるデスイーターの体を虹色の光が寸断した。
咆哮をあげるかのように天を睨んだままの姿で、デスイーターは真っ二つとなり光の粒子へと変換されていく。
既にその意識はない。
キラキラと虹色の泡沫が、フワリフワリと天へと昇って行った。
凄まじいほどの力を発揮したアナトであったが、搭乗する二人への負担はさほどではなかったようだった。元々が二人乗りであったアナトが、真の力を発揮した恩恵とでも言うべきだろう。
コックピットの二人は、美しい虹色の泡沫をうっとりと眺めていたのだった。
「では、アナト殿。私の名を知っていた理由をお聞かせ願いたい」
「以下同文~!」
エクステリナとウテナの詰問に、アナトは少し困ったように空を見上げる。
『そうですね…どこから話せば良いものか…』
そうしてアナトは異世界の物語を語り始めた。
異世界の惑星ソラス、そこへ転生したこの世界の住人、久能佑哉。そしてその仲間達とが繰り広げた英雄譚。ウテナとエクステリナには夢物語のようにも聞こえる。しかし、彼女達は真剣にアナトの話しに聞き入っていたのだった。
『その世界に於いてはウテナ様は我がマスターの第二正室であられました。そしてエクステリナ様は、そのご正室達を守る後宮近衛団ヴァルキュリアの初代団長で…しかも後世に於いて輪廻転生されて、マスターと女神様の第9子、最強の力を持つ聖勇者であったのです』
二人からすれば、あまりに突飛な話しである。しばらく呆然としているようだった。
「つ、つまり我々はその方達の同位体であった為に、貴女の知る所であったと云う事で宜しいのですね?」
『概ねそう云った所です』
「つまりアナトと私達は異世界からの繋がりを持った…お友達!と云う事なのですよね♪」
アナトはウテナの言葉を嬉しく思った。こちらの世界のウテナもまた、機鋼甲冑を友と呼んでくれる…この方はきっと何処の世界へ行っても変わらない…と。
「事情は判りました。そのような運命で繋がっているとなれば、私も協力しましょう。軍も壊滅している状態ですし、貴女に付いて行く事が今の私には最善と思います」
この方もあちらの世界と変わらず御堅い…アナトはそう思い、心の内で苦笑した。
『残るアメリカの妖魔は1体です。お二人の力、存分にお借りいたします』
「勿論ですよ!」
「ええ、アナト殿。…あと出来れば私に対しても少尉同様に呼び捨てでお願いしたい」
ウテナがエクステリナの横でニヤリとしている。
「そうですね!これからは仲間ですからね、エクステリナ♪」
ウテナに呼び捨てられて、エクステリナは少し苛立った表情になっている。
「何故でしょう?少尉に呼び捨てられるとイライラします」
『ふ、ふふふ』
二人の遣り取りにアナトは笑い出していた。あの世界とは異なる立場、異なる力を持ちながらも、二人の関係性はあの世界と良く似ている。
アナトはそう思ったようだった。
今のアナトに今のユーヤとマリが乗ったら…
あ、二人共神になってるから次元崩壊とか起こしそう
この世界自体がなくなるわw