プロローグ
暇を持て余した神々の遊びに巻き込まれた人間達のお話です
いきなりちょっとヘビーな内容かもしれません
寒い。コンクリートうちっぱなしのベランダに横たわりながら少年は思った。一体いつからここに放置されているのか、空腹感が酷い。ジングルベルが微かに聴こえた、あぁ今日はクリスマスだった、プレゼントを買ってもらってはしゃぐ声を聴きながら、少年は何年もそんなクリスマスを送ってない事を思い出していた。
少年の本当の父親がいた頃は今の父親と出会う前は家族でお祝いをしていたのだが、今の父親とであって母親は変わってしまった。
今の父親と一緒に暴力を振るうようになり、食事も粗末な物を数日に1回与えられるようになった。
理由のわからない暴力に少年は声を殺して、しかし何時か2人が愛してくれるに違いないと信じて、虐待に耐えていた。
おかあさん、おとうさん、ごめんなさい。家に入れて。もうじゃまなことはしないから。
乾いた唇で呟かれた言葉は白い息と共に雪の降る曇天に消えていった。
自然と涙が溢れる、瞼が重い、呼吸するのすら辛い。
思考が停止するー心音が弱々しくなっていく。少年は確実に死に向かっていた、ガリガリに痩せた少年の体は酷く重く、動くのすら億劫で、抗いがたい眠気が少年を包んでいた。
その日、1つの惨めで哀れな命がその弱々しい灯火を消した。
それを観ていた退屈な神は気まぐれにその魂を異世界に転生させる事に決めた。
ー。
声がする。
ー。
確かに自分の事のであろう、だが幾万の声が一斉に呼んでいるようで、上手く聞き取れない。
「んんっちょっと上手くリンク出来ないな。これ位かな?」
急に透き通った少女の声になり、少年は重い瞼を開けた。
「だれ?」
金を細い糸にしたような髪のこの世のものとは思えぬ美少女がその夜のいちばん深い所のような深い蒼の瞳で少年を見下ろしていた。
少年の問いかけに少女は薔薇の花弁の様な唇で微笑んだ。
「私は、ー。あぁ、人間には認知出来ないかな?えぇとまぁありきたりだが神とでも名乗っておこう」
「かみさま?」
「そうだよ、ー。んんっリンクを維持するのはちょっとばかし骨が折れるな。
とにかくキミはさっき死んだ」
大袈裟に腕を広げ、退屈な神はそう言った。
「嗚呼何たる悲劇か!キミは実の母親に殺された!
可哀想にねぇこんなに小さい子供を殺すなんて鬼畜の所業だねぇ」
芝居がかった口調と仕草で退屈な神は言った。少年はぽかんとその様を床に座りながら見上げるしかない。頭の中がぐるぐるとして考えがまとまらない、そもそも年端もいかない少年には神の言った事が理解できない。
「しんだってどういうこと?」
「んんっ説明が難しいな!存在の消失?魂のみの存在になった?んーどれもしっくり来ないなぁー」
腕を組んで考え込むと、まいっか、と神は言った。
「んで、だ。あんまりにも酷いからキミを異世界に転生させる事にしたよ。ハイ拍手ー!」
「いせかい?てんせい?」
「あー聞きたいことは沢山あるだろーけどコレって法に抵触する割とダーティーな事なのよね。ま、転生先の神は私の友達だし、私よりよっぽど良い奴だから、悪いようにはしないと思うよー。」
そう言うと、ゴソゴソと白いローブのポケットからなにやらボタンのようなものを取り出した。
「悪いけど、生まれとかそういうの完全ランダムなのよね。まぁせいぜい良い人の所に生まれ変わるんだよー!ファイト!」
まだ状況の飲み込めない少年にサムズアップでウインク1つで神はポチッとなとボタンを押した。少年のへたりこんでいる床が消えて重力に逆らえずに叫び声をあげながら少年は暗闇に落っこちていった。
残された退屈な神はうーんと伸びをするといつの間にかそこに現れた水晶玉を覗き込み、少年の行く末を観察し始めた。
「送り先はリンドブルムで良かったよね。べるっちにも伝えとかないとな!」
哀れ少年は暇を持て余した神の玩具として異世界へと送られる事となった。
リンドブルム、数年前突如現れた魔王に蹂躙されていたこの世界は、1年前に神に選ばれた勇者と仲間たちが魔王を倒しようやくに平穏な日々を取り戻し始めていた。
そんな世界の貧しい1軒の農家で、1人の男の子が産声をあげた。
貧しいながらも男の子は両親や近所の人の愛情を一心に受けて健やかに真っ直ぐに育っていった。
事件が起こったのは、男の子が7歳となった時であった。日課の薪拾いから帰ってきた男の子を出迎えたのは愛情を注いでくれた両親の死体であった。
急いで駆け寄った男の子の首根っこを掴み軽々と持ち上げたのは山賊であった。周りを見渡してみれば数人の山賊が武器を手に笑っていた。男の子の目から涙が溢れる、憎しみと恐怖に。山賊は大きく笑うと、男の子を手に持ったままその場を後にした。遠ざかって行く両親の死体に男の子はひたすらに泣いていた。
それから男の子は同じ位の年頃の少年少女が集められた檻にほおりこまれた。やがて、檻の片隅で泣いていると、山賊が1人の男を連れてきた。
ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべた痩せた男は檻の中を一瞥すると、なにかが入った袋を山賊に渡した、山賊は袋の中に手を入れるとその中から金貨を取り出した。じゃら、と金貨の詰まった袋を懐にしまうと、山賊は鍵を男に渡した。男はニヤニヤとした笑みはそのままに檻の中にいる子供達に一言、出ろ、とだけ言った。子供達は泣きながら男の指示に従って外に出た。
外には檻のついた馬車があり、鞭を持った男達がいた。
「乗れ」
子供達は怯えながらひとかたまりになって馬車に乗った。子供達が乗り終えたのを確認した痩せた男は檻に鍵をかけると、馬車に乗り込み、周りの男達に行くぞと指示をだした。
「あー、コレヤバいんじゃね?」
暇を持て余した神はポリポリと頬をかいて横に立つ長身痩躯の黒髪に血のような深紅の瞳の不自然な迄に美しい顔立ちの男に声をかけた。
「そもそも卿の気まぐれに付き合わせたのだろう。それにここで人攫いに攫われてくれねば“あの男たち“に会えぬ」
「マジであの子達に預けるん?危なくね?」
「問題無かろう」
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